乃木坂46は今後どこに向かうのか? レイチェル×さやわか×香月孝史が徹底討論(前編)
リアルサウンド 10月25日(土)16時19分配信
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乃木坂46『何度目の青空か?(通常盤)』(ソニー・ミュージックレコーズ) |
10月8日に10枚目のシングル『何度目の青空か?』をリリースした乃木坂46。これまでセンターは生駒里奈、白石麻衣、堀未央奈、西野七瀬の4人が務め、同シングルでは生田絵梨花が初のセンターに抜擢された。リアルサウンドではこれまで乃木坂46について、様々な分析・考察記事を展開してきたが、今回は節目の10枚目を迎えたこと、そして未だリリースされていない1stアルバムが待望されるなか、彼女たちについての対談を実施。ライター・物語評論家のさやわか氏、『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』の著者で、AKB48グループや乃木坂46に詳しいライターの香月孝史氏、講談社主催の女性アイドルオーディション企画「ミスiD2014」の準グランプリであり、乃木坂46の熱烈なファンとして知られる、わたしがレイチェル氏を迎え、乃木坂46の魅力についてや、ライバルグループであるAKB48との比較、アイドルシーンにおける立ち位置などについて、存分に語り合ってもらった。
・「近年の『ラクロス部的』な体育会系アイドルとはちょっと違う」(さやわか)
――乃木坂46がほかのアイドルグループと異なり、オリジナリティを発揮できている部分はどこだと思いますか。
わたしがレイチェル(以下、レイチェル):安心感…ですかね(笑)? 私は地下アイドルも好きなんですけど、それに比べるとすごく安心感があるんです。衣装も上品な感じで、お嬢様っぽい膝丈の白いソックスとか、そういうところにグッと来るし、見ていて和やかな気持ちになります。同じ雰囲気を醸し出すアイドルは他にもいるとは思うんですけど、メジャーシーンでその雰囲気を全面に出しているのは乃木坂46がメインだと思います。曲もミドルテンポなものが多くて。
さやわか:乃木坂46の公式ライバルであるAKB48をはじめ、近年のアイドルってマッチョな体育会系で、言ってみれば「ラクロス部的な感じ」なんですよね(笑)。見た目は華やかだけど意外とハードというか。そういう意味で乃木坂46は、AKB48と対になるものとして、女の子たちの穏やかな人間関係を見せる、癒しを提供するグループという印象を受けます。もちろんAKB48も、女の子同士の人間関係が面白いグループではあるんですが、また一風変わったものがあります。
香月孝史(以下、香月):そうですね。AKB48には、女の子同士の仲の良い感じを楽しませつつ、運営側が恣意的な物語を頻繁に放り込んでくるので、戦わざるをえない状況が勝手にできてきます。ファンもそれに慣れきっていたところで乃木坂46を見ると安心します。一方でAKB48と比べて、物語の速度が遅いという見方もあります。
さやわか:それもある意味、AKB48に対する逆張りかと思いますが、たしかに見方によってはコンサバティブにも見えますね。ただ、あそこまで保守的な感じでやると、かえってラディカルな面白さがあります。ほかのアイドルグループがガツガツした感じでやっている中でゆったりとしていると、それが特異なものとして浮かび上がってくる。だからだんだん時間をかけて認知されるようになってきたわけですよね。面白いものだと気付かれるのに少し時間がかかる。
香月:単にコンサバティブというだけじゃなくて、AKB48のスピード感にみんなが慣れたところであの感じが放り込まれたので、ラディカルに見えるということですよね。
さやわか:AKB48と対比すると、まさに漫画なんかに登場するライバルキャラのように逆の個性が重視されていて面白いと思います。
・「生駒さんは兼任を『外からプロの空気を引っ張る』という気概でやっている」(香月)
――一方で、乃木坂46が「ライバルとして機能していないんじゃないか」という議論もあります。特に、今年2月に行われたAKB48の『大組閣祭り』で、グループの1つとして組み込まれ、生駒里奈がAKB48と兼任になったり、松井玲奈がSKE48から兼任メンバーとして加入するなど、外側からの刺激によって、話に出たような「ゆったり感」が変わってきているかもしれません。
香月:乃木坂46は、これまで基本的にAKB48グループとは交わらずにきましたが、『大組閣』で交換留学があった。一定数のファンは「そろそろ来るかもな」という覚悟は持っていたものの、それなりに拒否反応も出ていたことを覚えています。そして、生駒さんの兼任についても、ファンから「生駒さんはただでさえ乃木坂46で大きいものを背負っているのに、さらに重荷を背負わせるのか」という意見がありましたが、生駒さん自身はそれをポジティブに捉えている。また、生駒さんの言動を見ていると、「まだ世間に打ち出していくにあたって、自分たちのパフォーマンスは高い水準のものではない」という感覚を持っているようで、だからこそ「自分が外からプロの空気を引っ張ってくる」という気概で兼任活動をしているようです。
