プレイレポート
Project Morpheusによる創世記は,夏色の世界から始まる。現実を塗り替える「サマーレッスン」の体験レポート
その反響の大きさから想定以上の体験希望者が殺到すると判断され,東京ゲームショウ2014での試遊出展が見送られるなど,話題ばかりが先行しているような印象があった本作だが,今回,4Gamerは実際に体験する機会に恵まれた。
その結果,筆者が目にしたのは予想を遥かに超えた“新世界”への入口。いまだ冷めやらぬ興奮を胸に,その一部始終をお伝えしていこう。
読者の皆さんはご存知かもしれないが,「サマーレッスン」の発表後,その新しさのためか,同作を体験したことのない“識者”を中心に,事実誤認を含む批判が極一部だが発信されている。さらにこれらを恣意的に利用しようとするメディアもあることから,今回の記事では「新しい体験をできる限り忠実に伝える」ことの方に意識を割いて原稿を仕上げている。“梶田っぽくない”と思える読者もいるとは思うが,この点は予めご了承いただきたい。
現実を塗り替えるほどの“存在感”
夏のひととき,教え子と出会う仮想世界
取材当日,筆者はまるで初デートに挑む中学生のような気持ちで集合時間より30分も早く現場に到着。ツイていないことに台風が直撃するタイミングだったせいで,道中傘がバッキボキにへし折られ,全身ズブ濡れという有様だったが,熱い胸の高鳴りは一向に収まる気配が無かった。
ちょっと大げさなのでは……と,思われるかもしれないが,筆者はとにかく仮想現実やウェアラブルコンピュータといった物に強い憧れを持っており,それらを題材とした作品にも目が無い。加えて,Morpheusと「サマーレッスン」は,前情報だけで「これはスゴイものだ」と確信を抱かせるだけのオーラを漂わせていた。また,冒頭で紹介した東京ゲームショウへの試遊出展見送りも,本作に対する期待感をさらに高める要因となっていたのだ。
まぁ,個人的な話はさておき。今回の取材で試遊体験の場所として案内されたのは,バンダイナムコゲームス本社内にある普通の会議室。机や椅子が脇にどかされてMorpheus用のスペースがセッティングされていたが,それ以外特別なところは見受けられない。スパゲッティの如きコードだらけの部屋で明滅する無数のディスプレイ……というSF映画のような雰囲気の部屋を想像していたわけではないが,それにしてもあまりに“即席感”が漂っており,正直に言うと少しばかり拍子抜けしてしまった。
ところが,だ。Morpheusのヘッドマウントユニットを装着し,「サマーレッスン」のデモを開始すると,いきなりテンションが高まった。雨に濡れたオッサンの臭いが充満する,何の面白味も無い会議室が,清潔感のある部屋へと変貌したのである。
その圧倒的な“現実感”たるや,心の準備をしていたはずなのに,思わず「おおぅ!?」とバカみたいな声を出してしまうほどだった。落ち着かない気持ちを味わいながら辺りをキョロキョロと見回していると,背後から「せーんせい!」と声が……。
筆者のことを「先生」と呼ぶ女の子は,本棚で探しものを始める。ドギマギしながらその様子を凝視しているうちに,置かれている状況が飲み込めてきた。自分は家庭教師であり,この子は教え子なのだと。
ああ,周囲の雰囲気や,女の子の服装からして季節は夏。なるほど「サマーレッスン」とはそういうことか。“設定”が分かってくると,心にも余裕が出てきた。
女の子はどうやら,お目当ての本を探し出すのに苦労しているようだ。ここは頼りになるところを見せてやろうと,筆者も本棚に近付いて「赤い本」に視線を向けると,女の子はそれに気付いて本を取り出してきた。ふぅむ,視線の認識も,なかなか精度が高そうだ。
しかしながら,やはり凄まじきはその“存在感”。バーチャルな女子に対して異常に強い免疫を持つと自負する筆者だが,顔を近づけたりするときには一瞬躊躇してしまった。まるで爽やかなシャンプーや制汗剤の香りすら漂ってくるような……おや? なんと女の子は,コチラがある程度近付くと,ぶつからないように避ける動きをする。これは面白い……と何度も繰り返していると,本気で嫌がって顔を背けているような感じになってきたので,やめた。
女の子は目の前の椅子に座り,ノートを開いて英文を読み上げる。途中,読み方が正しいかどうか質問をしてきたので,こちらは首を縦や横に振って「Yes」か「No」の意思表示をする。分かってはいても,彼女から話しかけられるたびに現実の人間と接するように応答しそうになるのがどうにも気恥ずかしい。実際に,何度も「あ……」と何か言いかける声が漏れてしまっていた気がする。
そして授業もそこそこに女の子は立ち上がり,こちらに夏の予定を聞いてきた。このすぐに脱線する感じも,妙にリアル……という感想はともかく,その言葉から察するに,夏休みが近いようだ。表情や声の調子から,とてもウキウキしているのが分かる。
と,ここで頭を横に向けてほしいと言われたのでその通りにしてみると,耳元で囁かれて飛び上がりそうになった。いや,ゴメン。飛び上がった。慌てて前に向き直れば,顔が,とても,近い!
いわゆる「バイノーラルサウンド」で実際に耳元で囁かれているかのような音声が楽しめるコンテンツには数多く触れてきたが,これがMorpheusと組み合わされるとシャレにならないということを身をもって知ることになった。
長かったような,短かったような,時間の感覚さえ曖昧にボヤけた夏のひととき。その終わりは,突然に訪れた。
映像が消え,ヘッドマウントユニットを外すと,元の会議室……。その時の気持ちをうまく表現する言葉が出てこない。よく覚えていないが,ドヤ顔の原田氏を前に,ただただ半笑いで「すごい」を繰り返していたと思う。
まったく,なんというものを作ってくれたのか。筆者は今,「文章で伝えること」の限界をひしひしと感じてしまっている。こう言ってしまうのはゲームライターとしての敗北かもしれないが,どれだけ時間をもらっても,思いつく限り言葉を並べ立てても,「サマーレッスン」の“ヤバさ”を100%伝えられる自信がない。こればかりは,実際に体験しなければどうにもならないシロモノだ。
原田氏もインタビューで苦労を語っているように,きっとこの「伝える難しさ」が今後あらゆるMorpheus向けコンテンツにとっての課題となるだろう。ただ,見事に先陣を切ってみせた「サマーレッスン」のおかげで,間違いなく「やりやすく」はなっただろう。大げさかもしれないが,これはゲーム史に残る功績になるかもしれない。
Morpheusが正式にリリースされ,プレイヤーに普及するのはいつ頃になるのか。技術的な知識に乏しい筆者には予想もできないが,少なくともそんな世界がやって来るまでは「なんとしても生き延びなければ」と思わせる体験が「サマーレッスン」には詰め込まれていた。
なお,原田氏によると,そう遠くない時期に,一般向けに本作を体験できる機会を設けるとのこと。そのときには,多少なりとも本稿のことを思い出しながら「こういうことだったのか!」と納得してくれれば筆者としては幸いだ。
- 関連タイトル:
サマーレッスン
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(C)BANDAI NAMCO Games Inc.
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