小笠原誠治の経済ニュースに異議あり!

法人税減税で投資を呼び込むことの限界

 浜田教授が、日経の本日の経済教室で法人税減税を実施することを力説しています。

 確かに日本の法人税の実効税率は世界的にみて高い。だから企業からすれば、もう少し下げてもらいたいという要望が出るのも分からないではありません。

 では、仮に法人税を下げたとして、それによって日本の潜在成長力を高めることができるのでしょうか?

 浜田教授は、それは可能であると考えているようですが、私は、それは大変に難しいと考えます。というのも、仮に法人税率を大胆に下げた結果、世界の有力企業が日本に進出するような事態になったとしても、日本の少子高齢化が止まらなければ、労働力人口が反転することもないので、どうしても供給能力の増強には限界があるからです。

 アベノミクスの支持者やリフレ派の人々のなかには、日本の経済は、需要不足が解決すればどれだけでも成長するかのように考える人が多いですが、そうではないのです。如何に需要が追加されようとも、供給体制がそれに伴って増強されないと、成長には限界が生じるのです。現に、今我が国では、どれだけ公共工事を実施しようとしても、人手不足のために公共事業による景気の下支え効果に限界が生じているではないですか。そのことは、大変な規模の未消化の公共事業が存在していることからも分かるのです。

 ところで、今、法人税率を大胆に引き下げると言いましたが、現在の35.6%程度の法人税率をどれくらいまで下げたら日本に進出してもいいという世界的な企業が現れるのでしょうか?

 恐らく少なくても法人税率を15%を切るほどまで下げることが必要になるのではないでしょうか。というのも、そうでないとシンガポールや台湾、香港などに太刀打ちできないからです。

 でも、その程度では日本に進出しようという企業は現れないかもしれません。というのも、日本は極東に位置するし、それに英語で完全にコミュニケーションが取れる訳でもないからだ、と。

 もっと言えば、政府の企業に対する介入が目に余る。女性を役員に登用しろとか、賃金を上げないと企業名を公表するとか、或いは経団連なるものがあって、与党に企業献金すべきだなんてことを言う。

 もっとも、法人税率を10%を切るほど引き下げることができるのであれば、それならそれで世界的な企業がどっと日本に進出することが考えられないでもありません。

 しかし、そうやって先進国のなかでダントツに低い法人税率にするなんてことを日本がやる度胸があるのでしょうか? 仮にそれが功を奏して、世界の有名企業が日本に進出することになれば、恐らく世界中から日本は批判されるでしょうが、日本はそのような批判に耐えることはできるのでしょうか?

 恐らく無理でしょう。そうなれば、法人税率を下げるとしても、結局、ドイツやイギリス並に留まざるを得ないでしょうが、それでは海外の企業から見て殆ど意味がないのです。

 結局、法人税率を引き上げても、国内の儲かっている企業が支払う税金が少なくなるだけのことなのです。というよりも、それに伴い税収が減るので消費税を増税することが益々必要になるのです。

 いずれにしても、法人税を引き下げることによって海外の企業を誘致するなんて方法は、海外に犠牲を強いるものであるので、持続可能な方法ではないのです。

 自分さえよければ...自国さえよければ...というのが、法人税の減税論の考えなのです。


以上

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小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

小笠原誠治(おがさわら・せいじ)

1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。
大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、
中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。
以降、経済コラムニストとして活躍。
メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。
著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、
ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、
経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。
企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。

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