香港の中心街が学生らに占拠されて、間もなく4週間になろうとしている。

 争点である行政長官選挙をめぐり、学生団体と香港政府との直接対話がやっと実現した。

 香港政府が対話に応じたことは前進と評価していい。だが、議論は平行線に終わった。

 そのやりとりからうかがえるのは、香港政府自身に決定権はなく、背後にいる中国・習近平(シーチンピン)政権こそが鍵を握っているという厳然たる事実である。

 長官選挙は17年に予定されている。対立点は、立候補するための資格条件だ。政府は「1200人からなる指名委員会の過半数の支持」としている。

 それに対し学生側は「市民の一定の支持があれば誰でも立候補できる」よう求めている。

 今回の対話で政府は、それを拒んだうえで、17年の選挙後に改めて議論しようと提案した。つまり問題の先送りだ。いまは中国の決定に従うしかない、という構えが明確になった。

 では中国の態度はどうか。

 北京の要人の発言に目立つのは「カラー革命」になぞらえた非難だ。カラー革命とは00年代に東欧・中央アジアで続いた政権転覆を指し、背後で米国が仕掛けた、と解釈されている。

 要するに、香港の学生らによる抗議を「英米勢力の介入による陰謀」と決めつけている。

 こうした陰謀説は、中国共産党が対抗勢力を排除する際の常套(じょうとう)論法だが、そんな曲解を続ける限り、抗議活動の真相を見極めることはできない。

 運動の先頭に立つ学生らは政治的に目覚めた世代とされる。一昨年、中国が香港に「愛国教育」を強制しようとしたことに反発し、街頭行動に立ち上がった若者らが中心だ。その意味では、ほかならぬ中国自身が火付け役だったといえる。

 彼らの要求は政権転覆ではない。よりよき選挙制度である。

 学生代表の一人は対話の中で「香港は平等な社会に向かっているのか」と問うた。

 財界人が多数を占める指名委に選ばれる長官候補者に、低所得者の声は届かないという問題提起だ。格差が広がる社会に向き合って選挙制度を考えようとする姿勢は、香港の内外で共感を呼ぶだろう。

 普通選挙を実施する以上は、香港市民が納得して投票できるよう、制度を改善する努力を続けるのは当然だ。

 現状からみて、妥協は難しそうにみえる。だが香港の民主主義を前に進めるため、また習政権に再考を促すためにも、対話を粘り強く続けてほしい。