SNS教育:情報モラル教育に率先して取り組む LINE政策企画室長、江口清貴さん
2014年10月21日
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で発生するいじめなどのトラブルに対し、無料通信アプリ「LINE(ライン)」を運営するLINE(本社・東京)は、インターネットマナーなどの教育を含むCSR(企業の社会的責任)を専門とする部署を設立させた。専用の教材を開発、力を入れているが、同社の担当者は「コミュニケーションのトラブルはコミュニケーションでしか解決できない。将来的には、いじめを起こしづらい環境作りにも寄与したい」と話す。一企業が教育活動に注力する理由や、今後の展望を担当者である同社政策企画室の江口清貴室長に聞いた。
◇本質はコミュニケーションの問題
−−ラインではSNSの教育活動に力を入れています。なぜ、アプリの開発者がそこまで注力しなければいけないのでしょうか?
◆自動車の運転免許システムが成立する際に自動車メーカーが協力したのと一緒です。イノベーションが生まれるとき、それを正しく使ってもらうため最低限のリテラシーを持ってもらいたいと考えています。それが企業の社会的責任だと思っています。
−−SNS教育はいつから。
◆2012年からです。学校の教員らからラインの仕組みを尋ねられるようになったのがきっかけです。現在は全国の小中高校の児童や生徒、保護者、教員を対象に、インターネットリテラシーについて授業や講演会を通じて教えています。
−−13年12月にはSNS教育の専門部署を設立しました。
◆政策企画室です。ラインでいじめがあったと聞いても、すぐにはピンときませんでした。そこで、学校現場を回って子供たちに話を聞くと、いじめが発生する背景にはコミュニケーションの問題があると分かりました。ラインのシステムではなく、互いのコミュニケーションにおいて問題が起こるのです。
−−具体的には。
◆ラインで送られたメッセージに返信をしない「既読スルー」がいじめの要因になると言われています。しかし、子供に聞くと違っていました。返信をしないからいじめるのではありません。それまでの人間関係上で問題が発生していて、むしろきっかけになっているようでした。
−−「ラインいじめ」という言葉は迷惑なのでは?
◆仕方がないとも思います。ただ、その言葉を使うことで「問題の本質を誤って捉えていませんか?」と言いたい。ライン上で発生しているのはコミュニケーションの問題、つまり行き違いです。ネット全般でも同様の事態が発生していますが、ラインはメッセージのやり取りが速く、トラブルの進行速度が速いのも事実です。しかし、それはライン固有の問題ではありません。例えば、「夜遅い」といっても午後11時と考える人もいれば、午後9時だと言う人もいます。認識の違いがトラブルに発展していきます。解決するためには「『当たり前』の基準は、個人によって違う」と理解し、互いに話し合う必要があるのです。そこを今年8月に静岡大の講師と共同開発した教材でも盛り込んでいます。
◇「いじめをなくす環境作りたい」
−−どのような教材なのでしょうか。
◆静岡大の塩田真吾講師と共同で開発した、インターネットでの付き合い方などを学べる小中学生向けの教材です。「あなたがクラスメートから連絡があると『遅いな』と思うのは何時から?」や「あなたがクラスの友達に言われて『嫌だな』と感じるのはどれですか」といったテーマについて参加者で議論します。実際に会って話すと、話す内容以外の雰囲気や表情によって、さまざまな情報も一緒になってコミュニケーションができます。しかし、文字中心のやり取りをするラインなどのSNSはコミュニケーションは成立しますが、会って話すのと比べてどうしても情報量が少なくなってしまう。その結果、「私は伝えたよね」「いや、聞いていない」という事態になる。こういった行き違いを理解してもらう教材です。
必要なのはこういった情報モラル教育ですが、現状では誰も手を付けられていません。学校現場だけで実践しろと言っても難しいので、ラインが率先して取り組んでいます。もし、ラインの使用をやめていじめが起きないなら、それでいいと思いますが、実態は違います。ライン上でのいじめは止めなくてはいけませんし、そういった研究もしています。
−−どのような研究ですか?
◆リアルの世界とライン上のいじめの違いは何だと思われますか。ラインの場合、いじめた内容がアーカイブ化されているのです。メッセージというテキストが残されているため、いじめの様子が克明にアーカイブとして残るのです。リアルの世界ではありえません。もし、詳しく研究できたら、いじめの発生原因が導き出せるのではないかと思っています。
匿名で結構ですので、会話の履歴を提供していただければ、いじめが発生しやすい傾向を導き出せるでしょう。そして、いじめを起こしにくい環境、いじめを起こすのにコストがかかる環境を作れるかもしれません。
やるなら徹底的。いじめをなくす環境を作りたいと思っています。
【聞き手・馬場直子】