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新たな世界が幕を開けました~命の値段は安いか、高いか~ 作者:村人X

新/039/黄金の光

※:活動報告で予告した通り近日中に変更されます。
此度の愚行、本当に申し訳ございません。
「──ん?」

 面倒な執務を終えたシャーネは、先程まで近寄っただけで殺されそうな程に不機嫌そうな表情だったのだが、部屋に戻って水晶を取りだした所で華の咲く笑顔になった。

 しかし、水晶を起動させて想い人を映した時、前に立つ少年を見て眉を潜めた。

「なんだ?」

 美しい少年ではあるのだが、シャーネとは根本的に相容れない気がした。
 だが眉を潜めたのはそんな所では無い。

 その少年が秘める魔力(・・)
 明らかに人間のモノでは無く、何よりシャーネに不快感を与える。

「……天使、か?」

 少年は間違いなく人間。だけど秘める魔力はシャーネとは属性的に真逆に位置する天使に似ていた。

 そして次の瞬間に夜月の拳が顎にヒット。
 少年は容易く倒れる。

 夜月はもう意にも止めていないが、シャーネは違う。
 外に放出していない魔力を観る事が出来る彼女は、その少年が内包する魔力の質に驚愕する。

「──不味い!!」

 シャーネは椅子を倒しながら勢い良く立ち上がり、扉に向けて走り出す。

 向かわねばならない。
 夜月の元へ。

 でなければ──死んでしまう。


 ◆◆◆


 あなたは誰ですか?

「私の名はプライド。天使にして貴方のシモベにございます」

 えっと……シモベ?

「はい。我が主、桐原光様」

 ごめん、意味分からないんだけど──っ!そうだ!俺はやらなきゃいけない事があるんだ!

「存じております。あの『怪物』を討ち滅ぼすのですね。ご安心を、私もお手伝いさせていただきます」

 え?
 手伝うって、それに討ち滅ぼす?

 あの、俺は単に危険な神崎から七海を引き離したいだけで、決して討ち滅ぼしたい訳じゃ……それに流石に『怪物』は酷いと思うんだけど。

「そうでございますか。あなた様はまだ気づいていないようですね」

 何にだい?

「あの男は間違いなく『怪物』にございます」

 ど、どういう事なんだ!?

「まずあの男は吸血鬼と手を組む事で莫大な力を手に入れ、その力によって七海様を支配しているのです」

 な!?吸血鬼!?
 まさか、そんな!
『怪物』ってそういう事なのか!?

「更にあの男はオークに囚われた哀れな女性達を虐殺したのです」

 嘘だろ、そんなの、人のする事じゃ無い……。

 それは、本当に本当なのか…?

「はい。どうか信じてください」

 くっ…………許せない!!

 力を持ちながら万人の為に振るわず、あまつさえ悪用するなんて!
 それも囚われた子達を無慈悲に虐殺するその暴挙と傲慢!許せるものじゃない!!

 そして七海までもその毒牙にかけるというのか!!ふざけるな!

 神崎夜月!今、分かった!
 お前はどうしようも無い『悪』だと!!

「無論。だからこそ、今こそ立ち上がるのです!」

 もちろんだ!

「あなた様には私がついております。共に『悪』を葬りましょう!」

 ああ!頼む、俺に力を貸してくれ!!

