<東京新聞の本>
君臨する原発
どこまで犠牲を払うのか
中日新聞社会部 編
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【書評】熱狂なきファシズム 想田 和弘 著◆壊れゆく民主主義を観察[評者]横尾和博=文芸評論家「熱狂なき」とのタイトルに魅(ひ)かれた。ファシズムはヒットラーに象徴される狂熱、興奮をイメージする。しかし著者は低温火傷の喩(たと)えで、「じわじわと民主主義を壊していく」安倍政権に批判の矢を放つ。熱い、と人々が悲鳴をあげる高温ではなく、気がついたときには後戻りがきかないように仕組まれている現代のシステム。そういえば特定秘密保護法、集団的自衛権、原発再稼働、いつの間にかずるずると政権の思うがまま事態は進んでいく。 一方、ヘイトスピーチが公然と行われ、反中・嫌韓で民族排外主義とナショナリズムを煽(あお)り、貧困と格差がますます増大するモンスター社会が出現した。まさに著者の指摘するファシズムが生まれる土壌が育まれ、民主主義は瀕死(ひんし)状態。反知性主義が跋扈(ばっこ)する。著者の危機感はまた私の焦燥でもある。 著者はドキュメンタリーを撮る映画監督。『選挙』『精神』など、作品は国際的にも評価が高い。大学卒業後に渡米し、いまもニューヨークに住み、外部の視点で隘路(あいろ)にはまった日本の状況を観察する。彼は自らの映画を「観察映画」と名づける。観察映画とは、表面はテロップやナレーションの説明を除外し、BGMもないシンプルな映画。撮影前のリサーチ、打ち合わせ、構成台本をやめ、予定調和に陥らず、制作過程での発見を重視、鮮度を大事にする。先入観や思い込みではなく世界や自己、他者へ向き合う姿勢のことだ。彼が映像作家として体験してきたことなのである。その考え方がファシズムの台頭を予防する「基礎体力づくり」に通じるのではないか、と語る。 そう、熱狂、思考停止などの言葉に対抗するには冷静、思慮を置くしかない。著者も「特効薬など絶対に存在しないし、期待してはならない」と書く。正鵠(せいこく)を射ている。著者の「観察」を言葉に置き換えて一冊にまとめた本書は現代日本の絵姿を浮き立たせる。彼の観(み)たことを私たちはどのように受け止めるのか。時宜に適した評論集だ。 (河出書房新社・1836円) そうだ・かずひろ 1970年生まれ。映画監督。著書『演劇VS映画』など。 ◆もう1冊坂野潤治・山口二郎著『歴史を繰り返すな』(岩波書店)。時代の危機感を共有する二人の学者が歴史から何を学ぶべきかを語り合う。 PR情報
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