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Listening:<戦後70年>日本は戦後70年をどう迎えるべきか(その1)

2014年10月27日

エズラ・ボーゲル・米ハーバード大学アジアセンター ヘンリー・フォード2世社会科学名誉教授
エズラ・ボーゲル・米ハーバード大学アジアセンター ヘンリー・フォード2世社会科学名誉教授

 戦後70年とは、戦争を知る人が少数となり、戦後という時代の成り立ちへの理解がよりあいまいとなる中で迎えるのが大きな特徴である。では、この70年をどう問い直すのか。米国を代表する社会学者であるエズラ・ボーゲル米ハーバード大名誉教授と、慰安婦など過去の責任を問い続けてきた大沼保昭・明治大特任教授に語ってもらった。

 ◇隣人の心情、理解を 右傾化や挑発、禁物−−米ハーバード大名誉教授、エズラ・ボーゲル氏

 −−戦後70年の国際情勢をどうみますか。

 大きな変化がみられるのは中国と韓国だ。特に最近の10年間は中国と韓国が自信をつけた。経済力、技術力に加え存在感もある。中国や韓国は最近までお金も技術も日本に頼ってきた。今は自信満々で日本にお辞儀する必要はないと思っている。昔は日本をけしからんと思っても言えなかったが、今は言えるようになった。日本にはその反発があって、愛国主義が高まっている。第二次世界大戦後の世界秩序を守ってきた米国は力が足りなくなった。環境問題やテロリズム、地域紛争を解決し、経済成長や開発を進めるには世界の協力が必要だ。

 −−中国や韓国の自信が東アジア情勢に影響を与えていると。

 オバマ米大統領が中国の習近平国家主席と話す時間は、日本の安倍晋三首相よりも長いと言われるほどだ。国連事務総長は韓国の潘基文(バンキムン)氏だ。ただ、米国の力になってくれるのは同盟国の日本だろう。東アジア諸国は日本が全世界の問題に協力してもらいたいと考えている。だから安倍首相が国際貢献を強くしたいというのはいいことだと思う。

 −−中国の世界戦略をどう読みますか。

 中国人自身も戦略ははっきりしていないと思う。だから全世界の人が心配している。愛国主義とか外国に尊敬されたいという気持ちが強く、今は世界で非常に成功している国だと考えている。そして中国と米国が世界で一番偉いと思うようになった。それが、中国が求める米国との「大国関係」だ。日本を含めて欧州や他の国は、米国と中国の下にあるんだぞという気持ちだと思う。

 −−「チャイナ・アズ・ナンバーワン」ですか。

 経済力としての「世界一」はいずれ間違いない。世界で経済規模が第2位となった中国の協力がないとあらゆる全世界の問題を解決できなくなった。だから、米国は中国と話し合う時間が多くなった。問題は中国がどこまで協力するのかだ。技術力や軍備は米国が上だし、世界への影響力も米国だ。東シナ海や南シナ海を実際にどうしたいのかはわからない。個人的に思うのは、中国はかなり実務的だ。本当にほしいと強く思わなければそのままにしておく。実際の力関係で決めると思う。

 −−日中、日韓関係がよくないのは、日本の右傾化が一因との見方もありますが。

 日本は少しそうなって(右傾化して)いると思う。愛国主義は誰にでもあるが、悪い面が大げさに出るのはよくない。安倍首相だけでなく日本人はもっと自信を持ちたいという気持ちがあるのだと思う。ただ、安倍首相がまた靖国神社に参拝すると困る。米国には「失望」以上のことを思っている人もいる。中国や韓国を挑発しないことはとても重要だ。

 −−日本と中国・韓国の間で、戦後のドイツと英仏のような和解はできませんか。

 大戦後の欧州ではすぐに仏独が鉄を作るために協力した。経済を通じて戦後のことを話し合えた。しかし、アジアには冷戦構造が残り、中国の共産党とはほとんど関係がなかった。韓国は軍政で日本とは平等に話せなかった。だから、第二次大戦の問題を解決できなかった。日中が密接な関係になるのはニクソン米大統領が訪中した1972年から、日韓は日韓基本条約の65年からだ。

 関係改善には、日本人が相手の気持ちをわかる努力をすることが必要だ。今は十分にわかっていない。例えば南京事件で30万人を殺したわけじゃないんだと日本人は話す。それは事実だろう。しかし、中国人と話せば絶対に通じない。悪いことはしていないと聞こえる。相手の考え方と問題意識を理解する教育が大事だと思う。

 慰安婦が何万人だったというのはいろんな見方がありうる。しかし、人数がどのぐらいだったとか、南京事件は大げさだというのではなく、日本が悪いことをしたと世界に説明すれば中国や韓国は納得すると思う。

 −−保守派の政治家には中国や韓国にはずっと謝罪してきたのになぜ理解されないのかという思いがある。

 それは日本人の見方だ。歴代首相は謝ってきたと。でも、中国や韓国には指導者の謝罪だけではなく、国民の気持ちが大事だという思いがある。普通の日本人に「南京事件は本当にひどかった」と思ってもらうことを求めている。ただ、日本が軍国主義になるのかどうかについて中国は日本を理解していない。安倍首相は軍国主義の政策を支持しないと思う。だから靖国参拝のときの中国や韓国の反応は少し過剰だと思う。

 −−日米、日米中関係はどうあるべきだと思いますか。

 集団的自衛権の行使容認などは、世界秩序を考えているワシントンの人たちは評価している。日本に不測の事態があれば米国は助けるから、世界の問題に日本は協力すべきだというのが彼らの意識だ。米中は安定した合理的な関係をつくればいいと思う。経済での競争には秩序がある。お互いに友達ほど仲は良くないが、競争しつつ安定した関係を築くべきだと思う。

 −−「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の35年前と比べて日本の現状をどうみますか。

 日本の戦後は、占領軍が去った52年のサンフランシスコ講和条約発効から政治・経済の構造が決まる55年までの3年間が非常に大事だった。この間に日本人は自分たちの進む道を決めた。まず平和を守りたいと決意した。(保守対革新の2大政党による)政治だけでなく、(復興時の)経団連の役割は大きく、労働問題を春闘で決めていく構造ができあがった。「55年体制」は非常に重要だ。

 現在は、世界の問題を解決するための協力も必要だろう。日本は90年代以降、毎年のように首相が交代し、長期的なビジョンを考えてこなかった。中国の場合は社会科学院があり、世界の問題を研究している。日本も研究所はあるが、米国や中国と比べて限定的だ。シンクタンクをもう少しつくって全世界の課題を研究するといい。

 −−戦後70年で日本は世界に何を発信すべきでしょう。

 日本のイメージは世界でとてもいい。大体の国が日本を好きだし、平和的だという。日本は戦後に歩んだ道を大事にすべきだ。第二次大戦で日本は悪いことをしたが、戦後は平和の道を歩いてきたという話をすべきだと思う。東アジアの安定には、日中、日韓関係は非常に重要だ。日本が中国や韓国のことをよく勉強すれば、日本と米国の見方はそう違うことにはならないし、中国、韓国、米国との関係はよくなると思う。【聞き手・ワシントン及川正也】

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 ■人物略歴

 ◇Ezra Vogel

 1930年生まれ。日本、中国研究の権威。93年から約2年間、米国家情報会議情報官。著書に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」「現代中国の父トウ小平」。

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