ソフトランディングへの出口を示せ
この状況で、首相が示唆したように消費税の増税を先送りすると何が起こるだろうか。日銀の黒田総裁は、衆議院の財務金融委員会で「万が一先送りされ、確率は低いが財政への信認が失われば対応が極めて困難」との見解を明らかにした。彼が財政への懸念を表明するのは珍しい。
日銀は約165兆円の国債を保有しているが、これは史上最高値圏で買っているので、金利が上がる(債券価格が下がる)と多額の評価損を抱える。例えば金利が今のアメリカ並みの2%台になると、日銀は20兆円以上の評価損をこうむる。日銀は86兆円の紙幣をもっているので、それを発行すればいくらでも債務を埋めることができるが、高率のインフレが起こる。
こういう「ハードランディング」のリスクは小さくない。政府債務は、あと2年で個人金融資産を上回る。FRB(米連邦準備制度理事会)もテーパリング(緩和縮小)を開始して、金利が上がり始めた。
黒田総裁は「2%のインフレ目標達成は2015年にこだわらない」と実質的に延期したので、量的緩和を続ける必要はない。今や完全失業率が3.5%まで下がった日本経済は「超完全雇用」ともいうべき状態で、人手不足や建設資材の不足、エネルギー価格の上昇など、供給制約が表面化している。
ここで財政・金融政策で需要を追加しても、供給不足が悪化してコストプッシュ・インフレになるだけだ。内閣府の浜田宏一参与もいうように、今や2%にこだわる意味は何もないのだ。今のうちなら日銀がテーパリングの計画を示しても、すぐ金利が上昇するとは考えにくい。
しかしこのまま日銀が毎月7兆円の国債を買い続け、おまけに政府が消費税の増税を延期すると、それを引き金にして市場が反乱を起こすおそれがある。首相は財政再建の断固とした決意を示し、日銀はソフトランディングへの出口を示すべきだ。
【こちらも併せてお読みください】
・「アベノミクスで「円安不況」がやってくる」
( 2014.10.07、池田 信夫 )
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( 2014.09.24、浜田 宏一 )
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