F1ワッチ (f1watch)

Watching the Formula One from an Armchair

ケータハムのゴタゴタを解読する


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結局、ケータハムで何が起きているのだろうか。

United States GP - Caterham F1 Team

どうやらポイントは二つのようだ。まず、(1) F1に出走する権利を誰が有しているのか。そして (2) F1に出走するために必要な施設と機材を誰が有しているのか、である。この二つの点が食い違っていることが、今回のケータハムのゴタゴタをわかりにくくしていると思われる。

ジャーナリストのジョー・サワードが解説記事を書いているが(Explaining the mess at Caterham | joeblogsf1)、その解説記事がとても難解なので、直訳してもほとんどの読者には理解が難しい。そこでF1ワッチでは、他のニュース記事も参考ししながら、サワードの記事をふまえつつ、さまざまな注釈を入れながら解読していきたい。

(1) F1に出走する権利を誰が有しているのか

最新のニュースでは、ケータハムが「撤退」をほのめかす公式リリースをおこない、元オーナーのトニー・フェルナンデスを糾弾していていることが話題になっている。フェルナンデス側も反論をおこなっており、水掛け論のようだ。この状況がなぜ生じているのかを解説する。

長期的にみて、最も重要な「資産(asset)」は、F1に出走する権利(The Formula 1 entry)である。出走権の数は限られており、新規参入はほとんど認められないので、これまでも既存のチームが所有している出走権を引き継ぐかたちで新しいチームが参戦してきたのは、F1ファンならご存知の通りである。ベネトンがルノーになり、ブラウンがメルセデスになり、スチュワートがジャガーになり、ジャガーがレッドブルになり……などなど。

ケータハムに関するF1出走権は、実は、依然としてマレーシアの「株式会社ワン・マレーシア・レーシング・チーム(1Malaysia Racing Team Sdn Bhd[訳註:Sdn Bhdとはマレーシア語の Sendirian Berhad (Private Company)の略で、要するに株式会社のこと])」が所有している。

ケータハムというF1チームは、2014年の夏に、元F1ドライバーのクリスチャン・アルバースを代表として、かつ財政面ではコリン・コレスをマネージャーとする共同事業体(Engavest SAというコンソーシアム)によって買収されたことは既報の通りである。しかし、F1出走権は、依然として前オーナーのトニー・フェルナンデスによるマレーシアの株式会社によって握られている。

つまり、このマレーシアの株式会社が倒産し、バーニー・エクレストンが率いるフォーミュラ・ワン・グループが契約を解除しなければ、F1出走権は有効なままである。そして今日現在まだ「株式会社ワン・マレーシア・レーシング・チーム」は倒産していないので、その権利がケータハムF1チームに対して売却されたのか貸し出されているのかはわからないが、とにかくも最も貴重な資産であるF1出走権は生きていることになる以上、ケータハムがF1に参戦し続けることに問題はないはずだ、とジョー・サワードは推測している。

ESPN F1が「チーム所有権のないケータハム新オーナー」で報じていることに鑑みると、その貴重なF1出走権を、アルバースたちは「買い取った」はずだったのだが、元オーナーのフェルナンデスが「(約束に反して)手放さない」ので、ケータハムF1チームは、実体としては新オーナーたちが資金を投じて経営しながらも、その名義はフェルナンデスによって握られたまま、というねじれ現象が生じていることになる。ひじょうに土台があやふやなままで夏から参戦を続けてきたということになる。

しかしフェルナンデス側の言い分によると(フェルナンデスは投資家の非を主張 | Caterham | F1ニュース | ESPN F1)、新オーナーらが、売買の際の契約条項を履行しないので、F1出走権を手放していないのだという。それはどうやら既存の債権者に対する支払い(つまり借金の肩代わり?)のようだ。それを支払う気がないなら、権利も渡さない、という腹積もりのようだ。

このF1出走権は極めて重要ではあるが、紙の上の話だから、実際のレーシングチームやマシン、そしてドライバーとは直接の関係はない。マレーシアの株式会社が倒産したり、出走権がバーニーによって取り消されない限りは、F1レースチームの活動に問題はないと考えられる。

