第39回】「4万倍返しだ!」ドラマチックなノーベル賞騒動

ライター二人の時事放談、今回取り上げるのはノーベル賞について。受賞者発表前から村上春樹だ、憲法九条だと盛り上がっていた今回のノーベル賞ですが、蓋を開けてみたら高輝度青色LEDを発明した三氏に物理学賞が送られました。青色LEDといえば、かつて特許訴訟で話題にもなりましたが……?

10月第2週のおもな出来事
・イスラム国で戦闘希望。北大生を私戦予備および陰謀容疑で家宅捜索(10月6日)
・赤崎、天野、中村氏に青色LED開発でノーベル物理学賞。中村氏の国籍が話題に(10月7日)
・きゃりーぱみゅぱみゅが『NEWS』手越祐也と衝撃の二股密会報道(10月10日)
・テレ東「ニュース新書」看板ネコ「まーご」死す(10月11日)
・名門・PL学園野球部が廃部危機、部員受け入れ停止へ(10月11日)

テレビ的に盛り上がったのは天野浩教授一家

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 2014年のノーベル賞は、もはや定番となった「村上春樹が今回こそノーベル文学賞受賞か?」にはじまり、「憲法九条を保持している日本国民」が有力候補になっているといった報道などが話題に上がっていましたが、結果は全く違いましたね。

速水健朗(以下、速水) 日本人では、青色発光ダイオード(LED)の研究で名城大教授の赤崎勇(85歳)、名古屋大教授の天野浩(54歳)、そして実用化に大きく貢献したカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の中村修二(60歳)の3名がノーベル物理学賞を受賞。僕は最近、朝のテレビのコメンテーター仕事もしているんだけど、このニュースは『シューイチ』と『いっぷく』でコメントしました。テレビでは中村さんの国籍問題には触れられなかったり、実は日亜化学の言い分にも一理あるといった話まではできなかったりとかあるんだけど。

おぐら テレビはいろいろと制約がある感じですか?

速水 そんなこともない。国籍問題は、受賞直後では確定情報じゃなかっただけ。日亜化学の言い分の話は、そこまで時間がなかったりといったレベルの話だったりする。

おぐら 国籍問題について改めて説明すると、中村さんは赴任先のアメリカで研究費を集めるために、アメリカ国籍を取得。その理由についてご本人は、朝日新聞のインタビューで「米国の大学教授の仕事は研究費を集めること。私のところは年間1億円くらいかかる。その研究費の半分は軍から来る。軍の研究費は機密だから米国人でないともらえない」*1 と話しています。今では一人一台が当たり前のコンピュータにも軍事目的で発展した歴史がありますが、やはり科学技術と軍は密接な関係にあるんですね。
*1 ノーベル賞級の発明を増やすには 中村修二さん一問一答

速水 テレビ的に盛り上がったのは、控えめで気さくなキャラの天野さん。『いっぷく』では衛星生出演、『シューイチ』では、単独ロングインタビューに答えてくれるといった具合にメディア対応の良さもあって、大人気。

おぐら そして天野さんのご家族も、ロシアの大学で日本語の先生をやっている奥さんの個性的なビジュアルといい、メガネが似合うアニメのヒロインみたいな娘さんといい、世間やマスコミが放っておけないキャラクターでした。

速水 その娘の彩さんは、小さい頃にお父さんに「虹ってなんで七色なの?」って聞いたら、プリズムや波長の長さの話をされたっていうエピソードを披露しているんだけど、その説明の仕方自体が、プリズムを完璧に理解している人の話し方なんだよ。頭がいいの。実際、京都大学大学院農学研究科所属のエリート。長男は、露出がほぼなかったけど東大生。エリート一家なんだけど、みんなすごく自由そう。

おぐら 奥さんが単身でロシアにいるため、家事は父親の天野さんがやっているというのも、現代っぽいですよね。

速水 天野さんは土日も研究で大学にいるほどの研究バカなんだけど、ちゃんと家族は幸せなんですっていう感じなんだよね。理系教育重視の世間の風潮とかも合わせて、まさに現代の理想家族像。テレビのこういう部分を嗅ぎ付ける嗅覚と、一瞬で物語化してしまう力はすごいと改めて思った。

おぐら 一方、ネット的に話題になったのは、やはり中村修二さん。彼の「怒りがすべてのモチベーションだった」「日本では性別や年齢などの差別があり、全員にチャンスがあるわけではない」といった、日本の企業や研究環境への苦言が大きく取り上げられました。

速水 天野教授とは正反対のスーパー・ルサンチマン・キャラ。それがデザインメガネやルックスにきちんと反映されていたしね。その点、天野さんはメガネも理系っぽい、地味なおじさんメガネだし、グレゴリーのウェストポーチといい、どちらもディティールは完璧。

おぐら 中村さんは受賞会見やインタビューを聞いていても、語気が荒くて言葉にパンチがあって、すごく感情的でいいなと思いました。テレビのワイドショーでは、そういった発言を元にさっそく「怒り」の物語をつくっていましたが、それが『半沢直樹』っぽいんですよね。発明の特許と報酬をめぐって勤めていた会社を訴え、研究のために渡米、やがてノーベル賞を受賞。これだけ揃っていれば、連続ドラマ『中村修二』いけますよ。

速水 主演はネットでもそっくりと話題になった『HERO』のバーテンダー役でブレイクした田中要次で決まりだよね。中村さんは、田中要次のほがらかさをすべて抜いたような感じ。

おぐら 木村拓哉が「さすがにLEDで青は無理でしょ」とか言ってると、静かに「あるよ」って登場するのもいいですね。

青色LED裁判は日本の人材流出の分水嶺?
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