こんにちは,OSTER projectです。今回は,前回に引き続き実際の調整例と,ちょっと変わった歌わせ方についてのお話になります。具体的には英詩の歌わせ方,コーラスパートの作成,ブレスの付加,喋らせ方の紹介になります。この内容をマスターすればさらに幅広くVOCALOIDを楽しむことができます。それだけではなく,VOCALOIDの調整を楽しく練習するきっかけにもなるので,是非試していただきたい内容です。
今回でVOCALOID自体の調整の仕方については最後になりますが,どうぞ最後までお付き合いください。
I cannot speak English.
世の中にはSweet AnnやLEONなどといった英語を歌わせられるVOCALOIDシリーズがありますが,ミクやリン・レンといったキャラクターボーカロイドシリーズは残念ながら日本語にしか対応していません。そのため,英語の歌詞を正確に歌わせることはできないのですが,英語を日本語に近似して発音させることによって“英語っぽく”歌わせることならできます。ただ,上手く英語っぽく歌わせるためには,いくつかポイントを抑えなければいけません。
まず,日本語に近似する段階で,一単語ずつ近似するのではなく一連の流れでどのように聞こえるかで近似する必要があります。
例えば「I love you forever, so give me your words to sing it forever」という歌詞があったとします。これを一単語ずつ日本語に近似すると「あい らぶ ゆー ふぉーえばー そー ぎぶ みー ゆあ わーず とぅー しんぐ いっと ふぉーえばー」となります。このまま入力したらどうなるか聞いてみましょう。
悲惨です。これは,英語を繋げて読んだときの発音の欠落や変化を無視して打ち込んだのが主な原因です。発音の欠落や変化を考慮に入れて私はこのように近似しました。
「あいらびゅーふぉーえばー そーぎみやわーず とぅーしんぎっとぅふぉーえばー」
こうするとこのようになります。
さっきのものに比べればかなりマシになりました。しかしこれでもまだ違和感があります。これは本来僅かに聞こえていればいい子音まではっきりと発音してしまっているのが原因です。日本語のみ対応のVOCALOIDは子音だけをはっきり発音することが苦手です。この例では「words」の「ds」という音を仕方なく「ず」と近似していますが,本来聞こえなくていい「ず」の母音(う)までしっかりと発音されてしまっており,これが違和感の原因になっています。これの対策としては,母音と子音の長さの割合の調整,DYNの調整,などがあります。つまり「ず」をより短く,音量を小さく補正すればいいのです。
また,子音のほかにも,発音するときにあまり重要にならない音素は短く,小さく補正します。例えば最初の「あい」の部分は「あーぃ」となるように調整したほうがテンポよく聞こえます。そのほかにも,「しんぎっとぅ」の部分では「しーんぎっとぅ」とし,「とぅ」の部分は音量を絞りました。
この例では,そのほかにも英語っぽくするために「わーず」という単語の「わ」の部分を「[wo][a]」というように分割して打ち込んだり,初回にご紹介した「し→すぃ」となる方法を利用して「しーんぎっとぅ」の「shi」を「si」と打ち込み,「すぃーんぎっとぅ」と発音させたりしました。
このような調整を施して完成したものがこれです。
最初のものに比べるとその差は歴然です。これだけの調整でもこれほどのニュアンスの差が出ます。しかしどうしてもミクやリン・レンでは英語は専門外なので,「あ」と「え」の中間の音の再現など,様々な面で限界があります。どれだけいじってもマシにならないようであれば,ある程度の妥協は必要になります。
ハモらせる
初回にご説明したように,VOCALOIDシンガーは単体で和音を出すことができません。しかし,シンガーを増やすことによってコーラスパートを作ることが可能です。VOCALOID Editorの一番下の部分を右クリックすると,コーラス用のトラックを追加することができます。
コーラスパートを追加する際にはいくつか注意が必要です。まずコーラスパートを増やすと動作がかなり重くなってしまいます。これを避けるために,VOCALOID EditorにはRENDERという便利な機能がついています。Trackの横にあるRという文字をクリックすると,そのトラックが一時的にWAVに書き出されます。トラックをRENDERした後に再生ボタンを押すと,VOCALOIDの打ち込みデータと同期してWAVが再生され,擬似的にVOCALOIDの打ち込みデータを再生することができるので動作が軽くなります。しかしこのRENDER機能,実質的にWAV書き出し作業を行っているのと変わらないため,完了するまでにかなり時間がかかってしまいます。できるだけRENDERする回数を少なくするためにも,調整するパート以外を最初にすべてRENDERして,1トラックごとに調整をしていく方法をオススメします。
コーラスパートの調整については,特にビブラートに気をつけます。いくつかのパートでビブラートの周期と振幅が完璧に揃っているということは実際の歌手ではありえないことです。そのため,ビブラートが揃ってしまうと機械っぽさが出て不自然な感じになってしまいます。これを避けるために,コーラスのパートによって振幅や周期,ビブラートの種類などをわざとずらし,揃ってしまわないように調整する必要があります。
ちなみにこれは私の場合ですが,コーラスパートに関しては,メインパートと基本の声を揃える以外はほぼ無調整です。コーラスパートはオケと一体化してしまうと,細かい調整の成果はあまり前面に出てきません。労力の削減という意味でも,コーラスパートに力を入れすぎるのは避けたいところです。