児玉裕一監督直伝!ミュージック・ビデオの創り方

2010.06.03 Thu

 

音楽と映像が一体となって向かってくる、感覚的コミュニケート映像、ミュージックビデオ(以下MV)。そのコンペティションは今や世界中で開催され、映像作家としての腕試し、またはデビューへの登竜門の一つの形となってきた。今回は、コンペティションに参加を考え、アクティブに映像制作に取り組もうとしている読者のために、MVという3分~5分に渡る、眼で聴く音楽をどう紡いでいけばよいか、制作のヒントとなるポイントをSpace Shower Music Video Awardsで3年連続BEST DIRECTORの栄冠に輝く児玉裕一監督にご教授願った。制作の途中で挫折しそうになったら、是非参考にして欲しい!

■ロジカルと直感 楽曲の分析
クラムボン「SUPER☆STAR」 dir: 児玉裕一
MVに限らず映像は直感的なアイデアとロジカルな構成力が不可欠。インスピレーションで10秒の映像は創れても、それを5分間に纏め上げるには至難の技。プロの児玉監督でさえ毎回綱渡りだと言う。

「映像はまず構成を考えた方がいいと思うんです。MVはまず映像をつける楽曲があります。僕の場合、その楽曲を音だけで編集することから始めます。人によっていろんなやり方があると思うんですが、僕は編集ソフトのタイムラインに乗せて楽曲に印をつける感じで編集して行くんです」

以前、長添雅嗣監督がインタビューで語ったテンションバロメータも同じ作業に当てはまる。

「ソフトのタイムライン上それぞれおいてみると盛り上がりとか視覚的にわかってくる。そこで一番やりたい事を楽曲のサビの部分にはめたりしながら、やりたい事をどうちりばめるかを最初に考えていきます」

楽曲によってそのちりばめ方は違う。サビにそれを持ってくる事もあれば、椎名林檎の「都合のいい身体」はイントロで「このビデオはこういうビデオです!」と全て言ってしまう構成となっている。

■インスピレーション(アイデア)から構成へ
――「一番やりたかったところ」いうのはアイデアの部分ですね。
クラムボンの「SUPER☆STAR」を例にすると、曲を聴いた時、あ、マイケルの事を歌ってるんじゃないかなって思ったんです。「SUPER☆STAR」で一番見たかったシーンは「スーパースターが深夜眠れずにベッドから抜け出して鏡の前で自分を見つめる」シーンでした。

――子供のマイケルじゃないんですね!?
やるなら子供でやるしかないというのはありました。子供をキャスティングした方が成功率が高い。「この主人公はスーパースターなんですよ」というあり得ない設定を「アリ」にしてしまう魔法です。

――ではそのキーとなるビジュアルを決定した後その間を紡いで構成していくにはどんな方法があるでしょうか?
ひとつはストーリー性を持たせるというのがありますよね? ストーリーをつけてみるというのはありだと思います。それがモーショングラフィックスだとしてもです。「SUPER☆STAR」だと、「深夜眠れずにベッドから抜け出すシーン」から、彼はどんな夢を見てたんだろう…って始まって、「どことなく彼のセンチメンタルな話にしよう」と膨らませていくんです。そして、クラムボンの演奏シーンで「音楽だけが唯一彼を解放してくれた手段だったのかもな」…。世界中からの視線に応え続けた彼が、本当に彼自身になれるのは音楽と一緒の時、というようなストーリーを考えてみる。だからここは最高にハッピーで生き生きと演技してもらおうと。編集しながらわかることもあると思いますし。

映像で全部言う必要はないですが、自分で辻褄を合わせるのは大事だと思います。 椎名林檎の「ありあまる富」は約6分あるのですが、3部構成で創っているんです。まず落下。そして爆発。その後にキラキラ。物がどんどん粉々になってその価値観や本質が変わって見えて行くという構成です。そして、画自体が単調だからこそ、歌詞を見せる事によって、いつの間にかその言葉を脳内で膨らませていけるんですよね。椎名さんの楽曲は歌詞が本当に深く叙情的で、時に画よりも映像的というか。東京事変「閃光少女」では、この曲を初めて聞いたとき、エンドロールが見えたんです。すべてのお話が終わって、たったひとり取り残された放心状態で自分が見ているエンドロール。英語歌詞だったので日本語の字幕をいれたかったんです。それこそ映画みたいに。日本語歌詞の同曲があってその直後に英語版が日本語歌詞付きで出てくるんですね。

