堀込泰三 - HOW I WORK,デザイン 08:00 PM
日々のスクリーンタイムはサーフィンで解毒:Macアイコンを生んだデザイナー、スーザン・ケアの仕事術
敏腕クリエイターやビジネスマンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ第78回。『ヤバい経済学』の共著者スティーブン・ダブナー(Stephen Dubner)氏に続く今回は、グラフィックデザイナーのスーザン・ケア(Susan Kare)さんにインタビュー。
ケアさんは、グラフィックデザイナーとして数々の実績を残していますが、中でも評判が高いのが、彼女の初期作品である初代Apple Macintoshのアイコンとフォントです。わかりやすくて感情に訴えかける、それでいて気の利いたアイコンは、その後のグラフィックユーザーインターフェースの標準となりました。
ケアさんはその後も、NeXT、Microsoft、IBMなどと仕事を続け、限定的なデジタル空間に魅力的なデザインを取り入れてきました。彼女の文字通りのアート作品は、サイト「Kare Prints」で見ることができます。そんなケアさんに、愛用している商売道具や生産性を高めるコツなど、仕事術を聞いてきました。
氏名:スーザン・ケア(Susan Kare)
居住地:カリフォルニア州サンフランシスコ
現在の職業:Susan Kare User Interface Graphics、Kare Prints
現在のコンピュータ:MacBook Pro
現在のモバイル端末:iPhone 5sを、「Lifeproof Realtree Fre」のケースに入れています(同じケースに入れていた1つ前の電話は、サンタクルーズの海で紛失し、4週間後に発見されましたが、まったく普通に動作していました)。
仕事スタイル: モーレツに
── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?
仕事中はほとんど、「Photoshop」か「Illustrator」を使ってアイコン、ロゴ、グラフィックのデザインをしています。画面に表示するものはすべて画面上でデザインします。マウスを使ってフリーハンドで描くこともあれば、ラフなイラストには画像トレースを使うこともあります。デジタル以外の世界では、表紙がクールなノートと、最新のジェルペンを使ってスケッチをするのがお気に入り。それらの文房具は、ジャパンタウンの「Maido」で購入しています。
── 仕事場はどんな感じですか?
多くの人と同じで、ラップトップさえあればどこでも仕事ができます。でも、サンフランシスコにあるオフィス(ほとんどの時間をコンピュータに向かって過ごす)には、私の人生において重要なモノが集結しています。
3人の息子たちが描いたアート作品、Mary Wagstaffによる海の絵、大きなウシの頭蓋骨、先日休暇で行ってきたメキシコペスカデロで入手したカジキの絵が描かれた編み上げのブランケット、かつてのAppleの同僚と私が笑っている写真などです。もちろん、本や膨大な量の文房具、アート関連用品なども、大きなキャビネットに入っています。
── お気に入りの時間節約術は何ですか?
メールする時間を1時間に抑えたいですね。小さな工夫としては、仕事中に邪魔が入らないよう、メールのアラートは消しています。それから、毎朝いちばんに、愛犬のオーストラリアン・シェパードと一緒に走ることにしています。そのとき、電話は持ちません。おかげでその時間は、考える機会になっています。
── 愛用中のToDoリストマネージャーは何ですか?
18ポイントのGaramondフォントで番号付きの箇条書きリストを作り、毎週プリントアウトするという、昔ながらの方法をとっています。すべてを完了することはあまりありませんが、完了した項目に太い線を入れるときの感覚が、満足感を与えてくれます。過去のリストを振り返って、自分の進歩を感じるのも嬉しいですね。
── 携帯電話とPC以外で「これは必須」のガジェットはありますか?
インスピレーションを得るために、いつもiPhoneで写真を撮ってますね。つまり、私がいちばん依存しているのは、やっぱり携帯電話とコンピュータです。それ以外では、1インチピンバックボタンメーカーと、丸型のパンチがお気に入り。クライアント用の楽しいお土産を作ったりしています。ちょっと時代遅れだけど、いつでもカバンに入れているのは、No.2(HBと同等の濃さ)の鉛筆と、質のいいポータブル鉛筆削りです。
朝は、Capresso frothPROとBialettiで目を覚まします。
── 日常のことで「これは他の人よりうまい」ということは何ですか?
他人よりうまいことなんてわかりませんが、大好きなのは料理です。予告もせずに、たくさんの人に食事を作ったり。特に、ブランチが好きですね。豪華なフルーツサラダと焼き菓子。何年にも及ぶ実験の末、ようやく最高のパイ生地を作れるようになりました。フードプロセッサーは使わずに、材料をまな板で切るのがコツです。
── 仕事中、どんな音楽を聴いていますか?
