小野俊一氏インタビュー(7、8)
2014-10-18
《原発放談07》連関する「福島」と「水俣」(小野俊一) 10/1 鹿砦社
◆連関する「福島」と「水俣」
── 福島の流れはむしろ水俣と同じ道を辿っているように思います。
そうですね。熊本日日新聞の山口和也編集委員も水俣と福島の関連性を書かれています。
このふたつはたしかにそっくりです。
ひとつ違うのは、水俣病の原因について、熊本大学はその原因は有機水銀ではないかという説を最初に出した。しかし、それを東京大学が否定した。
「田舎の大学が変なことをいうな」という感じで、熊本大の説を潰していった。
また、水俣の商工会は東大の説を支持して、チッソで生きている町がチッソを悪者扱いしないようにしむけていった。
しかし、事実を歪曲されてもその事実は後になって蘇り、いまの水俣訴訟となっていくわけです。
一方、いまの福島ではどうかというと、福島県立医大は率先して被曝を隠す側に回っている。地元の医師会も同じです。
事故では被曝の被害は出ないと言い続け、なにか起きても、それは放射能のせいではないと平気で言う。開業医でさえそうした態度です。
世間は開業医も所詮医師会の圧力を受けていると考えがちですが、そうではない。むしろ、私も含めて開業医の中には医師会の言うことを聞かない医師がたくさんいます。
医師会は世間が思っているほど権威などありません。なのに福島の開業医の中から被曝の現実をきちんと語る医師が出てこない。
いろんな問題があって、ここはいえないという姿勢をとってしまうのもあるでしょうが、それにしても福島の開業医から何も意見が出てこないのは酷いです。
◆お金で解決できない核廃棄物問題
── 事故の責任でいえば、東電は一度解体した方がよくありませんか?
事故後、日本政府は原子力規制委員会をいったん解体しました。
それで起こったことは、重要な資料などが散逸してしまい、逆に訳がわからなくなった。これは日本の悪いところですが、人が変わると、資料や業務の引継ぎがおかしくなる。
機関をばらばらに解体しても、その後、同じ人がやらざるを得ない。だから私は東電は東電のままで、活かすしかないと思っています。
おそらく東電を解体したら、もっと悪くなる。下手をしたら原発のことをぜんぜん知らない人間が行くかもしれない。
東電が無能なのは確かです。しかし中には有能な人もいて、それで現場がなんとかもっている。
しかも、内部の建設業者や請け負い業者との関係もある。こうした関係を福島原発で解体することは、太平洋戦争の最中に日本が軍部を解体するようなものです。
もっと悪くなる。いまの方がまだましだと思います。
── ただ、発送電分離などはやった方が明らかにいいですよね?
そこはそうですね。むしろそこは早く分けないと電力会社が先に原子力事業を切って責任逃れをしそうです。
原子力事業が火力、水力よりコストが高いのはすでにわかっている。でも、国策だからやっていた。
送配電分離をしたら原子力は持てなくなる。
でもこれまでの原子力は発電しなくても、誰かが維持管理しなければいけない。そのための人は残さなくてはいけません。
もしも原子力を国が管理するとなれば、原発に役人が来ることになる。
そんなことになればもっと悪いことになるでしょう。
── 大学に廃炉学の学科を創設して人材を育てるとかしないでしょうか?
廃炉はあくまで後ろ向きの事業です。すでにあるものをいかに片付けるかが目的になりますから、若い人にとっては夢がない。
優秀な人であればあるほど、何もないところで何かを新しく作り上げていくことが好きです。
だから廃炉のように先人がいい加減にしてきて残したものを担う学科であれば、少なくとも理系のトップは騙されていかないでしょう。
逆にそれで騙されていくような人たちはその程度の人なのだと思います。
廃炉に関してはなかなか良い答えがないのも事実です。
廃炉庁を創設したりするのもありえますが、結局、廃炉の一番の目的は放射性廃棄物をどう処理するかです。
これはいままで米国などが70年近く研究してきたけれど、結局、その解決法の現状は地中に埋めるぐらいが関の山。
そんな分野を日本人が大学で学科を作ってやったとしても何も答えは出てこない。
そもそもトイレのないマンションをどうするべきなのか?を誰も考えてこなかった。
これまではお金でなんとか解決できるだろうと思っていたが、どうやら金で解決できる問題でもなさそうだという感じです。
フランスなどは再処理をしようとしていますが、それでも再処理燃料の八割~九割は廃棄物になる。
その捨て場所がなかなか見つからず、現状はシベリア送りです。それでロシアは儲けている。
米国、フランス、英国の原子力学者と日本の学者とどちらが優秀か?と問われれば、当然、実際に原発や原爆を作った経験のある国の学者に勝てるわけがない。
核廃棄物の再処理問題でわかることは、人類には金で解決できない問題があるということです。
金さえつければ解決できるという風潮がいま凄くありますが、死んだ子を生き返らせるのは1兆円使ってもできません。
再処理もそういう問題で、そこでどうするか?ということです。
《原発放談08》脱原発の突破口は福島の人たちが声を上げること(小野俊一) 10/3 鹿砦社
◆東京五輪は「福島隠し」
── 福島原発の現場でいえば、まともな働き手が減っていますよね?