椎名林檎「閃光少女」 dir: 児玉裕一
――エンドロールからどう発展させていったのですか?
最初に、文字だけで創ってみたんです(笑)。これはこれで凄く良かったです。次に、どこで流れている曲なのか?というのを考えました。例えば映画だとどのシーンで流れている曲か?もしくはこの曲自体が一本の映画なのか?とイメージを膨らませていくんです。割と起承転結をつけたがるタイプで最後は大団円にもっていこうとするから偏ってはいますけど(笑)。やっぱり入り口があって、最後なにか残るっていうほうが強い。もう一回繰り返し見たいと思えるか。ジェットコースターを設計するような感じ。ずっと昇っていくわけには行かないし、ずっと降りていくわけにもいかない、どこで宙返りをいれようかと。それで最後は元の場所にピタっと着地した時にもう一回昇ろうと思えるかどうか。それを楽曲にあせて構成していきます。

■自分で連想ゲームができるか?!そして伏線を張ってオチをつける!
Base Ball Bear「GIRL FRIEND」 dir: 児玉裕一
アイデアに関しては自分で連想ゲームができる企画が良いと思います。

Base Ball Bearの「ELECTRIC SUMMER」という曲ですが、この出演者の女の子の名前が田中夏子ちゃんだったんです。その以前にBase Ball Bear「GIRL FRIEND」を撮っているのですが、舞台が図書館で文系という設定だったので、今度は理系で九段下の科学技術館で撮影しようと。最初の文系のキャストの中に夏子ちゃんもいて、「あ、夏子ちゃんて子がいたじゃん!じゃ、彼女を主人公にしよう」と。そこで「夏が嫌いなナツコちゃん」という設定を考えました。夏子って名前をつけられたら、場合によっては"夏が大ッ嫌いになるかも"と連想して。"夏と言えば太陽" → "太陽が嫌い " → " 太陽を盗んだ少女 "。ちなみに沢田研二主演の映画「太陽を盗んだ男」の最後のシーンで菅原文太と揉み合うのが丁度この九段下の科学技術館の屋上だったんです。ゾクっとしましたね。それで「夏が嫌いな夏子は如何にして太陽を盗んだか」という話になりました。この夏子ちゃんが太陽を盗むにはどうしたらいいかを考えたんです。タイトルがエレクトリック・サマーだから、夏子ちゃんが去って行くとなぜかどんどん電源が落ちていくお話にしました。ブレーカーをバシバシ落としていく破壊系。最初は徘徊していて何をやっているのかわからないんだけど、配電盤でそれまで回ってきた場所の電源をバチバチと全部落としていき…最後は太陽の電源を落とし、昼が夜になるというオチなんですね。曲の終わり方も踏まえて連想して行くとだんだんと辻褄が合っていく瞬間があるんです。

そして何か起きそうな雰囲気を出すために前半は意味深なシーンだけで構成して行く。その際に科学技術館を舞台に選ぶと、ただ歩いてくだけで絵数がどんどん撮れますよね。歌詞で「高気圧な」の後に高気圧を連想させるようなイメージを入れたり。曲の3分の2くらいでだんだん種明かしがわかり始めて、最後のクライマックスに我慢していたのを全部投入し、盛り上げていくわけです。全体に見せ場をちらばらせちゃうともったいので、どこかに固めたほうがいいと思います。

■映像的FUN!耐久性のある表現
――映像表現自体の楽しさっていうのもありますよね。
例えばハイスピードとかそれだけで面白い表現ってありますよね。ワンカットだったり、水中や空撮、ストップ・モーションとか。もしくはひたすらバリエーションが凄くて2秒ごとにどんどん画が変わっていくとかね。UNIQLOCKのようにダンスをずーっと踊っててそれだけで凄くきれいとか。そういう意味ではダンスって耐久力高い!凄くカッコイイダンスならそれだけで見せられる。

■伝わりやすくする工夫と実現可能度の見極めを!
ミドリカワ書房「誰よりもあなたを」 dir: 児玉裕一
――具体化していく制作段階ではその人のセンスが重要になってくる部分。企画はよくても、キャスティングや金銭的な部分等も併せてちゃんと着地させられるか見極める必要がありますよね?
見てる人が「アリ」な作品にできるかどうかのところです。例えば「SUPER☆STAR」のマイケル役も日本人の男の子だったらちょっと違ったと思うんですよね。この作品の前提は「外人の踊れる子役が確保できる」なんです。そして、自分が見て恥ずかしいと思わないものに最低限しないといけないと思います。 ミドリカワ書房の「馬鹿兄弟」も大人が普通に出演すると相当本格的に撮らないと意図するところまでいかないだろうと思います。だけど子供に演じてもらうことで、見ている人にこちら側の意図する目線まで降りてきてもらえるんです。この曲は歌詞を聞かせたいんだってね。だから頭の中で歌詞を膨らませてね、という意図です。 一度フィルターをかますことでとスルっと入ってくることもあると思うんです。伝わりやすくするためにはどうしたらいいかを考えます。どれくらいハズすか、ズラすか。「誰よりもあなたを」だとストーカーが凄いチャーミングで魅力的だったら…とか、見てる人が「この女の子僕にもストーキングしてくれないかな」って言うくらい超絶かわいいっていう選択をしたんです。逆にストーカーされる男はこの子にもったいないくらいダメなやつで。そこではじめて大多数の人がこの歌詞の異常さが楽しめるレベルにまでなる。それでこの曲はOKになるんじゃないかと。

