赤瀬川原平さん死去:並外れた面白がり方
毎日新聞 2014年10月27日 03時02分(最終更新 10月27日 03時30分)
美術家・作家の赤瀬川原平さん(77)が26日亡くなった。異能の人、天才肌と称されたが、作品では人間から小動物、物品まで等しく優しい視線で見つめ、家族の前でも決して声を荒らげない温厚な人柄が広く愛された。常にユーモアを絶やさず、2011年に胃がんと脳卒中をわずらった後は、それぞれの病気から回復した王貞治、長嶋茂雄両氏にたとえ「いやあ、ON(王、長嶋氏)両方やっちゃいました」と周囲を笑わせた。
多彩な創作活動で知られる赤瀬川さんは「ある程度やると飽きちゃうんです」とも語っていたが、対象への執着、集中力、面白がり方が並外れていた。作品は肩の力が抜け緩そうに見えるが、2Bのシャープペンで書きつづる執筆では一字一句にこだわり、小さな修正も厳しく抵抗した。
昨年夏、入院先で妻の尚子さんに「赤瀬川原平をやめようかな」と漏らした。脳卒中の後、友人には「言葉の面白さがわからなくなった」と話している。それでも療養中、医療情報誌「からころ」に書いたコラムは、持ち味の諧謔(かいぎゃく)が光っている。
<病気はチャンスだと思う(略)一定期間、病気の世界を通り抜けていく。いわば病気観光、病気旅行だ><病気をくぐり抜けた人の話は面白い。(略)病気でなくて貧乏もそうだ。貧乏を知らない人の話はいまひとつ味わいがない>(「健康半分」)とつづり、例として内田百ケン、熊谷守一を挙げていた。
文章には赤瀬川さんらしさの「核」があるが、「原平をやめたい」と吐露したのは、自分が厳しく敷いた面白さのレベルを「維持できないと悟ったからではないか」と尚子さんは言う。表現への深い情熱、真摯(しんし)さの表れだった。【藤原章生】