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総力特集! アニメ『ゆゆ式』(2)――シリーズ構成・高橋ナツコ インタビュー 「普通のアニメでは当たり前のことが『ゆゆ式』では当たり前じゃない」(中編)
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【『ゆゆ式』特集の導入コラムはこちら】
【インタビュー前編はこちら】
(前編からの続き)
■『ゆゆ式』の空気感を支える脚本術
――萌え四コマである『ゆゆ式』を、各話のシナリオに落としこむ際に難しかった点というとどういったところになるのでしょうか?
高橋:本番のシナリオ作業に入る前、初めに準備稿を作ったんですけど、少しでも語尾や間をいじっただけで、『ゆゆ式』の独特の空気感やキャラクターの魅力みたいなものが崩れてしまったんですよ。ギャグ四コマではなく萌え四コマなので、ネタよりもキャラクターの魅力が重要じゃないですか。だからそこは絶対に損なわないようにバランスを取りながら、四コマ同士をどう自然に繋いで、どう緩急やカタルシスを作るのか、というところが難しかったですね。
シリーズ構成の段階で、各話のテーマとおおよその使用エピソードの指定はしましたけど、それをもとに脚本の形に整えても、あと一歩のところで「何かちょっと違う」ってことが多くて……。各話で入ってもらったライターのみなさんも苦労されてました。
――第4話までは、他の脚本家の方の担当回でも高橋さんと連名クレジットになっていましたね。
高橋:やっぱりあの独特の空気感をつかむのには時間が必要で、第4話までは私の方で、あがってきた脚本に対してネタを差し替えたり少しだけ台詞をいじったり、ってことをさせていただいたので、連名になっているんです。理屈で説明できれば、みなさん実力は確かな方たちなので、改訂をお願いすることができるんですけど、すごく些細なニュアンスなので……。だから原作ものにもかかわらず、どの回も第4稿、第5稿くらいは当たり前に、随分時間をかけてるんですよ。
――原作ものでそこまで稿を重ねる(=何度も改訂する)ことは珍しいですね。
高橋:自分で書いた第1話、第2話もすごく大変でした。一巡すると大丈夫なんですけどね。なので第5話以降は、改訂はお願いしてますけど、もう私の方で大きく書き換えたりはしてません。
――ネタの描き方はいかがでしょうか。『ゆゆ式』には高度なギャグが多いため(特集導入コラム参照)、それをわかりやすく噛み砕いて提示することにも苦労されたのでは。
高橋:そうですね、これは「ギャグですよ」って前振りになる間を、表情や仕草などでしっかり作るように工夫しています。マンガの場合「あれっ?」って思ったらページを戻って確認できますけど、アニメでは引っ掛かりを作らないとギャグだと気づかれないままただ流れてしまうと思ったんです。かといって台詞で説明を入れてしまうと、やっぱり『ゆゆ式』じゃなくなってしまって……。
だからギャグを描くときのリズムや間に関しては、シナリオの段階からかなり書き込んでいましたね。その後コンテでも随分と前振りやリアクションを積んでいるところが多かったので、監督もすごく意識されていた点だったと思います。
それともう一つ気を配ったのは、この子たちが自然に、ふとネタを思いつくような状況を作るということですね。思いついたネタを漫才みたいに言い合うのではなくて「今このネタが生まれる自然な空気感」みたいなものが出せたらなと。
――空気感は演技によっても大きく補われていたと思います。第4話の「どんくらい(Don’t cry)」などの処理も絶妙で。
高橋:素晴らしい演技でしたよね。あそこは特に難しかったところの一つで、シナリオを作るときも随分みんなで話し合いました。
――他に難しかったエピソードというとどちらになるのでしょうか?
高橋:第6話のお母さん先生の家での鍋パーティーも随分悩みましたね。あそこも鍋パーティーなのに、原作にはお鍋を食べてるシーンがほぼないんですよ。
だから初めは、お鍋を食べながら4人でネタをやるのが楽しいんじゃないか、って案も出ました。それであの場に上手く合いそうな会話を原作から見つけてきて当てはめたりもしてみたんですね。普通のアニメなら絶対に、お鍋を食べてるときの楽しい雰囲気を描くものなので。
でも書いてみたら、やっぱり違ったんですよ。お鍋を食べに行くってイベントはとても重要なんですけど、あの子たちは無駄な時間がほとんどない3人なので、お鍋を食べながらのんびり楽しそうにしてる雰囲気が全然合わなかったんです。
そういう普通のアニメでは当たり前にやることが『ゆゆ式』では当たり前ではなくて、そこはとにかく難しかったですね。
――普通が通用しない『ゆゆ式』独自の世界観が強固にある他方で、オリジナルのエピソードを上手く組み込んだシーンもちらほらと見受けられます。シーンとシーンの細かい合間をはじめ、大きなところで言えば第3話の自動販売機のシーンなどが目立ちましたが。
高橋:オリジナルシーンは四コマと四コマの間を自然に繋ぐためというときが多いですけど、第3話は3人の心象の流れを表現するために入れたところですね。こういうとき、一般的にはモノローグを使って説明することが多いですけど、それをやるとまた『ゆゆ式』じゃなくなってしまうんですよ。なのでそこも、表情なり仕草なりで表現する必要があったんです。
ゆずこと縁の2人が自動販売機の前でジュースを投げ合うシーンと、その後のゆずこ1人だけのシーンの対比を作ることで、縁がいなくてさみしいって気持ちを、モノローグではなく描写のなかで自然と見せられたらなと。
――描写へのこだわりは、ロケーションの変更からも強く感じました。原作では部室や教室が舞台だったシーンが、河原や商店街や通学路へと変えられているケースが多いですよね。
高橋:シナリオハンティングでは、部室以外のところでよりよく心象を表現できるようなところを探しましたね。街並みのモデルとなった場所をみんなで歩きまわって通学路の順番を決めたり、学校のモデルとなった女子校のなかを隅々まで見て回ったりして、部室までのストロークとか、教室で学んでる雰囲気とかを直に感じて。やっぱり想像だけだと、原作以上の絵的なイメージは膨らみづらいので。
その後すぐイメージボードも作っていただけて、写真なども参考にしながら、この子たちがどういう風景を眺めながら、どういう時間帯に、どうやって歩いてるのかみたいなことを細かく決めていきました。その風景のなかに3人を置くことでようやく、原作では全然別のところにある四コマ同士を、自然な心象の流れのなかで描けるようになったところがあります。
【後編へ続く】
(※高橋さんのプロフィール、取材データは最終回に掲載いたします)
©三上小又・芳文社/ゆゆ式情報処理部
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