「憲法9条を保持する日本国民」がノーベル平和賞の候補になった。これをどう考えるべきか、先日の参院憲法審査会で議論になった。

 「哲学的には素晴らしいかもしれないが、賞をもらったからといって国は守れない」。自民党の丸山和也氏がこう指摘すると、民主党の有田芳生氏は次のように反論した。

 「特定秘密保護法や集団的自衛権で、日本は大丈夫かという海外からの厳しい目がある。そうした背景を考えないと」

 この日はここで時間切れになってしまったが、議論を深めるべきテーマである。

 「地方」や「女性」「政治とカネ」が焦点になっているいまの国会だが、もっと注目されていい論点がある。憲法だ。

 先の通常国会で憲法改正のための改正国民投票法が成立。これで法的手続きは調い、憲法論議は新たな段階に入った。

 もちろん、憲法改正原案が直ちに国会に提出される環境にあるわけではない。それでも自民党はすでに「環境権」や「緊急事態条項」などの創設を論点に議論を進めたいと衆院の憲法審査会で提案した。2年ほどで原案をまとめたい意向だ。

 抵抗の少ない条項を手始めに、改憲の実績を重ねようというのが自民党の狙いである。

 だが、いま議論すべきはそんなことではないだろう。

 集団的自衛権の行使容認の閣議決定は、政権内の内輪の議論だけで憲法の平和主義を大きく方向転換させてしまった。

 基本的人権など意に介さない団体によるヘイトスピーチが横行する。その主張を明確には否定しない閣僚がいる。

 日本国憲法の基本的な価値が損なわれつつあるこうした現状こそ、国会がいま、正面から論じるべきテーマである。

 自民党が野党時代にまとめた憲法改正草案は、国民の権利の尊重に「公益及び公の秩序に反しない限り」との留保をつけている。一方、冒頭に紹介した参院憲法審査会で、自民党の丸山氏はこんな発言もして野党から注目を集めた。

 「現行憲法が権利に偏重しているというのが党内の多数意見だが、私はそうは思わない。むしろ個人が強い権利を主張することで強い個人が成立し、強い国家が成立する」

 国会でこうした議論が行われていることに、もっと関心が払われていい。衆院憲法審査会は来月、盛岡市で陳述人を公募して地方公聴会を予定している。国会の外でも、様々な機会を通じ、憲法の議論を深めたい。