つぶれる会社は、”自家中毒”でつぶれる
連載 通算第41回
「美しい画や高機能」という“ソニー体験”にこだわりすぎたこと、社会やお客の身になって考える感度と感性を失ったこと……。ベータマックスの失敗から学ぶ5つの教訓を提示する。本誌2012年11月号に開始した人気連載「盛田昭夫 グローバル・リーダーはいかにして生まれたか」、通算第41回(今冬に単行本化を予定)。
お客さま不在の”烏合の衆”
「世の中には、衰退する会社、倒産する会社があります。なぜそうなったか、をよく見ますと、競争相手によって倒された例は余りありません。会社の内部の問題が原因で、いわば“自家中毒”で衰退してきているのが実情です。ソニーが外部から批判を受け、昔の評価を落としてきたのは、競争相手のせいではなく、われわれ自身に原因がある。自らの行動によって招いた結果であると反省しなければいけない」――。
これは、現在のソニー経営者によるスピーチではない。35年近く前の1980年1月。経営方針発表会で、経営幹部に向けて発せられた、当時会長の盛田昭夫の言明である。
人間も組織も生体である以上、代謝などの流れが滞ると、たちまち自家中毒に陥る。体内で生成された毒物が溜まり、血流が梗塞し、神経も鈍磨する。在庫が貯まり、官僚化が進み、企業の社会感度が鈍る。自家中毒は、患部が壊死し、放置すれば死に至る病でもある。盛田は、このあと幾度もこの用語(自家中毒)を使って、執拗に社内の奮起を促している。
別の機会には、こんなことも語っている。
「商売をするのに、非常に大きなファクターは、コンビンシング・パワー(説得力)です。いいものをつくっても、相手を納得させないと売れません。製品そのものにも、業界の先を見通す力、お客さまが喜んで買うコンビンシング・パワーがなければ、売れないのです。私が見ていると、(いまのソニーには)製品の良さを納得させる力がなさすぎます」。
これもiPhoneとXperiaといった、現在のアップルとソニーの製品を比較しての話ではない。「自家中毒」発言の翌年、81年8月31日に行われた部課長会同での訴えだ。
だから、この前段ではこんなことも語っている。
「ベータマックスは、われわれが先駆けてやりましたが、われわれの走るスピードが思うにまかせず、結局は現在のような状況になっております」。
ベータマックスでは、73年に完成試作ができた段階から、流れが幾度も滞った。石油ショック、日米貿易摩擦、発売決定の延期、規格統一を巡る松下電器との長すぎた交渉、ユニバーサルによる著作権訴訟、アメリカでの販促…など、大きな期待にもかかわらず、勢いよく流れに乗れなかった(それでも後述するように年間1000億円台の売上は確保している)。
そして、ソニー創業以来初めての減益を記録した82年。世界的なAV(オーディオ・ビジュアル)不況のせいにしたがる社内の声を押しのけて、盛田は次のように叱咤している。
「私はかねてより、つぶれる会社は“自家中毒”でつぶれるのだと言い続けてきました。環境のせいではない。自分に問題がある。今、われわれがすべきことは、この中毒症状の範囲を縮小していくことです」。
そして、80年1月に宣言した問題意識「ソニーはトップが何かをいわないと、社内が動かないという弊害がありすぎたのではないか」を踏まえて、「全員が“プロ意識”をもって仕事に取り組む」こと、「プロとして誰にも負けない力を持つこと」を求めている。自分たちの商品を、機会あるごとに実際に操作してみて、お客さまの身に立った使い勝手を考慮し、企画決定を推し進める責任感を持っているのか、と問い、こんな例まであげている。
「私が自宅で試用してみて、(担当責任者に)不備を伝えると『その点は意見が分かれ、皆で討議して決定したことです』という答えが返ってきます。せっかく皆で集まって話し合いながら、お客さま不在の間違った方向に決まるようでは、“烏合の衆”としか言いようがありません」。
マネジメントが、社会やお客の身になって考える感度と感性を失い、烏合の衆になっているのではないか、と危機意識をあらわにしている。
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