まだやるの?編 第12回

 汁かけご飯(その1) 親に隠れて楽しむ「禁じ手」の魅力

<写真を拡大>汁かけ炒飯

 酒量が半減した。

 春の健康診断の結果が出て診療所から呼び出しを受け、再検査したところさらに数値が悪くなっていたので、即専門医送りとなったのは先月のことであった。

 専門医はデータを見ながら言った。

 「お酒をやめなさい。といってもやめられないでしょ?」

 「うーん、まあそうですね。テヘッ」

 「わかっています。ではこうしてください。飲むのは1日おき。飲んでも午後9時まで。これを続ければ1ヶ月で数値は劇的に改善するはずです」

 「はい、わかりました」

お酒は1日おき、飲んでも午後9時まで

 そのときはわかったのである。言う通りにすればいいのだと、わかっていたのである。実際、その日から2日間は酒を一滴も口にしなかった。

 だがしかし3日目からわからなくなったのである。

 思えば午後9時まで原稿を書いているということがある。すると飲んでいい日であっても飲めないことになる。

 「あっち」の連載は続いている。ぐるなびの担当者は「代わりに私が飲んでもいいですよ」と言ってくれるのであるが、代わりにトイレに行ってくれる人があっても本人の問題がなんら解決しないのと同じで、どうにもならない。

 それに世の中には親切な人が多くて、自宅に酒が送られてくることも少なくない。せっかくの厚意を無にするわけにもいかない。

 というようなことが重なって、ドクの説諭の内容を覚えているのに、気がつくと忘れているという事態になってしまった。

へしこ茶漬け

 そのような状況下でも、午前零時を回り日付けが変わったのを確認して飲み始めるというような細かな工夫を重ねたところ、冒頭に書いたように酒量は半減した。

 結果、様々な変化が起きている。最も大きな変化は酒が美味くなったことである。惰性というか勢いで酒を飲むことがなくなり、ちょびっとを大事に飲むからであろうか。酒の味が実によくわかる。私の舌はついに神の領域に達したようである。

 朝ご飯も美味くなった。毎朝おかわりする。

 昼ご飯も量が増えた。「ご飯少な目派」から離脱する日も近そうである。

 書きながら思う。この話、つまんないね。

 アミー隊員が持って来てくれたファイルを見たら「コロッケ・メ(ミ)ンチ」に関するVOTE結果が出ていた。

<詳細な地図はこちら>

 「コロッケ・メ(ミ)ンチ」がどのくらい普遍的なものであるかを確認する設問では、ニッポン全国ほぼどこにでもあるというデータであったので、今回は地図にしない。ただ「あまり見かけない」という回答が佐賀で71%、島根で60%に上った。「あまり見かけない」が「普通にある」「ときたまある」を上回ったのはこの2県だけであったことを覚えておこう。

 では「メンチ」と呼ぶか「ミンチ」と言うか。全国的に「メンチ」が主流の中で「ミンチ」が「メンチ」を上回った府県が9つだけあった(カッコ内は%)。

 大阪(71)、兵庫(67)、奈良(64)、京都・福井(60)、和歌山・鳥取(57)、山口(53)、香川(50)。

 関西が「ミンチ」の本山で、周辺に広がっている様子がわかる。九州・沖縄は一転して「メンチ」地帯であった。「ミンチ」の射程はそれほど長くなく、九州まで届かなかったのであろうか。地図に落とすと鮮明である。今回の収穫としたい。

考え過ぎデスク 古代の銅鐸(たく)の発掘分布と重なりますね。邪馬台国と関係がありそうな…。

野瀬 ない。

 コロッケやメ(ミ)ンチになにをかけるか。これもソースの圧勝であったため地図にしてもほぼ一色になるので、やめる。

なんでもあり?

