姉と弟【完】

弟が、おかしい




「姉さん」


 我が弟がにこにこと笑っている。それはそれは無邪気な顔で。
 しかし、その手に持っている物が、激しく似つかわしくない。


「それはなんだそれは」


 弟の手にあるそれについて尋ねると、こいつはよくぞ聞いてくれました、とばかりに口を開いた。


「拘束具」

「…………」


 そうか、拘束具か。それは見れば分かる。
 しかし、聞きたいのはそれではなくてだな。

 何故、何故今拘束具が必要なのか。
 そして何故それを私に向けているのか理解が出来ない。


「まさかそれを私に付けるなんてことは言わないよ、な……?」


 恐る恐る尋ねると、弟はいい笑顔で頷く。


「姉さん流石。その通りだよ」


 じりじりと近寄ってくる弟から距離を取りながら、睨みつけてやる。


「どこに姉に拘束具をつける弟がいるんだ。むしろあったとしても逆だろう、逆。そもそも何故私はそれをつけられなければならないんだ」


 これは由々しき事態だ。
 今まさに下克上が行われようとしている。

 そっちがその気なら、とファイティングポーズを取ると、くすりと弟は笑った。


「……あれだけ男とは喋るなって言ったのに、姉さん告白なんてものされてるんだもん」


 何が、だもん。だ。
 答えになっていないぞ、弟よ。

 これはあれか? 大好きな姉が告白されて嫉妬してる弟の図か? いや違うこれはそんな可愛らしいものじゃない。もっとどろどろしてねちっこいものだ。

 昔から姉っ子だなぁとは思っていたけれど、ここまで来るともはやシスコンだ。狂気だ。


「……しょうがないなぁ」


 弟はため息を吐いて拘束具を机に置いた。
 その行動に少しほっとして、ファイティングポーズを解く。

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