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18段まで積み上げられたラックにレタスの栽培用トレーがずらりと並び、発光ダイオード(LED)の光に包まれる。堺市中区の大阪府立大学キャンパス内に今年9月に完成した新世代の植物工場だ。大規模な植物工場の普及につなげようと、産学官連携の実証が始まった。
ラックの間のレールを搬送用ロボットが自動で行き来する。生産規模は1日5000株と国内で5番目だが、全面LEDの照明と自動搬送システムを取り入れた植物工場は初めて。
搬送関連機器の伊東電機(兵庫県加西市)などが出資するグリーンクロックスが運営する。木村一貫取締役常務執行役員は「熱が出にくいLEDの全面採用で、空調のエネルギーも削減できる。人員は15~18人と同規模の工場の半分以下」と説明する。
フリルレタスやリーフレタスなど4品種を栽培している。大学発の野菜にちなんだ「学園菜」のブランド名で20日から小売店向けの出荷を始める。店頭価格は1株150~190円を想定する。無農薬で洗浄工程の必要がない利点を生かし、ホテルのサラダ向けカット野菜の出荷についても交渉を進めている。
工場には大阪府立大で研究を進めてきた様々なノウハウを取り入れた。優良苗を自動的に選ぶシステムもその1つだ。青色LEDで植物のクロロフィル色素を発光させ、蛍光強度や個体サイズなどを計測し、優良苗のみを栽培用トレーに定植していく。
選別後のトレーをラックの入庫口にセットすると、テーブル状の搬送用ロボットに乗って上昇し、ラックの決められた位置に運ばれる。苗が育ちながら18日かけてロボットが端まで移動し、収穫用の出庫口に送り出す。
実際に工場を稼働させてみると、様々な不具合が発生する。例えば培養液をトレーに供給する部分に、想定以上に藻が発生することがわかった。山口淳一工場長は「こうした様々な課題を府立大や協力企業と協議しながら解決し、より良いシステムにしていきたい」と力を込める。
「学園菜」はすでに工場入り口で販売している。定期的に購入に来る近隣の主婦も多いという。「近大マグロ」に続く大学発のヒット食品となれるのか、今後の展開に注目したい。
文 原明彦
写真 三村幸作
<取材手帳から>これまで小規模な植物工場の取材経験はあったが、巨大な倉庫のような建物内にぎっしりと並ぶ栽培ラインに圧倒された。ちょうど取材の時期に青色LEDの開発で日本人のノーベル賞受賞が決まったこともあって、新工場のLEDについて聞いてみると、施設園芸大国であるオランダのフィリップス製とのこと。
赤、青の従来の植物工場用光源に白、遠赤外線のLEDを組み合わせており、野菜の緑色もはっきり確認できる。選定過程では国内製品も対象となったようだが、総合的な評価でフィリップス製に軍配が上がった。応用製品開発で国内企業の奮起を期待したい。
<カメラマン余話>食べ物を扱う植物工場のため、持参した3段脚立を殺菌し、白衣に着替え、帽子、マスク、ゴム手袋をはめて施設内へ入る。栽培室には苗の段階から収穫直前のレタスまでが順に並ぶ。層をなす棚を写し込もうと、搬送ロボットが上下するエリアをのぞき込んだ。
LED、植物工場、クロックス、大阪府立大学