 ただ今回は自由回答を送っていただいた。その中で「これは」というものをいくつか紹介する。

 「ポン酢」(東京、埼玉、宮崎)。揚げ物にポン酢である。

 「酢タバスコマヨ」(三重)。どんな味になるのか想像できません。

 「ウスターソース+マヨ+ケチャップ」(兵庫)。兵庫じゃのお。

 「ケチャップ3対醤油1」(京都)。ソース+ケチャップは多かったが、ここで醤油は意表を突く。

 「ソース+マヨ」(あっちこっち)も多かった。

 「そうめんつゆ+ショウガ+マヨ、リンゴ酢+マヨ、黒酢+マヨ、お好みソース」(広島)という複合技もあった。

 「材料が牛なら醤油、豚ならソース」(栃木)、と使い分けも。

 ともかく全国各地で様々な調味がなされている。好き勝手のやり放題であるが、マヨやケチャップを使う人が少なくない。


 では本題に移ろう。今週から「汁かけご飯」。

 私は前回、汁かけご飯が好きであると書いた。が、親からは厳しい目で見られていた。親の目を盗んでというか、親がいない場面で盛んにやっていたのである。

和楽備(わらび)茶漬け

ご意見 即!レッドカードです。
 子供のころ、その食べ方したらお行儀が悪いと、すっごく怒られたんですよ。なので、今でも丼物は、おつゆが少なめの方が何となくホッとします。
 お茶漬けやお粥、雑炊には抵抗感がないので、ご飯の水没がダメって訳じゃないけれど、いまいち食指が動きませんねぇ(グラナダおば(あ)さん)


 そう、我が親が言ったのも「行儀」のことであった。確かに日本料理の作法、形式を確立した「本膳料理」や、厳格ではなくともその影響を受けている公私の会食の席で、ご飯に吸い物などをぶっかけたらいけないだろう。つまり「作法外」の食べ方、食べものなのであるから、行儀がよくないことになる。

「深川めし」の駅弁も

 しかし本膳料理の元になった室町から南北朝時代の武士の食事の中に、汁かけ系のご飯がなかったとは言えないのではないか。気取らない場、時間がないときには登場したのではないかと思う。

 ご飯に水をかけた「水飯(すいはん)」や「湯づけ」は平安の古くから登場しており、後には武士の戦闘食(レーション)でもあった。またお茶漬けの起源のような「芳飯(ほうはん)」の歴史も古い。要はハレとケの使い分けではなかろうか。

 時代は下るが、江戸の漁師料理だった深川飯は、ご飯にアサリとネギの味噌汁をかけたもの。行儀が悪い汁かけご飯の典型みたいなものだが、廃れていた深川飯が復活したきっかけが行儀にうるさい学校給食への登場であったことは、なんとも面白い。

汁かけご飯は禁止?

ご意見 「汁かけご飯」ですね、これは私の実家では「禁じ手」で、「行儀の悪い」って言われていました。すなわち、ご飯はご飯で、味噌汁は味噌汁でおいしくいただくもの、って厳しく言われていました。
 ところで、我が子どもたちは好きですね。妻の実家ではあまりそこまで言われていなかったようで「禁じ手」ではなかったみたいです。
 私の実家のように「禁じ手」だったところって、意外と多いのではないかって思うのですが、いかがでしょうか?(明渡@奈良県さん)


 「禁じ手」であった家庭は多かったことであろうし、いまも多いのではないか。しかし汁かけご飯が郷土料理になっているところもある。

鹿児島の鶏飯(カラスダニ@松山さん提供)

ご意見 愛媛では「さつま」が南予地域で食べられています。冷たい味噌仕立ての汁を麦入りのご飯で食べるタイプ。食べる直前にキュウリ、大葉、こんにゃくなどを入れました。たまに実家でも出ました。
 焼き魚が余ったら味噌と一緒にすり鉢で擦って、きれいにすり鉢の内側にのばして焦げ目を付けてから出し汁で溶いていました。魚は色々で鯛とか、大洲あたりでは鮎のさつまでした。
 ちなみに、学生時代に通った喫茶店「地球防衛軍」にはメニューに「犬めし」がありました。ご飯に味噌汁をかけたものだそうです。「猫めし」はご飯に鰹節+醤油だと聞きました。
 写真は、以前愛媛大学の学食で昼食を撮ったものです。鹿児島の鶏飯です。このとき、九州フェアだったんです。うちの職場には社食なんてないので、学生さんがうらやましい(カラスダニ@松山さん)


 「さつま」より喫茶店「地球防衛軍」の方に思考が集まってしまった。店員さんたちは一体どんなコスチュームだったのだろうか。

冷や汁

デスク 「宇宙戦艦ヤマト」ですか?森雪サマのようなメイドさんだったら、うれちぃ〜!!

