iTunesとiPodで音楽ダウンロードを浸透させたアップル。iPhone6の登場により、今度は既存の決済システムを激変させると堀江貴文氏は予測する。

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■アップルペイによる「決済新時代」

 NFC(近距離無線通信技術)がiPhone6に搭載されたことで、非接触ICカードによる決済の部分に焦点をあてた記事を読んだが、重要なのは実はそこではない。

 もちろん非接触ICカードによる決済が普及している国は日本や香港など一部に限られる。それがアメリカをはじめとする世界でも、これをきっかけに普及するのは歓迎すべきことだろう。プラスチック製カードや現金を持ち歩く必要がないからだ。アップルにはものすごい数の決済端末を世界中にタダでばらまいてほしいくらいだ。

 本当に大事なのはこのシステムが銀行やクレジットカード会社と当初は連携するものの、アップルペイ経済圏が世界に広がることで決済手数料ゼロ円時代がやってくるかもしれないということである。

 また銀行やクレジットカード会社が必要でなくなる可能性すらある。非中央集権的な暗号通貨システムであるビットコインほどリバタリアニズム的にならずとも、この仕組みを応用した、リップルのような暗号通貨システムを使うという手もある。人々はアップルに管理されないウォレットを保有することで、利便性や安全性も格段に高まる可能性がある。

 既存の金融ネットワークは長い歴史を持つが故にシステムの基本設計理念が古臭い。レガシーなシステムをいまだに使うことで、メンテナンスコストが嵩んでいる。さらに改良を重ねているのでシステムが継ぎはぎ状態になっているはずだ。一部はすでに扱えるエンジニアが非常に少ない状態になっているだろう。この古いシステムの維持コストは、我々消費者に高額の手数料という形で転嫁されている。

 例えば、グーグルの検索は無料で行われているが、銀行の決済よりもシステムの負荷は高いはずだ。しかし前者は無料で後者は有料である。それは先述の通り、システムが古いままだからなのだ。

 これまでも彼らのシステムを使わない手はあったはずだが、レイトマジョリティーはそんなことは知らないし、知ろうともしない。結果として古いシステムは生き永らえているままだ。

 しかしスマートフォンは誰もがこれから使うだろう。そこにこっそり新しいシステムが入っていても彼らは気付かず、便利だから自然に使うようになるだろう。そこがアップルの強みで、既存の金融業界をうまいこと取り込んでいる。彼らにメリットがあるように見せるのが得意だからだ。それはiTunes+iPodで既存の音楽業界を取り込んだことで実証済みだ。

 結果として音楽業界はアルバムCDというビッグビジネスを失うことになった。歴史の必然かもしれないが、その速度を速めたのは明らかにアップルだろう。今回の決済ビジネスでも彼らは同じことをやろうとしているのだ。もちろんうまくいくかどうかはわからない。しかしチャレンジすることに大きな意味があると思われる。これからは決済がアツいはずだ。

週刊朝日  2014年10月31日号