――女の子が見ると応援しちゃくなりますよね。
それがひいてはミドリカワ書房への応援になる。いつもそういう気持ちはありますね。

――ファンともリンクするんですね。
曲とアーティストの状況も毎回違う。デビュー10年目なのか、勝負時なのか、あと1年でブレイクするのか。Perfumeの「シークレットシークレット」ではまさにブレイク直前!だったので、どうしたら今までのファンのみんながより彼女たちを好きになるかが大事だなと考えました。そこで、いままで応援してきたひとには分かる彼女たちのサクセスストーリーを描こうと思いました。そうすることで商品とのタイアップ企画だったのですが、嫌な感じどころか、その企業と一緒にPerfumeを応援している気分になれるんではないかと。商品のタイアップが入ったブランディッド・ミュージックビデオだと「魂売りやがって」じゃないけど、いい風にみられない事もあるんですが、だからといって商品を見せないのも本末転倒。ポジティブにマーケティング的な側面も考慮できると更にいいと思います。

■企画の精査 周りの人に話してみる!
――最後になりますが、児玉監督が常に意識して実行している事ってありますか?
企画段階から周囲のみんなに見せたり話したりしています。とりあえず思いついた事を創る前に言葉で話してみて「何でそんなことするの?」って聞かれて「違うんだよ~これはこうなんだよ」って反論してみると、自分でも「あ、そうか、そうなんだ」ってやりたかった事が明確になってくる。言葉に発すると思ってなかった発見がある。僕も企画説明しながら自分の言葉に「あーなるほど。そうだったんだ」って(笑)。いい企画のときってぽんぽん辻褄があっていくんです。反論できなければそれくらいの企画だったということでやめちゃう。あと、もちろん素晴らしい意見には乗っかる!それと、制作段階で到達ポイントを創っておくと、核にはなっていくと思います。例えば「ありあまる富」なら、

1. 爆発したあとのほうが凄く美しいという価値観
2. 別々の価値を持つものが粉々になったら全て平等に奇麗になった
3. 映像にストーリーを持たせるために昔のロックミュージシャンみたいに窓からテレビを投げ出すところからはじめよう
4. 家財道具を外に投げ出す
5. それが空中で爆発してキラキラなるといい!

はい、完成。と言う風にね。加えて曲が長いからハイスピードにしょう。それも爆発だからピタっとはまってくる。 あと趣味に走るのもありですね。僕の場合ミュージカルとかキラキラとか。好きこそものの上手なれ、です。

児玉監督に話を伺って、MVならではのエンターテイメント性に加え、全てのカットに意味があって凄くロジカルに考えて創られている事に改めて驚きを感じた。 "創ってみたい、見てみたい!"という初期衝動やアイデアを大切に、完成までのロードマップをしっかり練って、ぜひトライしてみよう!

七尾旅人「検索少年」ミュージックビデオ コンテスト
100人切りの即興コラボなど、ユニークな試みを行うアーティスト、七尾旅人がオープンした自力配信の音楽販売システム「DIY STARS」。映像にも高い関心を寄せる七尾氏が、「検索少年」のミュージックビデオ(MV)コンテストを開催中。大賞作品はオフィシャルMVとして各局で放映されるほか、Adobe「CS5」の映像製作者向け「Creative Suite 5 Production Premium」(40万円相当!)やクリエイター御用達のペンタブレット、Wacom「Intuos4」、DVD「STASH MUSIC VIDEOS COLLECTION 02」などの副賞も。自由な発想の映像作品を待つ!

応募締切:2010年7月29日(木) 18:00
応募資格:年齢・国籍、プロ・アマ不問
募集作品:「検索少年」の全編に映像をつけた、応募前に公開していないミュージックビデオ
応募費用:応募は無料。DIY STARSより課題楽曲を購入のこと。
応募方法: 作品をYouTubeに「七尾旅人」、「検索少年」、「ミュージックビデオ」、「nanaokensaku」のタグを入れてアップロード。アップロードしたYouTube動画のURL、氏名、連絡先等をコンテスト応募フォームに登録する。詳細は公式サイト内応募詳細を参照のこと。
Tags:
トラックバックURL:http://white-screen.jp/white/wp-trackback.php?p=3455