石槌山に登ってきた。
どうやら「西日本で一番高い山」らしい石鎚山なる山が、四国、それもすぐ隣りの愛媛県にあるとか。ネットで見かけて、ちょうどこの季節は紅葉が見頃らしいとのことだったので、思い立ったが吉日。すぐさまザックに荷物を詰めて愛媛県西条市まで二輪を転がした。
高松市からは国道11号線をひたすら突き進む。西条市に入ると国道194号線に乗り換える。
少し進むと県道12号線へ。山道を登ったり下ったり。途中ダムがある。どんなものかと思ったが、小さいし濁っているしで大して良いもんでもなかった。ダムに注ぐ加茂川は上流へ向かうほど水が澄んできて、川にはゴツゴツとした岩が多く見られるようになる。仙徳寺という古寺を少し過ぎたあたりに赤い鉄橋があって、その少し手前に川面のすぐ近くまで降りられる階段が設けられている。
(ストリートビュー先生さすがや)
走りっぱなしだと身体が冷えてきて疲れるので川を眺めながら休憩した。とてもきれい。
川綺麗 pic.twitter.com/Sy3J0rjQlr
— げろしゃぶ(とおる) (@grshb) 2014, 10月 15
ここを過ぎると登山口のロープウェイ駅までは直ぐだった。
家を出たのがおそらく昼過ぎ、目的地に到着したのが多分16時頃。途中何度も休憩を取りながらのんびり進んだので、ずいぶん時間がかかった。ロープウェイの運賃は片道1030円。金がないのでケチろうかと思ったけど、時間と体力の事を考えるとどう考えても乗らざるを得なかった。現実は辛く厳しい。
7分ほどの間ロープウェイの籠に揺られる。持参したレーズンを食べながら山を眺めた。この時間に上りのロープウェイに乗るのは、当たり前のように自分一人だけだった。石鎚山は日帰りで登るのが一般的なようだ。真ん中あたりですれ違うくだりの籠には大勢の登山客が乗り込んでいた。
ロープウェイに乗るのは2年くらいまえに長野県の木曽駒ヶ岳に登った時以来。あの時は朝早くに登ったが今度は夕方。夕方のロープウェイははじめてかも知れない。既に日は傾きかけていた。
早速山道を歩き始める。石鎚山は全体的に道がきれいに整備されていて歩きやすかった。ロープウェイ駅から1キロくらい歩くと、石鎚神社成就社が姿を見せる。旅館や土産物屋、食堂なんかも併設されていてそれなりに大きい。
ベンチに腰を下ろして一休みしていると、神主さんらしき人が神社から歩いてくる。こんばんは、と声をかけると挨拶が返ってきて、続けて質問された。
「これから下るんではなくて、これから登られるんですか?」
せやねん、と答えると「大丈夫かこいつ」みたいな顔で
「今晩はずいぶん冷え込むようなのでお気をつけて」と神主さん。
お礼を言って、神社を出た。
神社を出て20分も歩くと、完全に日が落ちてしまった。日が沈む前に準備しておいたヘッドライトを灯して黙々と歩く。夜の山道のなんと不気味なこと。よくよく考えてみれば一人で山に登るのも初めてで、そう考えると余計に不安になってくる。結局1時間半から2時間くらい暗い中を歩いて、ようやくテントを張れそうな開けた場所に出た。
野営の準備をする。と言っても、ザックからテントを出して広げて、マットを敷いて荷物を放り込んでおしまいだ。テントの中に入って一息つくとようやく安心する。乾いたシャツの質感とダウンジャケットの温かさは偉大だ。ついさっきまで暗い中を息を切らしながらどこにあるとも知れないテント場を求めて歩いていたことを考えると、天国と地獄。母に抱かれた赤ん坊のような気持ちとまでは言わないけど、その時に限ってはそれくらいに安心する。
晩飯は事前に買ったフルーツグラノーラとジャスミンティー。火器がないのでそのまま食べられるものだけで我慢。食事を取りつつ、文庫本を取り出して読書に耽る。山に居ると夜はやることがないので読書が捗る。普段自分の部屋にいるとパソコンだのスマホだのにかまけて読書が出来ない人間にとっては素晴らしい環境だ。
