裁判員制度:福島地裁「苦役禁じる憲法に違反」訴え退ける

毎日新聞 2014年09月30日 11時48分(最終更新 09月30日 12時58分)

 強盗殺人事件の裁判員裁判の裁判員になったことで急性ストレス障害(ASD)と診断された元福祉施設職員、青木日富美(ひふみ)さん(64)=福島県郡山市=が、裁判員制度は苦役などを禁じる憲法に違反するとして国家賠償法に基づき200万円の賠償を国に求めた訴訟の判決が30日、福島地裁であった。2009年5月に始まった裁判員制度の是非を裁判員経験者が問う初の訴訟だったが、潮見直之裁判長は「裁判員制度は憲法に違反しない」と述べ、請求を棄却した。青木さん側は控訴する方針。

 青木さんは福島県会津美里町で12年に起きた強盗殺人事件の裁判員裁判で、裁判員に選ばれた。審理で被害者の遺体のカラー写真や被害者の断末魔の叫びを録音したテープなどが示され、青木さんは死刑判決直後の昨年3月にASDと診断された。訴訟で青木さん側は、裁判員に指名された際に送られた説明書に「なりたくない、という辞退項目はなかった」と制度の強制性を指摘。苦役からの自由を保障した憲法18条などに反すると主張した。

 判決で潮見裁判長は、青木さんの裁判員経験とASDの因果関係を認め、「裁判員には相当に重い精神的負担を強いることになることが予想される」と指摘。一方で▽辞退できる制度があり負担を強いる事態を回避できるよう配慮されている▽被害については国家公務員災害補償法に基づく対象になる−−ことを挙げ、今回の被害によって裁判員制度で課される国民の負担が合理的な範囲を超えているとはいえず、裁判員が「苦役」には当たらないと結論付けた。

 また▽裁判員は職業とはいえない▽裁判員の義務は公共の福祉によるやむを得ない制約−−として、職業選択の自由を認めた憲法22条や個人の尊厳を定めた同13条にも反しないと判断した。

 裁判員制度を巡っては、覚醒剤密輸事件の裁判員裁判の1審で有罪になった被告が「制度は、下級裁判所の裁判官は内閣で任命するとした憲法80条1項と矛盾する」などと主張した上告審で、最高裁大法廷が11年11月、憲法18条なども含めて「制度は合憲」と判断していた。青木さん側は「憲法80条以外の条文について判断した最高裁判例に拘束力はない」とも主張していたが、潮見裁判長は「上告趣意に含まれていない事項について判示したとはいえない」と効力を認めた。

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