(2) F1に出走するために必要な施設と機材を誰が有しているのか

しかし話をややこしくしているのが、そのF1レースチームに必要不可欠な工場と機材の所有権の問題である。

既報の通り、F1マシンを実際に製造してレースチームに供給しているのはイングランドのリーフィールドにある「ケータハム・スポーツ・リミテッド」だが、これが管財機構の管理下におかれ、今後管財人によって、破産するのか再建されるのかの判断がおこなわれる見込みである。そしてその「ケータハム・スポーツ・リミテッド」は、前出の「株式会社ワン・マレーシア・レーシング・チーム」によって運営されていたという。つまり、まだトニー・フェルナンデスによって握られているのだ。その会社が財政危機に陥った。

その施設で製造されたマシンや機材が出荷され、現在のレースチームの拠点である工場(ファクトリー)に運び込まれ、世界各地のグランプリに運ばれてきたのだと考えられる。

先ほどのF1出走権の話も踏まえると、今回、「破産するかいなか」の瀬戸際に立たされているのは、つまりトニー・フェルナンデスの側の話であり、確かに公式リリースにあるとおり、現在のケータハムF1チームには関係がないことのようだ。

それではなぜ、ケータハムが撤退をほのめかすような状況になっているのか。

それはどうやら、管財人の行動にあるようだ。今回、旧オーナー側によって運営されるF1マシン製造拠点「ケータハム・スポーツ・リミテッド」が危機的な状況に陥ったことによって、その資産を保全するという名目で、管財人たちは、新オーナー側のレースチームの拠点であるファクトリーまで差し押さえて閉鎖してしまった。おそらくファクトリーに置かれている機材が、倒産瀬戸際の「ケータハム・スポーツ・リミテッド」の資産と見なされたからだろう。

この管財人は、あくまでも元オーナーのフェルナンデス側の代表者なので、新オーナー側の立場には立っていない。だから新オーナー側は「我々は関係ないのに、不当な差し押さえだ」と主張しているのである。「リーフィールドから拠点を動かさなければいけないかもしれない」という発言にも、その意味が見いだせてくるのではないだろうか。決して新オーナーは、苦し紛れに根拠がないことをわめいているのではない。

このように状況を整理すると、今回のゴタゴタの最大の原因は、2014年の夏までに交わされた、トニー・フェルナンデスと新オーナー(当時はクリスチャン・アルバース)のあいだの売買契約の内容と、両者のその履行状況にあるようだ。

F1出走権(ケータハムF1チーム)はまだ委譲されておらず、あくまでもフェルナンデス側が握っているというのは重要だ。

そしてレースをするのに必要な機材を供給していた会社もまた、依然としてフェルナンデス側に握られたままであり、そのフェルナンデス側が勝手に財政破産の危機に陥り、管財人によって管理される事態になってしまった。フェルナンデス側にすれば「もう、しらん」ことだし、さらに投資をする気もないだろうから、この状況で苦しむのは、新オーナーたちが実質的に運営するレースチーム側である。実際、ファクトリーまで差し押さえられてしまったのだが、これはフェルナンデス側が原因であり、確かに「とばっちり」であるようだ。

おそらく、小林可夢偉とグランプリに帯同しているピットのチームのスタッフは、こうした状況の被害者である。実体としてレースをおこなっているチームは、連帯しているように思われる。マイレージ制限によってラップ数が制限されたり、折れそうなサスペンションをカーボンで補強して使い続けたり、そういった状況は、いったい何が原因なのか……は、上で二点の整理した通りである。

そう考えると、昨今のケータハムに関する見方も変わってくるのではないか……。

ケータハムの「ごたごた」に関しては、当F1ワッチも継続して記事にしているので、カテゴリー「"ケータハム" 」をご参照ください。

(しかし気になるのが、ここのところなりを潜めているコリン・コレスだ。うがった見方をすれば、彼にとっては今のレースをしている実体としてのチームはどうでもよくて、F1出走権という紙上の契約だけだとすれば……その出走権だけを自分が結成するというルーマニアのチームに持っていけるのだったら……今のレースチームを見殺しにするぐらいは、平気でするだろう。これはただのF1ワッチによる「斜め45度」からの邪推なのだが。)

(CC) 画像出典:United States GP - Caterham F1 Team | Flickr - Photo Sharing!