妊娠を理由に降格させることは、よほどの事情がない限り、認められない。

 最高裁がそう判断した。

 広島市内の病院に勤める理学療法士の女性は、就職後10年で管理職の副主任になった。08年、妊娠がわかって負担の軽い業務に変えてもらえるよう願い出たところ、異動後に副主任の役職を外された。

 これまでの努力が無に帰したと感じた。月9500円の副主任手当を失ったことも家計には痛手だった。

 男女雇用機会均等法は、妊娠・出産を理由とする不利益な取り扱いを禁止している。

 最高裁は、本人の意に反して、妊娠を理由にした降格が許されるのは、雇用主がやむをえない事情を説明できる場合に限定した。納得できる判断だ。

 しかし現実はどうだろう。妊娠を報告したら、上司から退職を迫られた、派遣先に契約更新はないと告げられた、夜勤など業務の負担を軽くする配慮が全くない、といった経験を耳にすることがあまりに多い。

 「マタニティー・ハラスメント」という言葉が定着し、同様の問題に直面した人たちのグループもできている。

 厚生労働省によると、都道府県労働局に昨年度、妊娠・出産に伴う雇用主による不利益な取り扱いや健康管理をめぐる相談が3千件以上寄せられた。

 これも氷山の一角で、不本意ながら受け入れているのが多数ではないか。

 子どもを産み、育てながら働き続ける。多くの先進国で当たり前のことが、日本では難しい状態が続いてきた。

 政府は女性の活躍推進を掲げているが、足元にあるこうした現実をまずしっかり見すえてほしい。問題ある雇用主への指導など、関与を強めるべきだ。

 裁判で病院側は、ほかの女性職員は役職を外されても子育てが落ち着いてから再び役職につけるよう努力している、と降格を正当化した。

 女性は妊娠・出産のたびキャリアをリセットしてやり直すものだ、という発想だ。雇用する側の本音かもしれない。だが、母性を保護し、仕事も充実させるという均等法の理念からは、およそ逸脱していた。

 最高裁が厳格な基準を示した以上、各企業は自らの姿勢を問い直してみるべきだろう。

 妊娠中や出産後にどう働くかは、職場の理解や協力によるところが大きい。カバーする負担が一部の人に集中して別の無理をうむことがない、職場環境の工夫も不可欠である。