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2014年10月26日 (日)

L型大学のモデル

本ブログが先週木曜日に取り上げた実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議の冨山和彦さんの資料が、ネット上で大騒ぎを引き起こしているようで、すでにそのエントリへのツイート数が1000件を超えていますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-e593.html

冨山さんのプレゼンの変なところが増幅されて伝わっていることもあってか、批判的な意見が多数を占めて、池田信夫氏のような逆張り論者が褒めちぎるというあまりよろしくない状況に陥っているようです。

冨山さん自身、職業教育論におけるこの問題の経緯をあまりわからないまま、自分の経験と世間的常識論で論じているところがかなりあるようなので、そこをきちんと指摘していくことは必要なのですが、反応の大部分がその大学教育を受ける人々の立場に立ったものではほとんどなく、もっぱら(学生のその後の人生を豊かなものにするには効果を持たないけれども)その大学という名の職場で教授という名の安定した雇用機会を提供するという効果だけは間違いなくあることにしがみついたような議論であることは、正直この国のアカデミックな人々の姿を映し出している感もなきにしもあらずというところです。

なんにせよ、

Toyama

というような本来の議論からすれば枝葉末節のところのわけわかめな認識ばかりが増幅されていくと、話があらぬ方向にばかり転がってきかねませんので、本来ならば教育学や教育社会学の方々がきちんとその専門的知見を展開すべきところではありますが、その横の労働関係から見ているだけの私が、この騒ぎのもとを広げた責任をとって、冨山さんのいう「L型大学」の考えの元になっている欧州諸国の職業専門大学について、人の書いたものを引用する形で、せめてもの解説をしておきたいと思います。

これは、拙著『若者と労働』でも、

Chuko ドイツのデュアル・システムというのは、中世のギルド制度に起源を有するとも言われる仕組みですが、一言でいえば学校教育の枠組みの中で、学校における座学と企業現場における実習とを組み合わせる仕組みです。主としては後期中等教育つまり高等学校レベルですが、最近は高等教育つまり大学レベルでも結構盛んに行われるようになっているようです。

・・・なお、これまでデュアル・システムは主として高校レベルで行われてきましたが、近年の大学進学率の上昇に対応して、同じようにデュアル・システムで勉強しながら職業技能を身につける専門大学という教育機関が急速に拡大してきています。大学など高等教育機関の半分以上は、こういう専門大学なのです。

とちらりと触れていますが、教育学関係ではいくつも詳しい紹介がされています。

ここでは寺澤幸恭さんの「ドイツにおける「実務型」高等教育に関する考察」という5回にわたる論文の最初のところから、ドイツの専門大学についての図表をいくつか引いておきます。

http://ci.nii.ac.jp/els/110000963675.pdf?id=ART0001131836&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1414298427&cp=

Ter1

Ter2

Ter3

Ter4

より詳しい説明はリンク先論文、さらにその後続論文等を参照いただければと思いますが、なんにせよ、「法学部では大型二種免許」というたぐいの変な話ばかりが増幅して、ものごとの本筋が見えなくなってしまうことが心配されますので、老婆心ながら横から一応の解説をしました。

これで済む話でもないので、教育学や教育社会学の人々はちゃんとつとめを果たしてくださいね。

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コメント

こんにちは!いつもブログを楽しく読ませていただいて
おります。

今回の有識者会議における冨山氏の提出資料について、

5月のOECD閣僚理事会での安倍首相の基調演説における
発言を具体化したようにも感じられましたので、単なる
一委員の提案、以上のものを感じました。

基調講演のリンクです。
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0506kichokoen.html

ちなみに冨山氏が提議した高等教育の今後の方向性
については、2年前に出版されたこちらの本に「大学
を職業訓練校へ」という形で述べられています。
http://www.php.co.jp/30s/

今回の「実践的な職業教育」について、以前まで専門学校の高度化という形の話で大学は関係なかったので、L型大学のあり方を含めた形の議論が始まるのでしょうか。

投稿: 読者です | 2014年10月26日 (日) 14時52分

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