基本的には静かな方が好みです。もしくは、打ち消せる程度の騒音なら気になりません。Pandoraでお気に入りの局もあります。「Haim」「Chromeo」「Al Green」などです。それから、テレビの音声を聴くのも大好きです。ドラマ『Arrested Development』はあっという間に聞き終え、『Orange Is The New Black』のセカンドシーズンも、発表と同時に消費しましたね。
── インスピレーションはどこから得ていますか? お気に入りのアーティストはいますか?
いろんな場所でいろんなモノを見て、インスピレーションを得ています。ビーチでの凧揚げ、ネオンサイン、ビンテージカー、おもちゃ、クラフト、電柱に貼られたステッカーなどです。美術史の勉強をしていたのでファインアートを見ることが多いのですが、多方面にわたるコレクションを見ることも大事だと思っています。例えば、California Academy of Scienceの頭蓋骨ショーなど。好きなデザイナーは、チャールズ・イームズ、ミルトン・グレイザー、ポール・ランド、チップ・キッド、それからメキシコのイラストレーターFederico Jordanなど、数えきれません。
── ユーザーインターフェースやソフトウェアのアイコンは、わかりやすさと見た目の美しさを併せ持つ必要があると思いますが、アイコンデザインの「ルール」は、ここ数年で変わってきていると思いますか?
いいアイコンは、信号機のような働きをするべきだと思うんです。つまり、無関係なものを排除したシンプルなデザインにすることで、よりユニバーサルになるのです。ソフトウェアツールはずっと進歩を続けてきましたし、デザイナーが取り組む画面の解像度も上がっています。それでも、意味があって覚えやすい画像開発の目標は、いつまでも変わらないと思います。
── 現在、どんな作品に取り組んでいますか?
たくさんのデザインを楽しんでいます。Kare Prints向けの新しいファインアート、アイコン開発、ロゴ作成、大きなアイコン壁画などなど。いちばんオモシロかった体験は、スウェーデンのヨーテボリで、とあるビルの壁にクレーンから時計のアイコンを描いたこと。このところ、アイコン関連商品でコラボレーションをすることが増えています。例えば、ブルックリンのデザイン会社「Areaware」と、ソリティアのカード一式を作りました。キャンバスにも絵を描きますが、最近描いたのは、黒い旗にどくろマーク。1983年にAppleで掲げていた旗の再現です。
── 現在、何を読んでいますか?
「Surfer's Journal」から「Elle」、「Economist」に至るまで、あらゆる種類の雑誌を、貪るように読みます。それと今は、ジョーダン・エレンバーグの『How Not to Be Wrong: The Power of Mathematical Thinking』も読んでいます。数学者みたいに考える方法を教えてくれる、楽しくて考えられた本です。
それから、Brady Udallの小説『 The Miracle Life of Edgar Mint』を買ったばかりです。彼の小説『The Lonely Polygamist』がオモシロかったので。
── あなたは外向的ですか、内向的ですか?
両方です! ひとりで仕事をするのも、コラボレーションも好きです。パーティばかりしているわけではありませんが、友人や同僚と一緒にいることは快適です。
── 睡眠習慣はどのような感じですか?
遅くまで楽しんで仕事をしています。静かで邪魔の入らない夜の時間が、いちばんクリエイティブになれるので。おかげでしょっちゅう寝不足です。この悪い習慣は大学時代からのものだと思います。あの頃はよく、印刷スタジオで皆が帰るのを待っていました。そうすれば、機材を独り占めできたので。デザイン系の人はそういう傾向があるのではないでしょうか? なぜなら、Appleで働いていたとき、グループの人はたいてい、ランチ時間に出社して夜を徹して働くというパターンでしたから。
── あなたが受けたものと同じ質問をしてみたい相手はいますか?
ファレル・ウィリアムスに聞いてみたいですね。彼は、さまざまな領域で、クリエイティブな作品を残しています。
── これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください
父にこう言われたことがあります。問題のない人生などありえない。でも、自分で状況を変えて、別の問題を抱えることはできると。あまり明るい話ではありませんが、現実的なアドバイスなので、役に立っています。仕事で使っているノートには、私のグラフィックの英雄、ポール・ランドによるアドバイスが書いてあります。デザインは科学ではない。だから、デザインの問題に、「正しい」解決策など存在しないのだと。
── そのほかに読者に伝えたいことがあればどうぞ
家族とのサーフィンが私にとって何よりも喜びで、私のクルマは、サーフステッカーでいっぱいです。家族でとりとめもなく、波や板について話しています(私のお気に入りの板は、Peason ArrowのJosh Mohrモデル)。
「Magic Seaweed」「QuikCAST」「Surfline」「Pacific Waverider」のようなアプリも好きですが、そのようなスクリーンタイムの解毒剤として、サーフィンが向いているのだと思います。
気になるチャリティは「Surfers Healing」で、自閉症の子どもたちを波乗りに連れ出して、素晴らしい結果を導いています。
Andy Orin(原文/訳:堀込泰三)
Photo by Ann Rhoney.