「もちろんでございます。さあ行きましょう!【勇者】様!」


 ◆◆◆


「行くぞ」

 夜月は倒れた光やそれを介抱する鈴火や匠を一瞥しただけで、後ろに控えている七海と雛とメメにそう言った。

 もはや夜月の心に光への関心は無く、「早めに道具屋(スーパー)に行きたいな」と切り換えている。

「西園寺さま!何故若ではなくその男に着いて行くのですか!!」

 夜月のコートを握りしめた七海に向かって、昨日の影響で顔の青い匠が喚いた。

 七海は少しだけ夜月を見て顔を赤くしながら、俯きがちに小声で言った。

「好きだからだよ」

 恥じらいと共に紡がれた言葉は、誰にでも本音だと理解できる。七海は更に恥ずかしくなって、夜月の背中に顔を埋める。

「なっ──!!」

 あんぐりと口を開いてゴツい顔を硬直させる。それと同時に今まで勘違いしていた鈴火も目を剥いた。それから──

「どどど、どういう!!?」

 ──今更追い付いた富川は激しく狼狽する。ちなみに七海は今彼の存在に気づいた。

「ひゅーひゅー!あ、ちなみに自分も先輩が好きッス!」

「私は好きでは無いですが、処女を差し出しました(予定)」

 後ろから茶化すような言葉と、抑揚の無く感情を感じさせない言葉がかかる。

「……お前ら、どうでも良いけど行くぞ。後、処女は貰ってない」

 しかし夜月は心底面倒そうにため息を吐いて、三人に先を促す。

 そんな夜月の反応に七海は不満をもって後ろから足を蹴るが、自分の指を痛める結果になる。

 その反応を最初から理解していた雛はニッコリ笑い、夜月の後に続く。メメは当然変わらない表情でその後ろに続く。

「あ、ちょ──」

 匠が制止の言葉をかけようとした瞬間──光の身体が黄金色に輝き始めた。

「っ!」

 夜月はそれを視認した0.2秒後には七海をかかえて距離を取り、自分の背後に庇う。

 雛とメメも異変に気づいて、武器を構えつつそのまま夜月の後ろに回った。二人に盾として使われている夜月だが、特に気にしていない。むしろ、未知の状況で下手に前に立たれるよりマシなので、後ろにいてくれた方が助かる。

 その間にも光の纏う黄金の輝きは強まり、近くにいた鈴火と匠と富川が、驚きのあまり光から離れる。

(……魔力光?)

 魔力光は個人ごとに違っている。だが基本的にMPを使用するような場合でも無い限り視認できない。

 光は魔法を覚えていないだろうし、魔法のアイテムを持っているようには思えない。そもそも昏倒している状態で使用出来る訳が無い。

 夜月の一撃は完璧にヒットして、光から意識を完全に刈り取った。
 ならばこの異常は一体なんなのだろうか?

「雛、戦わなくていいからナナを守れ。メメ、お前は援護射撃の準備だ。ナナは[マジックシールド]を使え」

「「はい!」」

「分かった」

 夜月の指示を素早く従う三人。
 背後でサファイアの魔力光が輝くのを確認した夜月は、光に意識を集中する。

(やっちまうか?)

 何かが起こる前に叩いて置くべきかもしれない。だが、もしも手を出して発動するタイプならば、七海を危険にさらす為、夜月は躊躇する。

 ピクリ──

「っ!」

 光が動き出した。
 ゆっくりと、しかし確実に身体を起こし始める。

「わ、若!?」

「光さん!」

 黄金の光を纏ったまま、光は遂に立ち上がった。

「大丈夫──」

 二人に対して起き上がった光は優しく微笑む。その微笑みに、匠と鈴火はただただ魅了された。

「…………………なんだ?」

 二人とは対照的に言い知れぬ悪寒を感じた夜月は、拳を握る。

「神崎。ようやく君の事が分かった」

 先程の興奮した様子とは違う、落ち着いた声。
 だがしかし、その瞳の中には夜月に対する強い敵意が渦巻いている。

「君はどうしようも無く『悪』だという事にね」

『悪』と言われる覚えが当然幾つも頭に浮かぶので、別に否定する気も不快感も無い。

 しかし夜月は内心で頭を捻る。

(頭を打ち過ぎた、とかじゃないよな)

 光の言葉には奇妙な確信と盲信が感じられて、誰かに何かを吹き込まれたように感じた。

「吸血鬼と手を組み、力を手に入れそれを悪用し、あまつさえオークに捕らえられた助けを求める女性達を虐殺するなど言語道断!」

「っ!」

 今朝の事は鈴火がいる以上、知っていてもおかしくは無いが、吸血鬼の事はメメにだって教えていない。

(なんだ、誰に教わったんだ?)

 先程までの態度からすれば知らなかった筈だ。ならばこの黄金の光を纏い始めた瞬間に、誰かから吹き込まれたのだ。それも夜月達には分からない、未知の方法で。

「そして!七海すらその力で脅し支配する!!貴様の様な男は許しておけない!!」

 そして何より光にとって都合の良い脚色をして。

「今ここで、俺はお前を倒す!」

 黄金の光が膨れ上がり、握りしめた木刀を夜月に向ける。その木刀もまた黄金の光が濃厚にまとわり光の剣となる。

「──プライド!俺に力を貸してくれ!!」

『もちろんです。我が主』

 天に向かって叫んだ光に、美しい清涼感のある声が空気を振動せずに響いた。

 七海はあからさまに怯え、雛は冷や汗を流し、メメは周囲に目を配る。

傲慢(プライド)?………悪魔?)