将来どうするのかが問題です。
最近は東京オリンピックに現場作業員を奪われ始めている。
以前は発電所内部の作業員が除染に人を奪われるといわれていましたが、いまは作業員が東京・首都圏の五輪関連事業に吸い取られている。
良い話はなにもないのが現状です。そんな状況で2020年に東京オリンピックができるのか?
チェルノブイリの事故で被曝被害が増加してきたのは5年後ぐらいからです。
これは半分、陰謀論になってしまいますが、日本はこれまで五輪誘致に何度も手を挙げてきたけれど、なかなか実現しなかった。
それが福島の原発事故があったことで、今回五輪誘致が実現できたと考えています。
そうでなければ、2020年の五輪はイスタンブールだったでしょう。
では、なぜ福島があったから東京が選ばれたのか?
「福島を隠すため」だと思います。
五輪が東京に決まったことで日本人の多くは舞い上がった。でも、福島の今後の現状を考えると日本は五輪開催を途中でギブアップするような気がしています。
日本の経済は土地本位制が基本です。なのに、使えない土地が3.11で増えた。
戦争で負けたときだって、日本に土地はそのまま残った。だからそこから復興してきたわけです。
しかし、原発事故での放射能拡散で、日本の土地は縮小した。肝心の土地がやられて、しかも、その汚染地を政府が率先して広げようとしている。
これでは人間までおかしくなります。
── 戦争には敵がいますが、原発事故で敵はいますか?
放射能という敵がいます。ただ、放射能は無主物で戦いに終わりがない。
プルトニウムの半減期は24000年。対して人間の寿命は70~80年。相手になりません。
私は最近、太平洋戦争関連の本を好んで読んでいます。
例えば、インパール作戦はほとんどの人が無理だと言っていた作戦を一部の指導者が戦略もなしに実行して、甚大な犠牲者を生んだ。
その時の指導者の論理は、「それでもいまこれをしないと負けてしまう」という言い方でした。
しかも負けた後も当時の指揮官は、戦後、あのときはあれが正しかったと反省の色さえ見せず、戦後死ぬまでそのままだった。
いまの福島に対する日本政府の姿勢もこれと一緒だと思います。
事故直後、放射能被爆はたいしたことがないといっていた学者や役人は、おそらく自分が死ぬ間際でも「あの時はああするしかなかった」としか言わないでしょう。
「日本のためだった」とか平気でいうと思います。
── この間、政治での脱原発の転機でいえば、東京都知事選がありました。小野さんは細川・小泉陣営をどう評価されますか?
私は彼らを支持しています。宇都宮さんについてはその前の都知事選では支持していましたが、今回の都知事選で、彼は脱原発中心の候補者ではなかったと思いました。
選挙演説の動画を見ましたが、脱原発は申しわけ程度に言うだけで、実際はほとんど訴えなかった。宇都宮さんにとって原発は添え物のひとつで中心ではなかったという印象を持ちました。
私はそれではだめだと思う。原発問題を正面からとらえることが肝心だと思う。
その他の政策は誰がやっても一緒です。さほど変わらない。
でも、原発問題を第一にした候補じゃないとなにも変わらない。それなのになぜか脱原発派の都民の中でも宇都宮さん支持の方が多かった。
少なくとも選挙活動の演説では細川・小泉陣営の方が迫力があったし、脱原発に本気だったと思います。
細川さんが演説ベタなのはみな承知していますが、小泉さんはとにかく演説が上手い。
メモもフリップもなしにきちんとあれだけ喋れるのは凄いです。橋下大阪市長も演説が上手いと言われますが、
彼はフリップを多用します。フリップやパワーポイントなしで喋るのは二流。
それらなしにきちんと話せる人の演説が一流ですね。
◆どこに希望があるか?
