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つれづれイタリア~ノ<うつのみや〜の編>ジャパンカップにやってきたイタリア人選手・スタッフはみんな日本が大好き!

2014/10/23 19:45更新

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 今年もアジア最高峰のワンデーレース「ジャパンカップサイクルロードレース」が終わりました。日本国内で多くの自転車レースを見てきましたが、個人的にこのレースは特別な意味を持っています。日本で一番イタリアを感じることができるレースだからです。毎年5月に行われるステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」もがんばっていますが、これだけ多くの海外選手が来日するレースといえば、やはりジャパンカップしかありません。

 特にイタリア人は、他の国を抑えてダントツに多いのです。選手だけでなく、多くの海外チームをサポートするスタッフ、マッサー、監督もイタリア人なのです。

レース前にエスプレッソコーヒーを味わうランプレ・メリダの選手たちレース前にエスプレッソコーヒーを味わうランプレ・メリダの選手たち

イタリア人流 宇都宮の楽しみ方

 ジャパンカップ開催期間中の宇都宮は、イタリアを肌で感じられる街に変貌します。中心市街の大通り沿いに、各チームが宿泊するホテルがあります。その周辺を歩くと、好奇心旺盛なイタリア人と遭遇することが多い。アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、オメガファルマ・クイックステップ)、ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・メリダ)、モレノ・モゼール(イタリア、キャノンデール)らが、普通にコンビ二に入ったり、街を散策したりしています。

美女に囲まれてうれしそうなダミアーノ・クネゴ美女に囲まれてうれしそうなダミアーノ・クネゴ

 イタリア人の日本での代表的な楽しみ方は3つ。携帯で写真を撮ってフェイスブックやツイッターに載せること。電化製品を見ること。そして美しい女性を眺めること。今年、人気アニメ「弱虫ペダル」の影響もあって数多くの若い女性たちがレース会場に来ていました。彼女たちの姿は、しっかりイタリア人の目に留まっていたようです。

可愛いキャノンデールファン可愛いキャノンデールファン
「弱虫ペダル」のジャージ。イタリア人選手から「どのチームですか」と聞かれました「弱虫ペダル」のジャージ。イタリア人選手から「どのチームですか」と聞かれました

外国人選手を支えたファンの声援の力

 ジャパンカップは、実は多くのイタリア人選手にとって特別な意味をもっています。レースが終わってから選手たちと会話を交わした中で、特に印象に残った2人の声を紹介します。まずは、ランプレ・メリダのエリア・ファヴィッリです。

ランプレ・メリダのファンが集まるコーナー。着物でヴァレリオ・コンティを応援ランプレ・メリダのファンが集まるコーナー。着物でヴァレリオ・コンティを応援

 ファヴィッリ「ハイレベルなレースでした。1周目からとても速かった。終盤までスカイとガーミンが主導権を握っていました。しかし、チームメートの(ヴァレリオ・)コンティと(ヤン・)ポランクが最後まで粘り、6位と8位に入りました。自分自身がチームメートに貢献できなかったことは悔しいです。長旅の影響で脚を回復することができず、途中でリタイヤしようと考えていましたが、ファンの声援が、最後まで走る力を与えてくれました。応援には本当に感動しました」

 2度目のジャパンカップ参戦を果たしたティンコフ・サクソのマヌエーレ・ボアーロにもジャパンカップの印象を聞いてみました。

 ボアーロ「シーズンの最後で体はとても疲れていますが、ジャパンカップは好きなレースの1つです。コースはとても難しい。でも、一つ言っておきたいことがあります。ツアー・オブ・北京に参加したばかりですが、中国と日本は別世界です。ジャパンカップはコース設定としても、組織委員会としても最高のレースです。UCIプロツアーレースに昇格してほしい。レベルは高いし、観客もジロ・デ・イタリアと同じです。逆に中国では人も少なかったし、ほとんどの人はレースに無関心でした。自転車競技の文化が浅いからかもしれませんが、さみしい印象を受けました」

 さらにボアーロは、日本人のいいところを強調しました。

 ボアーロ「ジャパンカップで一番心に残ったのは、日本人の礼儀正しさです。日本では(来日した)すべての選手たちが丁寧な対応を受けます。イタリア人も日本のおもてなしから見習うところがたくさんあると思います」

イタリアの伊達男が大好きという、大阪から来たファンイタリアの伊達男が大好きという、大阪から来たファン
 キャノンデール応援隊 キャノンデール応援隊

マッサーに聞く 長旅と時差ボケのダメージ撃退法

 日本とヨーロッパはやはり遠い。イタリアからの直行便でも12時間以上かかります。往来する人の悩みは脚のむくみ、疲労感と眠気。選手たちも同じです。

 ランプレ・メリダに同行していたマッサー、ミケーレ・デルガッロさんに時差や体調不良を乗り越えるための秘訣を聞きました。

エスプレッソコーヒーを前にして、ついファンサービスを忘れてしまったランプレ・メリダの選手たちエスプレッソコーヒーを前にして、ついファンサービスを忘れてしまったランプレ・メリダの選手たち

