公的年金の積立金の運用を政府が改革しようとしている。論点は①積立金を運用する資産の中身②運用機関の意思決定のあり方の2点だ。

 論議の対象は、約130兆円を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)。従来、国債などの国内債券に60%、国内株式と外国株式に各12%などという基準で運用していた。これに対し、政府の成長戦略にもとづいて設置された有識者会議が昨年11月の報告書で、国内債券の比率を下げるよう提言した。GPIFは国内株式などの比率を上げる方向で検討している。

 超低金利が続き、国債中心の運用を見直すことは理解できる。が、積立金は国民全体のものだ。見直しには、国民の理解を得ることが欠かせない。安倍首相は「できる限り早く見直しを行いたい」としているが、まず急ぐべきは、GPIFの意思決定のあり方の改革だ。

 GPIFには現在、大学教授やエコノミストらから成る運用委員会があり、運用方針について議論するが、決定の権限や責任はない。決定権を持つのは理事長1人。130兆円の運用を担うには、心もとない。有識者会議は、合議制の意思決定機関である理事会の設置を提案した。一つの選択肢だろう。

 理事会では、投資先の資産配分を決めるのはもちろんだが、その前提としてどの程度のリスクを受け入れるのか決めることが大切だ。一定の運用益を期待するために、国民はどこまでリスクを許容するのか。そのバランスを熟慮し、決定内容を国民に説明する責任がある。

 政治からの独立性を保つことも大切だ。公的年金が政治の圧力で株価対策に使われた例が過去にあるからだ。

 参考になるのは日銀だろう。日銀の金融政策は、総裁、副総裁と審議委員で構成する政策委員会で決定する。委員会後には、決定事項にだれが賛成し、だれが反対したのかが明らかにされる。日銀も政治の圧力にさらされているが、政府と対立する決定をしたこともある。

 だれがどう人選をするのか。海外の公的年金では、担当大臣らが指名委員会を選び、具体的な人選はその委員会に委ねている例もある。GPIF改革でも慎重な制度設計が望まれる。

 気になるのは、今回の改革論議の出発点が成長戦略にあることだ。年金の積立金は経済成長のためにあるのではない。将来にわたって安定的に年金の給付を続けること。それを最優先にしなければならない。