── この三年間はどうしようもない三年だったようにしか思えません。どこに希望があるのでしょう?
日本人は徐々に変えていくのが得意なのでしょう。ドラスティックに変えることは難しい。
だから、変わってないと嘆くよりも少しでも変わったところを見つけていくと、3.11後の日本は良い意味でかなり変わった部分もあると思います。
どこに希望があるか?については「いまだに日本で原発が動いていない」。
この事実だと思います。
脱原発派は選挙でも勝てないし、ばらばらになっていると言われるけれど、それでも原発はいま日本で動いていない。
しかも政府も財界もお金と人を大量に投じてあの手この手で再稼動を進めようとしてきたにもかかわらず、まともに原発を再稼動できていないのです。
無理やり動かした大飯原発はその後尻すぼみでいまは動いていない。
当初の計画では2011年の6月頃には玄海原発を再稼動する計画でした。それを菅直人がちゃぶ台返しをして、その後2年近く日本の全ての原発が止まった。
その後、大飯原発が再稼動したけれど、この5月にはそれも再び止まった。民主党政権時代にも野田や前原とかは再稼動しようとしていたわけです。
安倍政権にいたっては就任早々から再稼動実現に意欲的だった。それがいまだに動いていない。
しかも、もし何基かが動いたとしても、それで今後日本の原発がばりばり動き出すかというとそういう雰囲気はさっぱりありません。
この状況はたいしたものだと思います。
ただ、脱原発をもっとしっかりしたものにするために何より必要なものは、福島あるいは近隣に住む人たちが声をあげることです。
先ほどお話した野村大成先生も言っていますが、「外からどうこう言ってもだめ。渦中にいる人が声をあげないとだめ」なのです。
広島原爆の際、「被爆で白血病が増えた」と最初に言ったのは地元の開業医の先生でした。
この先生の発表はその直後、米国に抑えられた。しかし、抑えきれずにその後、広まった。
これと同じで福島も現場の人が声を出さないと変わらない。外からなにを言っても迫力がない。
でも、福島の人が被曝についてなにか発信すれば、ものすごいインパクトです。
繰り返しになりますが、この3年間の状況をすべて悲観的に見ていても始まらない。
その中から確実に良い面を見つけて、それを維持していくことが大切です。
そして、大きな変化を期待するのであれば、やはり事故の現場にいる福島の人から明確な告発が出てくることが大きな突破口になると思います。
福島の事故でそうした広がりを生まれるのが怖いから政府は先回りをして火消しをしている。でも、それでも火は消えていないのです。
◆科学的データで証明されない内部被曝
── 内部被曝に関しての相談はよく受けられるのですか?
基本的にはブログやメールのネット経由で、できるだけ答えるようにしています。
ただ、あまりそれをやりだすと、個人の領域を超えてしまう。組織にするのは嫌ですから。
それと相談をしてくる方には正直、変わった人もいます。きちんとわかったうえで判断している人ももちろんいますが、身体の不調すべてを放射能のせいと考える人と話すのは大変で、そうした方とケンカしてしまったこともありますよ。
何をいっても「それだけでは納得しません、できません」と言われてしまう(笑)
── 最後に、医師として小野さんは今後、どんなかたちで福島原発事故に関わっていきたいのでしょうか?
内部被曝の分野というのは科学的なデータ・資料がありません。
これは米国が莫大な資金を投じて行なった検証結果で「ない」とされた。おそらく今後もこうした資料は作られないと思います。
そうすると、私に何ができるのか?
