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抱っこひも 転落事故を防ぐには

10月22日 18時00分

馬渕安代記者

子どもをおんぶしたり、抱っこ(だっこ)したりするときに使う「抱っこひも」。
乳幼児が転落する事故が相次いだことを受け、安全対策を検討してきた東京都の協議会は、物を拾おうとして前かがみになるなど通常想定される動作では事故が起きないよう、メーカー側に製品の改良を求めることなどを盛り込んだ提言案をまとめました。
首都圏放送センターの馬渕安代記者が解説します。

相次ぐ転落事故

「抱っこひも」から乳幼児が転落する事故は、東京都が調査したところ、この5年余りの間に少なくとも117件起きています。
このうち、頭を強く打つなどして入院が必要なケースは27件に上っています。
このため東京都はことし8月、メーカーや消費者団体などと協議会を立ち上げ、安全対策について検討を進めてきました。
東京都が保護者へのアンケートを実施したところ、実際に転落したり、いわゆる「ヒヤリ・ハット」を経験したりしたと答えたのは、34.9%で、3人に1人に上ることが分かりました。

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転落事故はなぜ起きる

転落事故はどのようにして起きるのか。
先月、東京都は、さまざまなメーカーの製品を使い、子どもと同じ重さの人形を女性が抱っこして、どのような使い方や姿勢のときに事故が起きるのか再現実験を行いました。
実験では、背中の留め具を外した状態で前かがみになって物を拾おうとすると、子どもに見立てた人形が頭から落ちてしまいました。
また、きちんとベルトを締めずに抱え上げると、すぐに不安定な状態になってしまうことなどが確認されました。

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実験を行った産業技術総合研究所の北村光司主任研究員は、「適切な使い方がうまくできていない場合に事故やヒヤリ・ハットが起きてしまう。実際に使っていくなかで、どうしても適切ではない使い方が生まれてしまっていると思います」と話していました。

安全な使い方の指導も

横浜市にある子育て支援施設では、抱っこひもの教室が開かれています。
集まっているのは、子育てを始めたばかりのお母さんたちです。
ここでは転落を防ぐため、赤ちゃんと密着した状態で、ひもを調整するように指導しています。
参加した母親は「正しい使い方を教えられていないと、少し緩めてもおしゃれかな、という感覚で、着けてしまうと思います」と話していました。
この教室では、デザインや流行などでなく、自分の体型に合った「抱っこひも」を選んでほしいとアドバイスしています。

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子育て支援施設「Umiのいえ」の佐藤亜衣さんは、「試着して商品を選ぶ人はほとんどいませんし、きちんとした使い方を伝えることも少ないと思います。素手で抱っこしたときのような心地よさのあるものを選ぶことが大事です」と話していました。

事故防止に向けた提言案

東京都は21日、再現実験や保護者へのアンケートなどを基に、事故を防ぐための提言案をまとめました。
この中でメーカー側に求めたのは、製品の改良です。
物を拾おうとして前かがみになったときや激しく動く子どもをおんぶしようとしたときに転落事故が相次いでいるとして、通常想定される動作では事故が起きないよう、製品の改良を検討するよう求めています。

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具体的には、▽前かがみになったときの転落を防止するために子どもの腕をひもに通す構造にすることや、▽脇などからすり抜けないよう使用中はベルトなどが緩まない構造にすること、また▽おんぶする際の落下を防ぐためベルトやカバーをつけることなどが挙げられています。
さらに、▽留め具が留まっていることなどを確認しやすいデザインにすることや、▽乳幼児をパットにくるむタイプは、パットごとすり抜けないよう本体に固定できるようにすることなどを求めています。
また、提言案では業界団体などに対して、利用者から事故の情報を受け付ける窓口を設置することなども求めています。
アンケートの結果、「子どもが転落した」または「転落の危険を感じた」と答えた保護者のうち9割は、利用者側の不注意が原因と考え、メーカーなどにほとんど報告していなかったことが分かったためです。

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協議会に参加したアメリカに本社があるメーカーの代理店の担当者は「事故の報告や、ヒヤリ・ハットが届かないということがあるので、今後、私たちのほうに届くような仕組みを工夫して作っていきたいと思います」と話していました。
また協議会の会長を務める産業技術総合研究所持丸正明研究センター長は、「メーカーは消費者が常識的に取りうる動作を考慮したうえで、安全に物を作ることが大事だと思います。一方、消費者も危険性を知ったうえであまり変な使い方をしないという、両方の歩み寄りが事故を減らすことにつながると思います」と話していました。

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協議会では年内に正式に提言をまとめ、業界団体などに具体的な対策を求めることにしています。


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