アップルの腕時計型デバイス「Apple Watch」によって、スマホと連携するスマートウォッチが普及し、腕時計は時代遅れとなってしまうのだろうか。腕時計メーカー、カシオの事業責任者がスマートウォッチと腕時計の将来を予測した。
Apple Watchは、腕時計の敵か味方か?
米アップルは2014年9月に、腕時計型のウエアラブル端末「Apple Watch(アップルウォッチ)」を発表した。来年15年にも発売され、価格は349ドルからとなる見通しだ。
Apple Watchはメールや電話への返答、地図のナビやカレンダー閲覧、音楽視聴に加えて、さまざまなアプリも利用可能。心拍数や全身の動きを読み取ることができ健康管理やフィットネス用途にも使える、まさに「多機能腕時計」だ。
一方、こうした腕時計型の「スマートウォッチ」市場へすでに参入していたサムスン電子やLG電子、ソニーも、相次いで新製品を発表した。多機能を売りにしたスマートウォッチの新製品が続々と登場しそうだ。
スマホが携帯電話のシェアをあっという間に奪ったように、近い将来、Apple Watchをはじめとしたスマートウォッチは今までの腕時計の地位を奪うのか。そもそもスマートウォッチは、腕時計の代替になり得るのだろうか。今後のデジタルトレンドを占う上で重要なポイントだ。
そこで腕時計市場で、アップルやサムスン電子などと相争うとみられるカシオ計算機に、スマートウォッチや腕時計の将来について聞いた。
カシオは「G-SHOCK」をはじめとした腕時計ブランドを世界的に展開しつつ、昔から腕時計型のリモコンやMP3プレイヤーなども開発。スマホと腕時計などの小型機器とが互いに連携するために必要な「Bluetooth 4.0」の規格策定にも深くかかわっている。
2012年には、Bluetoothでスマホと連携するG-SHOCKを発売、また2014年秋にはスマホと連携するアナログ腕時計を発売するなど、スマートウォッチ市場にも造詣が深いのだ。
スマートウォッチを欲しがるのは一般人ではなく「ヘビーユーザー」
―― Bluetoothでスマホと連携するG-SHOCKを発売してから2年半。腕時計事業の責任者という観点から、現在のスマートウォッチ市場をどのように見ていますか。
カシオ計算機 時計事業部長 増田裕一氏(以下増田): 先日発表されたアップルの「Apple Watch」はもちろん、サムスン電子の「Gear」やLG電子の「G Watch」シリーズ、ソニーの「SmartWatch」「SmartBand」など、すでに発売されているスマートウォッチはたくさんありますよね。
ですが、これらのスマートウォッチで現状できることは、メールやTwitterのチェック、音声検索、電話、地図でのナビゲーションなど、「スマホでできることを腕時計型のデバイスにもってきている」という印象があります。
なるほど、スマートウォッチはどれも多機能です。ですが、それ単体では動かないのでスマホと両方持たなければなりません。「それならスマホ1台だけでいいや」となってしまい、期待したほど一般ユーザーに広がっていないのが現状ではないでしょうか。
―― 確かにそれはありますね。スマートウォッチの音声検索機能を使っても、結局スマホを出さなくちゃいけない。
増田: メールを例に挙げると、スマートウォッチでメールを読んだり、定型文で簡単な返信ができるのは一般ユーザーにとっても便利でしょうが、それだけでは、実はスマートウォッチを本当に必要としている人は満足しません……。なぜなら今スマートウォッチを必要としているのは、スマホを使い込んでいるヘビーユーザーだからです。
そうしたヘビーユーザーはスマホを見ずにメールをチェックできることは便利だと考えていますが、一方でさまざまなメール形式に対応し、フィルター機能なども使え、相当なデータ量を扱うことができないと、彼らにとっては中途半端で満足できません。
一方、今のスマートウォッチの機能で十分満足できる一般ユーザーは、そもそもスマートウォッチを持つ必要はなく、そこまでしようとは思わない。だから、買わない。ここにスマートウォッチ市場の難しさがあります。