投稿日 2014年10月20日(月)21時36分 投稿者 柴田孔明
2014年10月20日午後より、三菱重工業株式会社飛島工場にてH-IIAロケット26号機の コア機体公開が行われました。H−IIAロケット26号機は小惑星探査機「はやぶさ2」を搭載し、2014年11月30日13時24分48秒(JST)に種子島宇宙センターから打ち上げ予定です。
(※コア機体とはH-IIAロケットの第1段機体と第2段機体を合わせた名称。そのためSRB−Aと衛星フェアリング、ペイロードは含みません)
(※一部敬称を省略させていただきます)
・登壇者
三菱重工業株式会社 宇宙事業部 技監・技師長 H-IIA/H-IIB打上執行責任者 二村幸基
三菱重工業株式会社 宇宙事業部 H-IIA/H-IIBロケットプロジェクトマネージャ 秋山勝彦
・計画概要
・目的
1.小惑星探査機「はやぶさ2」を地球脱出軌道に投入する。
2.打上能力の余裕を活用して、小型副ペイロード3基に対し、軌道投入の機会を提供する。
※小型副ペイロード
九州工業大学「しんえん2」
多摩美術大学「ARTSAT2−DESPATCH」
東京大学(JAXAとの共同研究)「PROCYON」
(※地球周回軌道ではないため、「はやぶさ2」を含めてペイロードと呼ぶ)
・コンフィギュレーション
・H-IIA202型(コア機体+固体ロケットブースタ(SRB-A)2本)
・直径4mシングル衛星フェアリング(4S型)
・打ち上げ時期
・打ち上げ予定日:2014年11月30日(日曜)
・打ち上げ時刻:13時24分48秒(JST)
・打ち上げ予備期間
・2014年12月1日〜2014年12月9日(10日間)
(※打ち上げ予備期間の打上げ時刻は、打ち上げ日毎に設定する)
(※予備期間では、毎日2分程度打ち上げ時刻が早まる)
・「はやぶさ2」は質量約600キログラムとH-IIAで通常打ち上げる衛星より軽いが、地球脱出軌道への投入のため、さほど余裕がある訳ではない。
・特記事項
・はやぶさ2ミッションの特徴に対応したロケット仕様を設定。
ミッション時間が過去最長(約7000秒)であり、第2段機体仕様を長秒時フライトに対応させた。
・推進薬蒸発量低減対策:フライト中の水素蒸発量を、タンク断熱材表面に施工した白色塗装により低減させる。(※注:通常の断熱材は黄色かオレンジ色をしている。色の変化は時間の経過による)
・熱対策:温度変動を抑制するため、以下対策を実施する。
・慣性飛行中の機体ロール制御。(※バーベキューロール)
→タンク側面への太陽光入熱を均等にするため。
・輻射断熱材(MLI)等の施工
(MLI:Multilayer Insulator:多層断熱材)
・飛行計画:主要シーケンスより
リフトオフして2段目の2回目エンジン始動は、地球を一周し日本上空付近の1時間39分23秒後。2段目2回目の燃焼終了が1時間43分24秒後、「はやぶさ2」分離が1時間47分15秒後。その後、「しんえん2」、「ARTSAT2−DESPATCH」、「PROCYON」の順に分離。最後の分離は打ち上げから2時間2分15秒後となる予定。
・搭載機器の削減によるコストダウン活動も継続実施。
・今後の予定
・コア機体は飛島工場での作業を終了し、出荷準備作業中。10月22日に射場へ向けて出荷予定。
・固体ロケットブースタ(SRB−A)は射場へ搬入済み。
・衛星フェアリングは9月29日に射場へ搬入済み。
・10月28日より種子島宇宙センターでコア機体起立以降の射場作業開始予定。
・質疑応答
日刊工業新聞:今回のコストダウンの内容はどんなものか。また、製造コストはいくらか。
二村:機体安定のフィードバックのため横加速度計(横に振られるような力を計測)を積んでいたが、2段目にも慣性航法センサ(IMU)を積んでいて、これで姿勢を全て検出できる。これのデータ蓄積で解明が進み確実になり、個別の横加速度計など個別のセンサを外せることになった。コストについては申し訳ありませんがお答えできません。
朝日新聞:今回のミッション時間は約7000秒だが、これまでの最長3000秒の詳細をお聞きしたい。
二村:過去の最長はH-IIAロケット21号機の3000秒で、小型副衛星「鳳龍弐号」の分離も含めての時間です。
読売新聞:(2段目の)白色塗装は21号機でもあったが、それについて。
二村:H-IIAロケット21号機の3000秒程度では本来なら白色塗装までは必要とせず、確認とデータ取得のために行った。ペイロード投入のために、必然で塗ったのは今号機が初めてである。
今後もミッション時間が長い打ち上げの場合は塗装することがある。
(※参考:H-IIAロケット21号機は第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)と、韓国多目的実用衛星3号機(KOMPSAT-3)を打ち上げた。また、H-IIB初号機は段間部を白く塗装していたが、2段目は通常の断熱材の色をしていた。また今回とは意味が異なるが、初代「はやぶさ」を搭載したミューファイブロケット5号機でも、前号機と違って上段が白くなったと話題になった)
読売新聞:今後の打ち上げ受注活動について。円安が受注にプラスになるか。
二村:ここ最近はオンタイムの打ち上げが続いていて、それが高く評価を受けている。これらを積極的にアピールしていきたい。円安は、逆に材料の輸入価格の上昇になり、一言ではお答えしにくい。
不明:「はやぶさ2」以外の相乗りペイロードも地球脱出軌道になるのか。また、打ち上げまで準備期間が短いが余裕はあるのか。
二村:小型副ペイロードも「はやぶさ2」の軌道の延長だが、放出方向を少し変えてぶつからないようにする。基本的には同じ。
打ち上げまで期間は非常に短い。前回の打ち上げから54日目でタイトだ。組立棟(VAB)からロケットを射座まで運ぶ移動発射台は2台あるが、一方はH-IIB用になっているため使えない。1台の移動発射台を使い回すパターンでは、今回が最短になる。機体を組み上げた後の試験やそのあとの準備作業は日程を詰めていない。設備のメンテナンスやセットアップを短縮し、機体を組み上げながら、機体の組み上げに関係ない設備側の準備作業は平行して行うなどの工夫して、この54日間を達成する計画である。
(※注:移動発射台が2台ともH-IIA用だった頃、H-IIAロケット8号機と9号機の打ち上げ時期が近くて、殆ど同時に準備が進められた事がある。8号機が2006年1月24日打ち上げ、9号機が2006年2月18日打ち上げだった。ただし当初予定日からは多少変更されている)
SAC松浦:ダイレクト投入ではなく、パーキング軌道に投入する理由。バーベキューロール時の姿勢はどういったものか。2回目着火まで姿勢制御は行うか。
二村:ロケットよりも「はやぶさ2」側のオペレーションの要求。日本上空に戻ってから2回目を噴射し、停止後に分離だが、これはダウンレンジ局の都合と、コマンドを打つ場合に地球の裏側や一方向で飛ばすと厳しくなるため。このシーケンスなら初期動作までしっかり見られる。
バーベキューロールは太陽の光に対して直角。12分で一回転するものであり、姿勢としては難しい形になる訳ではない。2回目着火までの姿勢制御は行わない。
NVS:白色塗装の他に、ソフトウェア的な対応はあるか。
二村:基本的に他の号機と同じソフトウェア。もちろん時間のパラメータは変わる。
日経BP:横加速度計の省略によるコストダウン効果はどれくらいか。
二村:詳しくは言えないが数百万の単位よりは上である。
以上です。
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