内部被曝に不安を持たれている人たちのお話を聞いてあげるぐらいの対処療法しかないです。
だから肥田先生のように来た患者の話を聞いて、時には投薬をするような、その程度のことしかできないのが実情です。
被曝の検診・治療というのは様々な面で極めて難しい。
それがわかっているからほとんどの医師は放射能被曝には関心がなかったりするのかもしれません。
そういうこともあって、福島原発事故について本を書いたからといって、私の病院に患者さんが押し寄せるというわけでもないのです(笑)。[終わり]
◆連関する「福島」と「水俣」
── 福島の流れはむしろ水俣と同じ道を辿っているように思います。
そうですね。熊本日日新聞の山口和也編集委員も水俣と福島の関連性を書かれています。
このふたつはたしかにそっくりです。
ひとつ違うのは、水俣病の原因について、熊本大学はその原因は有機水銀ではないかという説を最初に出した。しかし、それを東京大学が否定した。
「田舎の大学が変なことをいうな」という感じで、熊本大の説を潰していった。
また、水俣の商工会は東大の説を支持して、チッソで生きている町がチッソを悪者扱いしないようにしむけていった。
しかし、事実を歪曲されてもその事実は後になって蘇り、いまの水俣訴訟となっていくわけです。
一方、いまの福島ではどうかというと、福島県立医大は率先して被曝を隠す側に回っている。地元の医師会も同じです。
事故では被曝の被害は出ないと言い続け、なにか起きても、それは放射能のせいではないと平気で言う。開業医でさえそうした態度です。
世間は開業医も所詮医師会の圧力を受けていると考えがちですが、そうではない。むしろ、私も含めて開業医の中には医師会の言うことを聞かない医師がたくさんいます。
医師会は世間が思っているほど権威などありません。なのに福島の開業医の中から被曝の現実をきちんと語る医師が出てこない。
いろんな問題があって、ここはいえないという姿勢をとってしまうのもあるでしょうが、それにしても福島の開業医から何も意見が出てこないのは酷いです。
◆お金で解決できない核廃棄物問題
── 事故の責任でいえば、東電は一度解体した方がよくありませんか?
事故後、日本政府は原子力規制委員会をいったん解体しました。
それで起こったことは、重要な資料などが散逸してしまい、逆に訳がわからなくなった。これは日本の悪いところですが、人が変わると、資料や業務の引継ぎがおかしくなる。
機関をばらばらに解体しても、その後、同じ人がやらざるを得ない。だから私は東電は東電のままで、活かすしかないと思っています。
おそらく東電を解体したら、もっと悪くなる。下手をしたら原発のことをぜんぜん知らない人間が行くかもしれない。
東電が無能なのは確かです。しかし中には有能な人もいて、それで現場がなんとかもっている。
しかも、内部の建設業者や請け負い業者との関係もある。こうした関係を福島原発で解体することは、太平洋戦争の最中に日本が軍部を解体するようなものです。
もっと悪くなる。いまの方がまだましだと思います。
── ただ、発送電分離などはやった方が明らかにいいですよね?
そこはそうですね。むしろそこは早く分けないと電力会社が先に原子力事業を切って責任逃れをしそうです。
原子力事業が火力、水力よりコストが高いのはすでにわかっている。でも、国策だからやっていた。
送配電分離をしたら原子力は持てなくなる。
でもこれまでの原子力は発電しなくても、誰かが維持管理しなければいけない。そのための人は残さなくてはいけません。
もしも原子力を国が管理するとなれば、原発に役人が来ることになる。
そんなことになればもっと悪いことになるでしょう。
── 大学に廃炉学の学科を創設して人材を育てるとかしないでしょうか?
廃炉はあくまで後ろ向きの事業です。すでにあるものをいかに片付けるかが目的になりますから、若い人にとっては夢がない。
優秀な人であればあるほど、何もないところで何かを新しく作り上げていくことが好きです。
だから廃炉のように先人がいい加減にしてきて残したものを担う学科であれば、少なくとも理系のトップは騙されていかないでしょう。
逆にそれで騙されていくような人たちはその程度の人なのだと思います。
廃炉に関してはなかなか良い答えがないのも事実です。
廃炉庁を創設したりするのもありえますが、結局、廃炉の一番の目的は放射性廃棄物をどう処理するかです。
これはいままで米国などが70年近く研究してきたけれど、結局、その解決法の現状は地中に埋めるぐらいが関の山。
そんな分野を日本人が大学で学科を作ってやったとしても何も答えは出てこない。
そもそもトイレのないマンションをどうするべきなのか?を誰も考えてこなかった。
これまではお金でなんとか解決できるだろうと思っていたが、どうやら金で解決できる問題でもなさそうだという感じです。
フランスなどは再処理をしようとしていますが、それでも再処理燃料の八割~九割は廃棄物になる。
その捨て場所がなかなか見つからず、現状はシベリア送りです。それでロシアは儲けている。
米国、フランス、英国の原子力学者と日本の学者とどちらが優秀か?と問われれば、当然、実際に原発や原爆を作った経験のある国の学者に勝てるわけがない。
核廃棄物の再処理問題でわかることは、人類には金で解決できない問題があるということです。
金さえつければ解決できるという風潮がいま凄くありますが、死んだ子を生き返らせるのは1兆円使ってもできません。
再処理もそういう問題で、そこでどうするか?ということです。
《原発放談08》脱原発の突破口は福島の人たちが声を上げること(小野俊一) 10/3 鹿砦社
◆東京五輪は「福島隠し」
── 福島原発の現場でいえば、まともな働き手が減っていますよね?