 「時差は選手にとって大敵です。ほとんどの人は東に向かうと、時差に悩んでいます。可能ならレースが開催される日程より早めに現地入りしたい。日本の場合は1週間前に出発したほうがいいです。しかし、ほとんどの場合は不可能なので、到着後1日目は眠気を我慢して朝と午後、2回トレーニングをします。そうすることで、体内時計が自然に新しいリズムに適応します」

 「別の問題もあります。長い空の旅は脚に多くのダメージをもたらします。機内の気圧の影響で脚の筋肉が膨らみ、血の流れが悪くなります。パフォーマンスが大きく下がるので、出発前に全員にリカバリータイツを履かせます」

 食事に気をつけることはあるのか、そして日本の食事が選手たちの口に合うのか、食べ物についても聞きました。

ランプレ・メリダのパニーニ。イタリアから持ち込んだものランプレ・メリダのパニーニ。イタリアから持ち込んだもの

 「できるだけ多くの食材をイタリアから持ってきます。日本ではあまり心配がなく、ほとんどの食材は現地調達できます。しかし、他の国、特に中国で行われるレースの際は、選手が口にするもののほぼ全てイタリアの食材。食生活が異なるからではなく、農薬、保存料がたくさん使われているケースが多いので購入できません。中国に関してはUCIからも伝達があり、クレンブテロールのような成長を促すホルモンが使われているので、肉類を買わないように指示されました。さらに、イタリアと中国の衛生基準は大きく異なるため、食中毒を回避する意味もあります。日本の場合は、安心してレースできます。レース後は、みんな日本の食事を好きなように食べます」

チームが違っても、スタッフはみんなお友達?

 レース中であってもイタリア人はイタリア人。おしゃべりが大好き! 各チームに帯同するスタッフには多くのイタリア人がいます。ジャパンカップのような周回レースは、補給ポイントが決まっていて、スタッフはそこで待機します。

 ジャパンカップではおよそ20分ごとに選手にボトルやサコッシュを渡しますが、それ以外の時間は何をしているのでしょうか? 違うチームであってもイタリア人同士が集まり、すごい言葉のバトルが始まります。

左からミケーレさん、ステファノさん、ルイジーノさん。お笑いトリオのようでした左からミケーレさん、ステファノさん、ルイジーノさん。お笑いトリオのようでした

 今回、ルイジーノ・モーロさん(キャノンデール)、ステファノ・チェレアさん(トレック ファクトリーレーシング)と、先ほど話を聞いたミケーレ・デルガッロさん(ランプレ・メリダ)の会話に耳を傾けました。イタリア特別州税制価格と税制優遇についての熱い議論でした。

 正義感の強いミケーレ「みんな首都ローマに税金を収めている。当たり前じゃん。もしみんな自分の地域のことしか考えなければ国が破綻しますよ」

 トレンティーノ州出身で地域分離派のルイジーノ「それとこれは別。私はオーストリア=ハンガリー帝国(1804‐1918年)時代を復活させてほしい。オーストリア帝国の支配下だった時に、わが地域は一番発展した。あんたのロンバルディア州でも同じだよ」

 会話を難しそうに聞いている太めのステファノ「ロンバルディアでも?」

 ルイジーノ「あんたたちミラノ(ロンバルディア州の北西部)で独立運動(1848年)を起こしたでしょう? その影響でオーストリアが厳しくならざるを得なかった。それがなければ平和だったよ。イタリア王国になってからも政策は間違いだらけ」

 ステファノ「イタリアの王はまだまし! オーストリアの皇帝はあの女と結婚したじゃないか。『シシー』(皇后エリーザベトの愛称)だったっけ? あの人は馬鹿だよ。そして何人の愛人がいたと思う?」

ファンに余ったボトルを渡すミケーレさんファンに余ったボトルを渡すミケーレさん
レース終盤に向けて、パニーニの代わりにジェルを用意レース終盤に向けて、パニーニの代わりにジェルを用意

 イタリア人は政治の話が大好きで、いつでもどこでも政治の話をします。ルイジーノさんは税制の重圧を強く批判し、ミケーレさんはイタリアがバラバラになることを恐れています。ステファノさんは女性とのスキャンダル話が大好きで、議論が難しくなると、話題を変えようとします。

 20分の間にイタリアの最新政治情勢から、歴史認識問題の熱弁、そして女性の話へシフト…イタリアだなぁと思いました。

 さて、今週末はさいたまで、また新しいイタリアとの出会いが始まります。次回のつれづれイタリア~ノを楽しみにしてください。

文・写真 マルコ・ファヴァロ

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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