野瀬 時節柄、「マンモスうれぴー」と言いなさい。

 「さつま」は宮崎の「冷や汁」に似ている。

 魚を鶏肉に変えると、奄美を中心とした鹿児島の郷土料理「鶏飯(けいはん)」に似る。沖縄には「菜飯(せーはん)」が。

 こういう郷土料理を持つ地域でも他の汁かけご飯は「禁じ手」なのであろうか。

奄美鶏飯

ご意見 茨城北部では汁かけご飯を「おづよかけご飯」と呼びます。おそらく「おつゆかけご飯」がなまったのではないかと。
 かける汁は主に味噌汁です。が、味噌汁だろうがうどんつゆだろうがラーメンのスープだろうが、全て「おづよ」と祖母が呼んでいるところをみると、おそらく何の汁でもOKであろうと思います(茨城・めぐちゃん)


 味噌汁、うどんつゆ、ラーメンスープとなんでも来い、の地域があった。家庭のメニューとして安定した居場所を確保しているようである。茨城北部、記憶に刻もう。

カップ麺で作った「うどんご飯」(いけずな京女さん提供)

ご意見 私、「味噌汁かけご飯は犬のエサである」と厳しく躾られて育ちました。実際、ドッグフードなんちゅうもんがなかった時代には、どこの家庭でも犬に味噌汁かけご飯を与えてましたから。
 ちなみに「猫まんま」はご飯に削り節をかけたもんで、こちらは人間がコバラ満たしに食べるもん。
 ほな、猫のエサはっちゅうと焼魚の残りもんとか煮干しでしたねえ。
 という訳で、私はいまだに「味噌汁かけご飯」には抵抗があるんですけど、なぜかご飯にうどんをのせて汁をかける「うどんご飯」はOKです。何でやねん!
 まあ、さすがに人前ではやりませんけど、ダブル炭水化物上等な関西人なら、驚かへんはず…え、私だけ?(いけずな京女さん)


 北茨城ではご飯にうどんつゆがかけられることがあり、京都のこちらでは、うどんの麺ごとぶっかけられる。迫力あるなあ。

大分あつめし

ご意見 汁かけご飯は、郷愁です。いまでは滅多にやらないようになってしまいましたが、小さいころは、毎食のご飯(後半戦)で必ずしてました。
 いまのようにいつでも温かいご飯(ジャー)が稀であった故、初めはほの温いご飯も食べているうちに冷たくなる。残り少なくなるご飯にお味噌汁のお汁をかけてほどよく温くなるご飯におこうこをのせて食べると美味しいんですよねぇ。
 一膳で終えようと思ってたのに、もう一杯汁かけご飯をしてしまうことが多々ありました。前回のおナスの味噌汁の場合だと汁かけにしてから刻んだ青ネギを一杯入れます。
 汁かけご飯の正式な名称は知りませんが、わんこめし(犬ん子飯)=昭和の犬は主食がみそ汁掛けご飯だった故に。にゃんこめし(猫ん子飯)=昭和の猫は主食は鰹節が掛かったご飯(その上に醤油をかけていた記憶も。ちなみにこれは家で飼っていた犬猫の場合)と、呼んでいました(るにゃんさん)


デスク、雑誌めくりながら 汁かけご飯にも「いぬのきもち」と「ねこのきもち」があるってことですね。鰹節の分だけ、「ねこのきもち」のほうが高級なのでしょうか?