将来どうするのかが問題です。
最近は東京オリンピックに現場作業員を奪われ始めている。
以前は発電所内部の作業員が除染に人を奪われるといわれていましたが、いまは作業員が東京・首都圏の五輪関連事業に吸い取られている。
良い話はなにもないのが現状です。そんな状況で2020年に東京オリンピックができるのか?
チェルノブイリの事故で被曝被害が増加してきたのは5年後ぐらいからです。
これは半分、陰謀論になってしまいますが、日本はこれまで五輪誘致に何度も手を挙げてきたけれど、なかなか実現しなかった。
それが福島の原発事故があったことで、今回五輪誘致が実現できたと考えています。
そうでなければ、2020年の五輪はイスタンブールだったでしょう。
では、なぜ福島があったから東京が選ばれたのか?
「福島を隠すため」だと思います。
五輪が東京に決まったことで日本人の多くは舞い上がった。でも、福島の今後の現状を考えると日本は五輪開催を途中でギブアップするような気がしています。
日本の経済は土地本位制が基本です。なのに、使えない土地が3.11で増えた。
戦争で負けたときだって、日本に土地はそのまま残った。だからそこから復興してきたわけです。
しかし、原発事故での放射能拡散で、日本の土地は縮小した。肝心の土地がやられて、しかも、その汚染地を政府が率先して広げようとしている。
これでは人間までおかしくなります。
── 戦争には敵がいますが、原発事故で敵はいますか?
放射能という敵がいます。ただ、放射能は無主物で戦いに終わりがない。
プルトニウムの半減期は24000年。対して人間の寿命は70~80年。相手になりません。
私は最近、太平洋戦争関連の本を好んで読んでいます。
例えば、インパール作戦はほとんどの人が無理だと言っていた作戦を一部の指導者が戦略もなしに実行して、甚大な犠牲者を生んだ。
その時の指導者の論理は、「それでもいまこれをしないと負けてしまう」という言い方でした。
しかも負けた後も当時の指揮官は、戦後、あのときはあれが正しかったと反省の色さえ見せず、戦後死ぬまでそのままだった。
いまの福島に対する日本政府の姿勢もこれと一緒だと思います。
事故直後、放射能被爆はたいしたことがないといっていた学者や役人は、おそらく自分が死ぬ間際でも「あの時はああするしかなかった」としか言わないでしょう。
「日本のためだった」とか平気でいうと思います。
── この間、政治での脱原発の転機でいえば、東京都知事選がありました。小野さんは細川・小泉陣営をどう評価されますか?
私は彼らを支持しています。宇都宮さんについてはその前の都知事選では支持していましたが、今回の都知事選で、彼は脱原発中心の候補者ではなかったと思いました。
選挙演説の動画を見ましたが、脱原発は申しわけ程度に言うだけで、実際はほとんど訴えなかった。宇都宮さんにとって原発は添え物のひとつで中心ではなかったという印象を持ちました。
私はそれではだめだと思う。原発問題を正面からとらえることが肝心だと思う。
その他の政策は誰がやっても一緒です。さほど変わらない。
でも、原発問題を第一にした候補じゃないとなにも変わらない。それなのになぜか脱原発派の都民の中でも宇都宮さん支持の方が多かった。
少なくとも選挙活動の演説では細川・小泉陣営の方が迫力があったし、脱原発に本気だったと思います。
細川さんが演説ベタなのはみな承知していますが、小泉さんはとにかく演説が上手い。
メモもフリップもなしにきちんとあれだけ喋れるのは凄いです。橋下大阪市長も演説が上手いと言われますが、
彼はフリップを多用します。フリップやパワーポイントなしで喋るのは二流。
それらなしにきちんと話せる人の演説が一流ですね。
◆どこに希望があるか?