さやわか:僕も「その個性が外に伝わらなければ意味がない」と思っています。しかし彼女たちが持つゆったり感は、「私たち、ゆったりやってるんです」と言って見せつけるような出し方じゃないんですよね。「ゆったりやってます」「清楚系です」と明示的に打ち出していくやり方のアイドルグループもあると思うんですけど、乃木坂46はそうではない。だからこそ、最初に出てきた時から、「こんな穏やかなグループがライバルと言えるの? ライバルってもっと頑とした対決姿勢があるもんじゃないの?」と思わせるところがあった。しかし、結局のところそういう意味での“ライバル”ではないわけですね。逆張り的なコンセプトを打つという意味でのライバルなわけだから、だから、何とかしてそのゆったり感を派手に見せつけることなく、お客さんに感じ取ってもらわないといけない。そこには難しさはあります。セールス的には徐々に伸びていますし、知名度も少しずつ広がっているのですが、やはり単純に「AKB48グループ」というカテゴリの中で捉える方もまだまだ多いですよね。
レイチェル:たしかに、一般の人から見たら同じようなものに見えるかもしれませんね。
さやわか:同じグループ内のものとして見られてしまうと、地味な印象を与えてしまいがちですよね。そこで、『大組閣』に組み込んだり、AKB48ファンが喜ぶような路線の楽曲を作ったりして迎合する姿勢を見せたりもするんですが、そうすると今度は、グループの個性が変わってしまうということを懸念する人も出て来るというジレンマがあります。
香月:「公式ライバル」というような言葉で見る場合、多少キャラは違ってもAKB48と同じベクトルを目指していれば分かりやすいのですが(笑)。例えば、AKB48に姉妹グループとしてSKE48が誕生したときは、競合するという意味でのライバルにいずれなっていく存在として捉えやすかったと思うんです。しかし乃木坂46は、ライバルと銘打ちながら、楽曲の方向性や、舞台へのアプローチなど、ベクトルを違う部分に向けることで存在感を見せてきました。
――“AKB48っぽい楽曲”という話が出ましたが、逆に“乃木坂46っぽい楽曲”を説明するとどういう表現になるのでしょう。
香月:象徴的なのは『君の名は希望』なのかな。
レイチェル:まさにそうですね。この曲で乃木坂46を知った人も多いと思います。
さやわか:ミドルテンポで、鍵盤とストリングスを多用した曲で、サウンドも散らかっていない。しっかりしたポップスにしようとしたら2回転くらいして80年代から90年代初頭のアイドルのような王道路線に着地したような楽曲という感じでしょうか。
香月:「王道アイドルソング」というと、AKB48が今のスタンダードになるのだと思いますが、乃木坂46の曲は今のアイドルシーンの王道、という意味ではなく「王道ポップス」という捉え方が一番しっくりくるのかもしれないですね。
さやわか:『ぐるぐるカーテン』、『おいでシャンプー』といった初期のシングル曲はフィル・スペクター調あるいはモータウン調のようなことをやっていました。ソニーが手掛けるアイドルということで、まずコンセプトの一つとして、音楽に重きを置いていたがゆえと思うんですけど、いわゆる楽曲派アイドルとは少し違って、もっと単純に、「普遍的で良質なポップス」を打ち出したかったのだと思います。ジャンルの選び方としてはウォール・オブ・サウンドやフレンチポップスをオシャレにやっていて、最初は渋谷系の手法に似ていると思いました。でも、「あえて」という押し出し感はないので、楽曲派だけに届くという狭い間口にはなっていない。そこが乃木坂46の特徴であり、面白いところだと思います。『君の名は希望』は、そうした路線の象徴といえる曲でしょう。
・「アンダーメンバーもすごく良いライブをするが、新規の獲得にはつながりにくいかも」(レイチェル)
香月:今回の『何度目の青空か?』も、おそらくそういう代表作をまたひとつ作ろう、という意識で出した楽曲に思えます。AKB48グループ全体のファンだけれど乃木坂46だけ知らない、という人は一定数いるので、去年の『ガールズルール』や今年の『夏のFree&Easy』のような“AKB48っぽい曲”で、AKB48のファンにもついでに聴いてもらおう、という方向に寄せているのかもしれません。そこを入り口にしてもらわないと、本当に閉じてしまいますから。
