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    しんどくなって仕事やめてから始めた日記的なやつです。

    うちの大根おろし担当大臣

    わたしは胃が弱い。

    家族みんな弱いので遺伝性のものかもしれない。大好きなおもちを食べると胃がずんと重たくなり、冷えたお惣菜の天ぷらを食べると胃は働くことを放棄する。

    わたしの胃は憎たらしいほど繊細なやつ。

    胃が弱いわたしにとって、大根おろしは生活に無くてはならない存在だ。

    わたしが幼いころ、お雑煮や天ぷらや焼き肉で胃もたれしてげっぷが止まらないとき、祖母がよく大根おろしをつくってくれた。それはとても辛味が強く、わたしが飲み込めないよと泣き言をいうと祖母は決まって「噛まずに喉に流し込むんや!食べ物だと思うからあかんのや、薬だと思って飲め」と言って食べさせてくれたものだ。

    祖母がおろしてくれた大根おろしを食べると、不思議と喉元まで圧迫するような不快さがだんだんと治まり、胃が徐々にぐるぐる働き始めた。

    大根おろしのジアスターゼは、わたしの繊細な胃を優しくなだめ、働くことを促してくれる頼りになるやつだ。市販の胃薬より、ずっと大根おろしの方がよく効いた。 

    ***

    一人暮らしを始めてから、わたしは自分で大根おろしを作るようになった。そして、辛味が弱い根本の部分より、辛味の強い先っぽの方がよく効くことを初めて知った。祖母が決まって辛味の強い大根おろしをつくってくれたのは、苦行を強いてたわけでなく優しさからだったんだなとここで分かる。

    わたしは自ら大根の先っぽを買うようになった。たいていスーパーで上下半分に切られたものが売られていると先っぽの方が売れ残ってるし、わたしは喜んでその先っぽを買い占めた。

    大根をおろす作業は骨が折れる。胃が弱ってるときは力が入りにくいので、余計にたいへんな作業のように感じる。でも、胃を治すためにはこの苦行を乗り越えねばならぬ。いつも必死に大根をおろしていた。おろし器は半年に1回ほど買い替えた。

    一人暮らしで胃が痛くなると、わたしは本当に心細かった。

    ***

    そして現在、わたしには救世主がいる。わたしは、恋人のことを「大根おろし担当大臣」と呼んでいる。

    胃のご機嫌が悪くなれば、わたしは「だいこんおろし〜〜たんとーだいじん!!」と国会議長のように叫び、恋人が「はい!」と良い返事をする。すると、朝だろうが夜中だろうが、大根をじゃんじゃんおろす。そしてそれにポン酢をかけて、とびきり辛い大根おろしをわたしの目の前に用意してくれる。

    わたしはそれをヒーヒー言いながらありがたくいただき、あとは電気アンカでお腹を暖めながら胃のご機嫌が良くなることをただ待つのみ。

    今ではわたしのヘルプがあると大根おろし担当大臣がスーパーで大根の先っぽを買い占めてくれるし、大根おろし担当大臣がすごく良い性能をもったおろし器をAmazonでぽちってくれる。

    わたしは専属の大根おろし担当大臣がいて、とても心強く思う。

    入籍した時、祖母にこっそり報告した。今では、恋人がわたしに大根おろしをつくってくれてるんだよ、と。

    祖母はとても嬉しそうに言った。それは安心だなあ。

    そういうおはなし。