2014-10-26
特許は会社のもの? 発明者のもの? 特許の帰属をめぐる不毛な争い
企業で技術者が発明をした時の特許の権利について、法律が変わろうとしています。
今までは特許は発明者に帰属していたものを、企業に帰属させるという変更です。
その背景には、90年代以降に、退職した技術者(発明者)が古巣の企業に対して発明の補償金が十分ではない、という訴訟が起こるようになった。このような訴訟を避けるために企業が特許法の改正を強く求めていることが特許法改正の背景にあると言われています。
そもそも研究開発というのは、基礎的なものほど、投資が回収できる率は減ります。たくさん研究してみて、そのうち一つが事業化できればよい。
中村修二さんが青色LEDを開発した時に、研究対象の材料として当時主流だったZnSeではなく、あえてGaNを選んだのは、日亜化学という後発の規模の小さいメーカーなので、リスクを取らざるを得なかったという事情があるようです。
いまさらZnSeで開発に成功しても、事業化で先行している、より体力のある大企業に負けてしまうと。
このように企業は研究開発にリスクを負って投資しているわけですから、投資で得られたリターンとして特許の権利を企業が求めるのは、当たり前です。
そもそも、従業員の給料は企業が払っているわけですし。
アメリカでも特許は会社に帰属します。
一方、ノーベル賞を取られた中村修二さんは、この特許法の改正に猛反対していると伝えられています。
それに対して、「中村修二さんは強欲だ」と言う人も多い。
私も「特許は誰に帰属すべきか?」と聞かれたら、「研究開発に投資した企業」というのが正しいと思います。
その一方、(お会いしたことはありませんが)中村修二さんの言いたいこともわかる気もします。
技術者は専門があるスペシャリスト。専門家であるのは良い面も悪い面もあります。
専門に特化しているがゆえに、つぶしがきかない。一つの技術に注力するほど、その研究や開発が失敗した時には、個人としても失敗者になってしまう。
技術以外の職種の2−3年前に部署をローテーションして、段々と昇進していく、いわゆるジェネラリストのキャリアと対照的です。
最近は事業の変化が速く、失敗した事業は技術者ごとリストラ、ということも珍しくありません。
企業はリスクを取って投資していますが、技術者だって、自分のやっている研究や開発に自分の人生を賭けているのです。
ところが、日本の人事制度の場合は、研究がうまくいったとしても、技術者が相応のリターンを得ることは稀でしょう。
課長クラスになるのは入社してから何年、部長には何年というルールがありますので、たとえ開発が成功し、事業が大きくなって部署が増えたとしても、成功の立役者が昇進するわけではない。
ほとんどの場合は、何も貢献していない、時には邪魔さえしていた人が、本来は「成功の立役者」がつくべき役職についてしまう。
そうやって幸運にも役職についた人からすると、「成功の立役者」の技術者は「金の卵を産む存在」であると同時に、邪魔なわけです。
その結果、立役者の技術者への処遇は、「生かさず殺さず」ということになりがち。
特許の補償を巡って古巣の企業を訴える技術者の思いというのは、そうした、「報われない悔しさ」があるのではないでしょうか。
自分を踏み台にして貢献してない人が昇進して行ったのはおかしいんだと言いたいのではないでしょうか。
特許は会社のものか?発明者のものか?という論争が不毛なのは、特許の権利に限定した議論になっていること。
成功の立役者の技術者を報いるのは、特許の補償金である必要はないのです。
処遇をきちっとしていれば、「報われない」と思って企業を訴える技術者は減るでしょう。
特許の帰属が会社になった場合には、従業員から会社が訴えることはできなくなります。その代わりに、優秀な技術者は(おそらく海外の)ライバル企業に引き抜かれていくようになるでしょう。
以前に比べると日本でも技術者の転職が行われるようになりましたが、それでもまだ、「どうせ技術者は他に転職できないだろう」と技術者をいい加減に扱っていることが、問題の本質ではないでしょうか。
中村修二さんは強欲だ、と言うならば、功績のあった技術者に相応の処遇をすることが必要でしょう。
このように、特許法の改正を巡る議論で技術者の処遇をどうするべきか、という基本的な問題が置き去りにされていては、技術者のモチベーションも上がらないし、その結果として企業のためにもならないように感じます。
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