 夜月は異常事態にも冷静に思考を巡らせ、正体を掴もうとした。

 傲慢(プライド)という名前から連想させられるのは、七つの大罪。それから結びつけられるのは悪魔だ。

 しかし目の前の黄金の光からは決してそんな禍々しい感じはせず、むしろ真逆の聖光を連想させる。

 悪魔というより天使だった。

「行くぞ神崎──ぐぅ!!」

 中段に光の剣を構えた光が叫んで──夜月は一瞬で懐に入り込みアッパーカットを決めた。

 プライドは意味不明だが、向かい合っている以上、待ち構えるのは危険。向こうがこちらを誘うのでは無く、向こうがこっちに来るからには、黄金の光はカウンター型の力では無い。夜月はそう判断する。

 判断してからは早く、言葉など聞いてやる気は欠片もない。
 今度の拳は先程よりも強い。顎が砕け、歯も砕け、脳にまで多大な影響を及ぼす。

 ──まともに当たれば。

(──っ!?)

 光に一切反応する事を許さずに決めたアッパーは、狙い違わず顎にヒットした──のだが、握りしめた拳から伝わる感触は、不気味なほど手応えが薄い。

 しかも当たった光は数歩よろめいただけで、倒れる事も目を回す事もなかった。

(あの黄金の光は殴打に耐性でもあんのか?)

 夜月は顔をしかめつつも、よろめく光の鳩尾に拳を叩き込む。

「──がっ!」

 直撃した光は唾と空気を盛大に口から漏らす。

 しかしまたしても夜月の手に残った感触は、異常なほど薄い。
 現に内蔵がミックスジュースになるレベルの拳だったというのに、光は衝撃以上の痛みを感じている様子が無かった。

(──っ!!)

 それでも隙だらけの光に、鎧通しの要領で衝撃を貫通させる拳を叩き込む。それも、連打で。

「がっ、ぶっ、ごあっ、ぐっ、があっ!!」

 超高速の連打は、七海の目には映らず、鈴火と匠の目には腕が増えた様な錯覚を起こし、雛とメメの目には辛うじて連打だと判断出来た。

 最後の一撃を顔面に受けた光は、今度こそ吹き飛びタイルの地面を数メートル転がっていった。

 連打(ラッシュ)ではあるが、その一撃一撃はコンクリートすら砕く。匠クラスの頑丈さでも、一撃で沈む。

「若っ!」

「光さん!!」

 匠と鈴火が悲痛そうに叫ぶ。

 そんな二人の叫びに答える様に光はむくりと起き上がった。

(……おいおい)

 黄金の光はまた輝きを増し、その青い瞳には更に夜月に対する敵意が増大していた。

 流石に無傷では無い様で、殴られた顔からは鼻血が流れている。しかし、その程度。
 本来なら顔面は陥没して、そのイケメンは台無しになっていたはずなのに、鼻血程度ですんでいる。

「やはりな。卑怯にも不意打ちをするその根性!お前はどこまで『悪』なんだ!!」

 夜月は表情を消しつつも、内心では顔をしかめていた。

「ふん!所詮は借り物の力!そんな力では俺には届かない!」

 装備に関して言えば借り物と言われても反論は出来ないが、今までの攻撃は完全に夜月自身の実力だ。とはいえ、そんな事を今の光に言っても意味は無い。

「おい光!止めろ!お前は何を勘違いしてるんだ!!」

 [マジックシールド]の後ろから、七海は光に向けて叫ぶ。
 夜月の言葉は全てフィルターで都合良く書き換えられるだろうが、七海の声なら届くのではと、夜月は少しだけ待ってみる。得体のしれない相手と戦わずにすむならこした事は無い。もっとも、プライドとかいう奴が何か吹き込んでいるのだろう事を予想すれば、望み薄だろうが。

「勘違い?七海!君こそ惑わされるな!この男は君を汚そうとしている!!」

「だから──」

「待ってろ!必ず君を助けて見せる!俺は貴様の様な卑怯者には負けない!!」

 やはりと夜月はため息を吐く。
 光は正義感を利用されて、完全に視野狭窄に陥っている。

 夜月は少し考えて、腰から短刀を抜いた。
 黄金の光があるせいか、拳が通り難い。殺してしまう事になるだろうが、短刀を抜くしかなかった。

「ふん!刃物を出せば強いと思ったか?その辺の不良と同じ発想だな!」

 光が構えたまま突っ込んで来る。
 その速度はどう考えてもこの前の光のものでは無く、夜月に近い速度を出した。

「うおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 光の剣による大上段からの一撃。
 速度の異常さに雛とメメは顔を歪める。

 だが夜月は冷静に、加速した思考の中で光の太刀筋を酷評した。

(荒すぎ。上がった身体能力に技術(スキル)が追い付いてない)

 黄金の光を纏い耐久力が極端に上がっているので、速度や筋力なども上がっている可能性を考えていた夜月に、どんなに速い一撃でも荒い攻撃が命中する事は無い。

 余裕でかわした夜月は、漆黒の短刀を光の腹に突き刺した──が、

(っ!!)

