僕は日頃、外国の株の事ばかり書いているので「アイツは日本嫌いなんじゃないか?」と思う読者が多いです。でも日本のことは大好きだし、日本人は世界で最も優秀だと心の底から思っています。

日本株の株価収益率(PER)は、過去12ヵ月の一株当たり利益(EPS)に基づいて、ざっと19倍くらいだと思います。また株価純資産倍率(PBR)なら1.79倍くらいでしょう。市場全体の利回りは1.45%です。これらは、決して割高な水準ではありません。

今はアベノミクスをやっている最中なので、政治的に株高が演出されているわけで、その意味において日本株は今後も高いと思っています。

でもそれと「日本株にワクワクする?」というのは別問題です。

ハッキリ言わしてもらえば、日本株にはワクワクするようなストーリーはありません。

それはなぜか?

ひとことで片付ければ、ヒーロー不在だからです。

そういう言い方でわからなければ、スティーブ・ジョブズ、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジェイミー・ダイモンetc.という「絵になるキャラ」に不足しているわけです。

Market Hackでは、リーダーシップについて書くことが多いし、キャリアアップの話題もしばしば取り上げます。その関係で「マケハはエリート主義的だ」と思われているんですね。

それは、ある意味、当っていると思います。

でも僕自身はぜんぜんエリートじゃないし、それどころかむしろ落ちこぼれ人生をずっと歩いてきました。だからエリートという言葉には虫唾が走る思いをずっとしてきたし、じんましんが出るほど、そういうものを嫌って来たんです。

でもアメリカへ来て、本当のエリートというものに接して、考えが変わりました。

じゃあアメリカのエリートって、何? ということですが、これは例えて言えば海兵隊(US Marines)です。

彼らは何かが起こると最初に出て行って、一番不利で、一番危険な任務をまかされ、そして命を落とすわけです。

死んだら、ハイそれまで。

もちろん米国民は海兵隊のことをヒーローとしてまつりあげ、敬意を表するわけだけど、こういう言い方をしたらなんだけど、一日経てば、もう忘れられているわけです。

それじゃ海兵隊員はそんな米国民の移り気さを恨んでいるかって?

それは恨んでないと思います。

そこにやらなきゃいけない任務があるから、遂行する……ただそれだけのことです。つまり自分の心の中で折り合いをつけているし、任務を全うすることに充実感ないし満足感をもっているわけです。

アメリカのビジネスや政治の世界ではどうでしょう?

恵まれた環境に育ち、天賦の才能を与えられた者たちは、進んで困難を買って出て、人一倍苦しみ、世間から感謝されようが、感謝されまいが、自分の信ずるところを貫きます

スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクは、別に世間から認められようとかみんなから愛されようとして起業したわけじゃないと思うのです。

自分が納得するまで、或る事をとことん追求することを通じ、生産的なカタチで社会に貢献する……そういう偉業を成すことを、この世で最も尊い行いだと信ずる、勇士、ないしは女傑的なキャラ、、、

これはアイン・ランドが『肩をすくめるアトラス』の中で描いた、ヒーローやヒロイン像です。

そして我々の住む社会が、うまく回って行くには、そういう機関車的な役割を果たすエリートが必要なんじゃないか?

という考え方が、オブジェクティビズムなのです。

ところが、自分が納得するまで、とことん或ることを追求しているだけの、そういう人たちに対して、社会はひどい仕打ちをします。

彼らは、後ろ指さされ、糾弾されても挫けません。

アメリカでアップルやテスラの株に投資をするということは、その株を保有するということを通じて、そういうヒーローやヒロインたちが、今まさに生きている神話を、自分も生きるということに他ならないのです。

日本株が面白くない一つの理由は、そういうヒーローが出てくると、集団同調圧力でもって、すぐに潰しにかかるわけです。ホリエモンの事件なんて、その典型だと思います。

そういうケチな根性が、上から下まで国民全体に染み付いているわけです。

日本人は、めちゃくちゃ優秀なのに、なぜ日本がダメダメなのか、誰も本気で考えようとしません。

「出る釘は打たれる」という諺があるけれど、その行為がどれだけわれわれを経済的に、そして精神的に貧しいものにしているかという点に対する自省の念は、これっぽっちもありません。

繰り返し言えば、日本株が面白くないのは、神話が無いからです。

日本に欠けているのは、たまたま恵まれた環境に育ち、天賦の才能を与えられた者たちが、進んで困難を買って出て、人一倍苦しみ、世間から感謝されようが、感謝されまいが、自分の信ずるところを貫くという、真のエリート主義です。

ときどき稀にヒーローが出てくると、集団同調圧力でもって、すぐに潰しにかかる国民性が、日本という国を『肩をすくめるアトラス』に描かれたような、息の詰まるディストピア(愚民国家)へ落としているわけです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

【お知らせ】
Market HackのFacebookページに「いいね」することで最新記事をサブスクライブすることができます。
これとは別にMarket Hack編集長、広瀬隆雄の個人のFacebookページもあります。こちらはお友達申請を出して頂ければすぐ承認します。(但し本名を使っている人のみ)
相場のこまごまとした材料のアップデートはMarket HackのFacebookページの方で行って行きたいと考えています。