ワンコにタマネギはドク

 子どもころに飼っていたワンコも毎日、冷やご飯に朝の味噌汁の残り物、あるいは出しを取った後のイリコ(煮干)をかけたものだった。

 塩分過多になるのではないかとか、タマネギはワンコの血液に毒ではないかなどと考えたこともなかった。

 昼間は放し飼いだったから、散歩をさせたこともなかった。

 でも考えてみると人間とワンコがたまに同じ内容の食事というのも、悪くはない。

謎の隊員梵ちゃん 悪くないね〜。

スープかけご飯(てつらんたさん提供)

ご意見 知りあいから「ダッチオーブン」を使うことを教えていただきました。分厚い鋳鉄の鍋ですね。これで野菜を煮ますと、野菜から出た水分だけで「汁物」になるという「無水調理」ができます。
 ある日、適当な野菜ともらいもののハムを煮てみますと、ものすごくおいしいスープができたので、反射的に炊きたてゴハンにかけて「はふはふ」言いながら食べました。
 ウチには私と金魚しかいないのでこのようなロウゼキもやり放題であります。なお、本件の欠点は、同じ料理を2度とは作れないことです(てつらんたさん)


 郷土料理とは関係なく、新たに汁かけご飯の魅力と遭遇したお話。

 ダッチオーブンは蓋の上に炭を置くと天火にもなる優れもの。米国で行われたダッチオーブンを使った料理コンテストの模様をテレビで観て、その威力に感心したことがある。

 「無水料理」もそのひとつ。読んでいるだけで美味さが伝わってくる。そりゃもう、ご飯にぶちまけて食べたくなるでしょう。

 ここで反対意見。

ご飯と味噌汁は別々で

ご意見 ワタクシの場合はご飯に味噌汁をかけるのはとてつもなく気持ち悪くてNGです。
 そのようなものは「食べ物への冒涜」と見なすべきです。

 なので前回のナス・キュウリの回の最後に、いきなり「ご飯に味噌汁」の写真が出てきたのを見たときは、思わずPCの画面を破壊したくなった衝動を抑えるのに苦労しました。
 と言いますかワタクシの場合、具はともかくなぜか味噌汁のお汁がまるで駄目で、せいぜい一口か二口が限界です。それ以上は気持ち悪くて、他の人が味噌汁を飲み干すのがどうにも信じられません。
 お吸い物ならお椀の半分、うどん・ラーメンの類のスープなら丼の4分の1が限界、味噌炒めや味噌アンの類は問題なし。
 ワタクシ、日本人の両親を持ち日本で生まれ育ちましたが、このような「きさまーそれでもニッポン人かー、そこに立てー、歯をくいしばれー」を食らいそうなのは、やっぱり希少品種でしょうか?(みなみ@神奈川さん)


 希少種ではありますが、我が家にもお仲間がいますのでご安心を。

 もうひとつ反対意見。

ご意見 「まだやるの?編 第11回」 の中で、有機野菜だからむいたことがなかった方が、普通のキュウリは農薬がかかっているから皮をむくように言われたという投稿、少々、いかがなものかと思われます。
 現在の日本で、皮をむかないと安心して食べられないほど農薬がかかったキュウリが、別に、有機栽培じゃなくても、通常栽培のものでも、出回っていることは、まず、ありえません。
 軽い笑い話で終わるものなのかもしれませんが、こうやって、行き過ぎた農薬否定を助長するような記事はいかがでしょうか。
 生食野菜でも、水洗いを丁寧にすれば、人に影響をおよぼすほど農薬が残留することはない(そのような利用方法は規制されている)ことを、小さなコメントでもよいので、フォローしていただきたかったです。
 最近は、すっかり安全安心より価格の安さを優先する人が増えてきたようですが、気にする方は結構いらっしゃると思いますので。
 せっかく、楽しく野菜をとりあげてくださっていて嬉しいのですが、今後、このような内容をとりあげるときは、ご留意いただきたいとお願い申し上げます(食品安全部門に勤務する1公務員さん)

 当サイトをご覧の皆さんの中で「現在」の国内産キュウリの残留農薬レベルに問題があると考えておられる方は、あまりいらっしゃらないとは思いますが、せっかくご指摘をいただきましたので掲載いたします。

厚木シロコロ・ホルモンの名店「千代乃」特製豚味噌スープ茶漬け

 テーマの汁かけご飯は、ご飯を食べる東アジアモンスーン地帯の国々ではどうなっているのか。中国ではお粥は食べるが、お茶漬けはあるのだろうか。

 まぜまぜの国、韓国はいかが。

 アジアご飯諸国からのメールも読んでみたい。

 ではそこんとこよろしく。

アミー隊員 よろしくお願いします!

(特別編集委員 野瀬泰申)

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