── この三年間はどうしようもない三年だったようにしか思えません。どこに希望があるのでしょう?
日本人は徐々に変えていくのが得意なのでしょう。ドラスティックに変えることは難しい。
だから、変わってないと嘆くよりも少しでも変わったところを見つけていくと、3.11後の日本は良い意味でかなり変わった部分もあると思います。
どこに希望があるか?については「いまだに日本で原発が動いていない」。
この事実だと思います。
脱原発派は選挙でも勝てないし、ばらばらになっていると言われるけれど、それでも原発はいま日本で動いていない。
しかも政府も財界もお金と人を大量に投じてあの手この手で再稼動を進めようとしてきたにもかかわらず、まともに原発を再稼動できていないのです。
無理やり動かした大飯原発はその後尻すぼみでいまは動いていない。
当初の計画では2011年の6月頃には玄海原発を再稼動する計画でした。それを菅直人がちゃぶ台返しをして、その後2年近く日本の全ての原発が止まった。
その後、大飯原発が再稼動したけれど、この5月にはそれも再び止まった。民主党政権時代にも野田や前原とかは再稼動しようとしていたわけです。
安倍政権にいたっては就任早々から再稼動実現に意欲的だった。それがいまだに動いていない。
しかも、もし何基かが動いたとしても、それで今後日本の原発がばりばり動き出すかというとそういう雰囲気はさっぱりありません。
この状況はたいしたものだと思います。
ただ、脱原発をもっとしっかりしたものにするために何より必要なものは、福島あるいは近隣に住む人たちが声をあげることです。
先ほどお話した野村大成先生も言っていますが、「外からどうこう言ってもだめ。渦中にいる人が声をあげないとだめ」なのです。
広島原爆の際、「被爆で白血病が増えた」と最初に言ったのは地元の開業医の先生でした。
この先生の発表はその直後、米国に抑えられた。しかし、抑えきれずにその後、広まった。
これと同じで福島も現場の人が声を出さないと変わらない。外からなにを言っても迫力がない。
でも、福島の人が被曝についてなにか発信すれば、ものすごいインパクトです。
繰り返しになりますが、この3年間の状況をすべて悲観的に見ていても始まらない。
その中から確実に良い面を見つけて、それを維持していくことが大切です。
そして、大きな変化を期待するのであれば、やはり事故の現場にいる福島の人から明確な告発が出てくることが大きな突破口になると思います。
福島の事故でそうした広がりを生まれるのが怖いから政府は先回りをして火消しをしている。でも、それでも火は消えていないのです。
◆科学的データで証明されない内部被曝
── 内部被曝に関しての相談はよく受けられるのですか?
基本的にはブログやメールのネット経由で、できるだけ答えるようにしています。
ただ、あまりそれをやりだすと、個人の領域を超えてしまう。組織にするのは嫌ですから。
それと相談をしてくる方には正直、変わった人もいます。きちんとわかったうえで判断している人ももちろんいますが、身体の不調すべてを放射能のせいと考える人と話すのは大変で、そうした方とケンカしてしまったこともありますよ。
何をいっても「それだけでは納得しません、できません」と言われてしまう(笑)
── 最後に、医師として小野さんは今後、どんなかたちで福島原発事故に関わっていきたいのでしょうか?
内部被曝の分野というのは科学的なデータ・資料がありません。
これは米国が莫大な資金を投じて行なった検証結果で「ない」とされた。おそらく今後もこうした資料は作られないと思います。
そうすると、私に何ができるのか?
内部被曝に不安を持たれている人たちのお話を聞いてあげるぐらいの対処療法しかないです。
だから肥田先生のように来た患者の話を聞いて、時には投薬をするような、その程度のことしかできないのが実情です。
被曝の検診・治療というのは様々な面で極めて難しい。
それがわかっているからほとんどの医師は放射能被曝には関心がなかったりするのかもしれません。
そういうこともあって、福島原発事故について本を書いたからといって、私の病院に患者さんが押し寄せるというわけでもないのです(笑)。[終わり]
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講演ばかりしている、小泉-細川陣営は、都知事選で国家戦略特区容認だから信用できないとか、いろいろ言われていたようですが。
個人的には毒には毒を(小泉氏の総理時代の悪行には目をつぶって)、で代表、細川氏、知恵袋の宇都宮氏で都知事選望んで欲しかったとも思っていました。