さやわか:正直なところ『ガールズルール』あたりから「あれ?そういうことなの?」「結局、水着でみんなで踊る系?」とは思ってました(笑)。さじ加減の難しいところなんでしょうね。乃木坂46の場合は最初からオリコンで上位を取れたので、いいスタートを切れたぶん、単純に良質な楽曲にこだわるだけでなく、その売り上げを伸ばしていかなければいけない。そういう意味で『ガールズルール』や『夏のFree&Easy』のような楽曲もまた必要なんだと思います。
――AKB48が『夏祭り』のような大規模イベントを行うのに対して、乃木坂46は「お茶会」「かるた会」のようなイベントを開いています。このシステムについてはどう思いますか。
香月:着座の落ち着いた感じのイベントですね。
レイチェル:例えば川村真洋さんなんかはファンとも顔見知りになっていて、みんなで被り物を事前に合わせて持ち込んで、『不思議の国のアリス』のお茶会みたいな雰囲気で楽しんだそうです。
さやわか:ヲタ同士が、メンバーも含めてつながったコミュニティになっていると。
レイチェル:はい。メンバーによるとは思うのですが、全体的にまったりとした感じで、入れるファンの数も限られています。
香月:AKB48の『夏祭り』は、グループ全体での催しですね。特にAKB48名義のシングルが出る場合、AKB48グループ全体の注目株を吸い上げるような選抜システムになっていることもあり、握手会の来場者数やメンバーの総数が多くなった結果、イベントの規模が大きくなっています。
――「専用劇場の有無」も、両グループの違いとして真っ先に挙げられるものです。
香月:選抜メンバーがある程度、固定化してくるのはどのグループも仕方のないことかもしれませんが、AKB48は劇場があることで、「劇場で頑張っているから総選挙のときに票が集まった」というように、選抜メンバー以外にもしっかりしたアプローチの場が用意されています。そういった意味では乃木坂46の場合、選抜・アンダー・研究生の全員が出演する演劇公演『16人のプリンシパル』がアピールのための場として代表的なもので、年間スケジュールの中でもかなり大きなイベントになっています。演技力を高めたいという方向性が強いのは乃木坂46の特徴であり、運営委員会の委員長である今野義雄さんも、『OVERTURE』のインタビューで「“劇団”のような女優集団を目指したい」ということを仰っています。ただ、受け取るファンの側はあくまでアイドルというジャンル――AKB48系のフォーマットを前提にして受け取るので、どうしても「他のグループだともっと活躍できたかもしれない子が、劇場がないから目立つ場がない」という基準で見られるのは仕方のないところですね。
レイチェル:アンダーメンバーもすごく良いライブをするんですが、選抜のメンバー推しや乃木坂46自体には興味が無い人はなかなか行かないと思うので、新規のファン獲得にはつながりにくいかもしれないです。
香月:『アンダーライブ』『アンダーライブ セカンド・シーズン』のメイン会場になっている六本木ブルーシアターもそこまで広い場所ではないので、最初から行きたいと思っているアンダーメンバーのファンでもチケットの争奪戦になります。興味を持った新規が後からチケットを獲るのは難しいですね。
レイチェル:その分、会場はみんなファンなので、普段アピールの場がないメンバーが歓声を浴びて一際かっこよく見えますし、アンダー推しの人はそこで報われていると思います!
さやわか:ただ、アンダーライブに力を入れると、今どきの他アイドルの形に近づいていってしまう部分もあるので難しいですね。最近は、ライブ以外の路線の模索としてアイドルがステージで演劇をしたり、メンバーが個別に女優業に力を入れていたり、ということも目立ちますが、注目度が高いぶん、その方向で一番うまくいっているのが乃木坂46かもしれません。だからこそ、この路線を貫いて、業界にオルタナティブな提案ができたら素晴らしいですよね。
香月:他のグループでも女優志向のメンバーに個別で演技の仕事を取ってくることはありますけれど、これだけ大人数のグループが全体としてそれを志向する、というのは珍しい形です。
さやわか:その演技がMVで見れるのも魅力的ですね。AKB48がイメージビデオに近いのに対して、乃木坂46はドキュメンタリータッチだったり凝ったドラマ仕立てで、演技もしっかりしています。
香月:ともすればドラマの後ろに曲が鳴っているような。
さやわか:『バレッタ』も最初は「こんな物語でいいの?」とびっくりしたけど(笑)、ちゃんと先が気になるような話ですね。そういう意味で、保守的に見えながら実は実験的で、今の本流ではないものをいろいろやっている面白いグループです。
香月:少なくとも今のスタンダードにならっていたら絶対にこの方向には行きません(笑)。
(後編へ続く)
中村拓海
最終更新:10月25日(土)16時19分
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