フランク・サイドボトム×キャプテン・ビーフハート×ダニエル・ジョンストン=フランク!?
楽しみにしてた映画『フランク』を観に行きました。主人公は80年代にイギリスで人気があったミュージシャン/コメディアンのフランク・サイドボトムとキャプテン・ビーフハートとダニエル・ジョンソンを混ぜたキャラクターだというので、そんなの観たいに決まっているじゃないですか。
当時は、フランク・サイドボトム全然興味なかったですが、今考えるとちょっと面白いかなと思いました。日本でいうと天才バカボンのお面をかぶって、真剣になりがちな音楽をおちょくるという設定でしょうか。
音楽映画によくある嘘くささがない
ザ・スミスの「パニック」をおちょくった曲「パニック・オン・ザ・ストリーツ・オブ・ティンパレイ(ティンパレイはフランク・サイドボドムが住んでいるマンチェスターの郊外の町です)」をリリースしたりしていました。よくモリッシーが許可を出したなと思うんですが、フランク・サイドボドムの中の人は、モリッシーがいたノーズブリードのメンバーたち(後のカルトのビリー・ダフィーもいる)とバンドやっていたので、なんかつながりがあって、断れなかったのでしょう。
フランク・サイドボトム実はちゃんとした人なんですよ。でも、長いこと売れなくって、お面をかぶって、色物をするしかないと思ったのかもしれません。そういう部分では『フランク』と重なります。たぶんそうなんでしょう。この映画の脚本を書いた人はフランク・サイドボドムのキーボードだったんです。しかも、その後はバンドのマネージメントもやり、今はジャーナリストをやっている。しかも自分のスタイルはゴンゾだと言っているんです。『フランク』の語り部であるジョンと凄く似ているんです。そして、マネジャーのキャラクターも彼なんでしょう。だから『フランク』は音楽映画によくある嘘くささがない。
この映画は“僕らが音楽を聴く理由”をあの娘に教えてくれるのか?
映画評論家の町山智浩さんが、音楽はキャプテン・ビーフハートと言っていたので、凄く期待していたのですが、ニック・ケイブ的な感じでした。フランク・サイドボドムを演じたマイケル・ファスベンダーがちゃんと歌っているんですが、お手本にしたのはジム・モリソンやジョン・ライドンと言ってたので、ちょっとベタでした。
でも、フランクのバンドが演奏を始めた時、僕はちょっとうれしかったです。彼女と観に行っていたのですが、“どうして僕が、彼女がまったく興味を示さない変な音楽を大好きなのか”ということを、彼女に教えてくれる映画かもしれないと思ったからです。
この映画、何を伝えたいのか、分かりにくいのですが、たぶん“あちらの世界に行った人たちの音楽に人はなぜ魅了されるのか“ということを探ろうとした映画なんだと思います。
そういう映画なんで、音楽はちょっと弱かったかなと思います。キャラクターはキャプテン・ビーフハートとダニエル・ジョンソンと言われていますが、どちらかというとシド・バレットなのかなと思います。
あなたがここにいてほしい
シド・バレットがなぜ狂ったのか、誰も分からないのですが、僕はシド・バレットが狂ったのは3枚目のシングルが売れなかったからだと思っています。本人も、周りも、“次のジョン・レノンだろう”と思っていたのに、なれなかった。そんなプレッシャーが彼を狂気に追いやったのではないかと思ってます。シド・バレットは本当に凄かったと思う。初期のボウイやマーク・ボランを見るとシド・バレットそっくりですよね。どれくらい凄いインパクトだったのか、当時を知らなくって残念です。初期のジミー・ペイジがギターにミラーをつけていたのも元々はシド・バレットがやっていたことで、本当にセンスいい人だったんだろうと思います。
でも、そんな人でも売れないんです。音楽はシド・バレットを使えばもっとホロっとしたと思うのですが。
なぜ、人は狂うか、今は映画の中でフランクのご両親が言うように、病気でしかない、そうでしょう。だんだと狂気も解明されいく現代です。
でも、最後のオチはホロっとさせます。
なぜ僕が気が狂ったような音楽に興味を持つのか、彼女はそれ理解をしてくれたか? …いいえ、でも、彼女はこの映画を楽しんでいました。誰もが持つ部分でもありますし、女性を誘って観に行っても大丈夫な映画です。
参考テキストとしての、キャプテン・ビーフハートの神話
映画の中でのレコーディング風景に興味を持った人は、キャプテン・ビーフハートのバンドのギターだったズート・ホーン・ロロが本名Bill Harkleroadで書いた「Lunar Notes – Zoot Horn Rollo’s Captain Beefheart Experience」を読んでみてください。今では英語版しかないんですけど、古本屋で翻訳本を見つけてみてください。
こちらの場合は同級生だったフランク・ザッパの才能に嫉妬したキャプテン・ビーフハートが、どんどんと狂気に落ち入り、それを天才だと勘違いしたバンドのメンバーたちが、カルト集団のようにレコーディングしていく風景が書かれています。この本のオチはズート・ホーンが「キャプテン・ビーフハートって、実は音楽のことよく分かっていないんじゃないか」と気づいて、洗脳がとかれて終わります。はじめ『フランク』の話を聞いた時はズート・ホーンの本のように、フランクというトリック・スターがドタバタと回りを巻き込んでいく話かなとも思ったのですが、それは違いました。
(久保憲司)
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか公開中、10月18日(土)より、シネ・リーブル梅田ほか全国順次ロードショー
コピーライト:© 2013 EP Frank Limited, Channel Four Television Corporation and the British Film Institute
配給:アース・スター エンターテイメント
配給協力:アルシネテラン
宣伝:CAMDEN
公式サイト:www.frank-movie.jp
2014年/イギリス・アイルランド合作/英語/95分/カラー/スコープサイズ/原題:FRANK