 阻まれた。

 夜月はこれまでまともに短刀を使う事が無かったが、短刀のskill-levelはⅨだ。

 当然今の一撃は、完璧に力をコントロールした上で、一点に力を集中させて放たれた一突き。最新のボディーアーマーだって貫くだろう一撃。

 それが刺さらない。
 流石の夜月でも驚愕に目を見開く。

 加速した思考の中で確認すれば、黄金の光がまるで意思を持ったかのように、漆黒の短刀を受け止めていたのだ。

 足に力を込めて飛び退く。

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!」

 飛び退く夜月にダメージの無い光は猪突猛進に突っ込んでいく。

「はあ!」

 剣道の突きが夜月の胸に迫り、それを短刀で受け流しながら足払いをかけた。

「ぐっ!」

 竹刀以外での攻撃が反則である剣道では、こんな足払いなど経験した事も無く、容易く転ぶ。

 仰向けに受け身も取れずに倒れた光は、衝撃に顔をしかめる。だが痛みは特にない。

(くっ!卑怯な!だが次は俺の番──)

 ──など当然来ない。

 獣人吸血鬼を沈めた時と同じ、全体重を足に集中させた踏みつけが光の顔に迫った。

 あの吸血鬼は咄嗟に刀で防ぐ事が出来たが、levelが上がり装備の補正が入った踏みつけは、速度も力もあの時の比では無い。

 轟音──

 衝撃は光の頭を間にタイルの地面を砕きながらクレーターを作る。

 爆散したタイルとコンクリートの破片が飛び散る──が、光の血は一滴も見えない。

 その事実を加速した思考の中で捉えた夜月は、瞬時に関節を連動させ筋肉を収縮し、前に情報屋の扉を破壊したように、足に力をためる。

 一発目の威力がまだ残る中の二発目。
 刺した杭を押し込むように放たれた一撃は、地面のクレーターを広げた。

(────くっ!)

 それでも光の顔は原型を保っている。
 一応僅かに鼻に到達したようで、盛大に鼻血が噴き出している。しかし、皹は入ったかもしれないが、折れた感触は伝わらない。

「ぐうっ!」

 光の苦悶の呻きが伝わる中、もう一撃をお見舞いするため関節と筋肉を動かす。

 しかし──

「若あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 ──夜月が敬愛する光を踏みつけているという事に、堪えられなくなった匠がその巨体で突っ込んで来る。

 夜月は百キロ近い巨体の攻撃に対し、対処をとろうかと思ったが、後ろから伝わる気配に構わず続ける。

「うおおおぉぉ──ぐが!!」

 軽快な音と共に放たれた矢が、匠の太ももに刺さった。メメが夜月の指示通り、援護として躊躇無く射抜いたのだ。
 衝撃と激痛と傷つけられた筋肉によって、タイルの地面に盛大に転がる。

 それと同時にもう一撃の踏みつけが決まり、再びクレーターを広げた。

 ぴきっ、という鼻の骨の音が僅かに聞こえる中、激痛に堪える光の対処がようやく追い付いた。

 黄金の剣をがむしゃらに振る。
 強化された凶暴とも言える剣を、相手の力逆らわず拳を添えて受け流す。

 そしてその間にも準備した四度目の踏みつけ。
 衝撃によって光の身体が押さえつけられている頭を残して宙に浮く。

(折れた!!)

 完全に鼻の骨が折れた。
 このまま続ければ、頭蓋は破壊できる。

 そう思った瞬間──黄金の光が一気に吹き荒れる。
 視界が塗り潰されてもメインセンサーを聴覚に切り換えたので、大した問題は無い。

(なっ!)

 そう思った瞬間に身体が浮き、吹き飛ばされる。
 衝撃は無かったが強制的に距離を取らされた。
 空中に浮き上がった体制を整える為にバク中、数メートル離れた所で止まる。

 その頃には黄金の光は再び身体の周りに戻り、光は鼻を押さえて起き上がっていた。

(………これ、無理じゃね?)

 内心で勝てない可能性が一気に膨らみ、逃走を検討する。

「まだまだ!この程度で倒れると思ったかぁ!!」

 鼻の痛みに顔を歪めながらも、激しい怒りを携えて、光は叫ぶ。

 黄金の光は、また輝きを増した。

実はまだ【勇者】じゃない。
+注意+
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