腕時計はつけてこなかった。スマホは山頂で音楽を聴くためのバッテリーを残しておくために電源を切っている。その辺に時計なんてない。食事を終えて文庫本を読んでいるうちに眠気が来て、そのまま眠ってしまった。結露を防ぐためにテントは閉めきらないでおいた。メッシュの部分から外の様子が少し伺える。月の傾きを見るに、多分まだ20時か21時くらいだったのだろう。
夜中、悪夢に魘されて目を覚ました。子鬼(全然可愛らしくない)が二人でテントを引きずって行く夢だった。メッシュの外に子鬼の顔がチラチラと覗く。うわあぁ!!!うわぁあああ!!!!!とか言いながらテント越しに子鬼を蹴飛ばそうとしたところで目が覚める。驚いたことに、本当に寝袋に包まった身体を動かしてテントを蹴っていた。当然子鬼なんか居ない。夢だとわかっても怖いものは怖い。まず、山の中に一人という状況がどうやったって怖い。風がビュウビュウ吹き荒れていて周りの草木がざわめいている。「うわぁ、森が生きているみたい!」みたいな楽しい感じはなくて普通に怖い。
それではお聴きください。森は生きている、「日々の泡沫」。
少し落ち着いてから外に出てみると、星が綺麗に瞬いていた。山に登る目的の3分の1くらいはこの星空を眺めることと言っても過言ではない。でなきゃわざわざ、普通日帰りで登る山にテントまで持ち込んだりしない。山で眺める星は本当に綺麗だ。この時間だけは何にも代えがたい。遠くには街の灯りが見える。スピッツに「ゴミできらめく世界が」って歌詞があるけど、山で手の届きそうなくらい近くに星空を感じながら、一方で街の光を眺めていると、本当にゴミみたいだな、と思う。場合によっては街の夜景も綺麗だけど、満天の星空の下ではあんなもんゴミだ。
朝。4時頃に目を覚ます。まだ暗い。寝袋に包まりながら、文庫本を開いて夜が明けるのを待つ。山の夜は長い。特にこの季節は。5時半か6時くらいにようやく日が昇る。山で見る朝焼けは本当に美しい。山に登る目的の3分の1くらいは以下略。
石鎚山の朝焼け pic.twitter.com/ca8v8tMRCw
— げろしゃぶ(とおる) (@grshb) 2014, 10月 16
朝焼けを眺めると再びテントの中に戻る。日が登り切ってから暖かくならないととても動く気になれない。どうせ急ぐほど長い道のりでもないのだ。また寝袋の中にすっぽり入って、文庫本を眺めて過ごす。山では本当に読書が捗る。
(中略)
石鎚山と言えば長い鎖場らしい。一ノ鎖、ニノ鎖、三ノ鎖と3つの鎖場がある。実はもう一つ、試しの鎖なるものがあるらしいけど、昨日普通にスルーしていた。
以下、拾った参考画像。
一見険しすぎるのだけど、案外簡単に登れる。本当に大丈夫かよこいつらと思ってしまうようなご年配者の皆様も登ってらしたので、多分誰でも登れるだろう。クソリプ案件乙。
ちなみに、鎖を登らなくても巻き道を歩いて登れる。
ちょっと登っては後ろを振り返ってなんて綺麗な景色なんだと感慨に耽りを繰り返しようやく登頂。どうやらまだ正午も来ていなかった模様。石槌山は弥山と天狗岳とあといくつかの山の総称なのだけど、弥山以外は切り立った山で山頂が狭いので、弥山がメインの山になっている。一番高いのは天狗岳で、1982メートル。弥山に登り切った勢いで、そのまま天狗岳まで行ってしまう。尾根伝いに歩いて、5分もかからない。iPhoneを起動して、イヤホンで音楽を聴きながら切り立った尾根の上を歩く。
(拾い画像)
山の上で聴く、ちょっと壮大な感じのクラシックミュージックは最高だ。狭っ苦しい部屋の中で聴くとなんか状況と似つかわしくない気がしていまいち入り込めなかったりする音楽も、ちゃんと壮大な風景の中で聴けばしっくり来る。ずっと前から入れっぱなしにしているコンピレーション・アルバムから、バッハとかヨハン・シュトラウス2世とかヴィヴァルディなんかを引っ張りだして聴いた。最高裁判所!最高裁判所!間違えてイギー・ポップのLust for lifeを流してしまったけど楽しくなってきたのでそのまま聴きながら歩いた。
天狗岳山頂の眺望 pic.twitter.com/rXXncfEz5u
— げろしゃぶ(とおる) (@grshb) 2014, 10月 16
そんなわけでサイコーの山だった。一人登山またやりたい。おわり