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ミラガシ 作者:哉木 幽

本編

「鈴蘭」

 甘い甘い、蜂蜜を溶かし込んだような声。霞月の声が耳朶を打つ。
 それはずっと聞いていれば、私の脳内をどろどろに溶かしてしまいそうだ。

「私はこれから、一生。貴女をここから出すつもりはありません」

 私を組み敷いているこの男は言う。

「いいですね?」

 そう問う彼から視線を外して部屋に目を向ければ、それは全く見知らぬ場所で。けれどもずっと離れに閉じ込められていた身としては、ただ場所が変わっただけのようにしか感じられなかった。

「答えを言わず目を逸らさないで」

 不機嫌そうにそう言った彼は、あろうことか私の首筋に噛み付いた。

「……ぁ……いた、い」
「いいですね?」

 横暴だ、と私は小さくこぼした。彼はそんな私に今更ですか、と笑う。

「ほら、鈴蘭。Yes、と」

 急かす彼はいつもより余裕がなさそうだ。それを見て私は仕返しの念が湧いた。

「もう貴方の中では決定事項なのでしょう? 私に同意を求める必要なんてないじゃない」

 つい、と視線を逸らして言えば、また、喉に痛みが走る。

「……っつぅ……また噛んだ……」
「鈴蘭。早く頷かなければ、貴女の喉元を食い破ってしまうかもしれませんよ」

 脅しのようであるけれど、彼にしては事実を述べただけのもの。実際このまま黙り込んでいれば言葉通り私の喉は悲惨なことになるだろう。

 意趣返しなど出来るはずもなかったのだ。この男相手に。

「私は、貴女から証明が欲しいのです。油断して逃げられたとあっては、元も子もないのだから」

 それに、と。

「これは私なりの譲歩なのですよ? 貴女を目にした者も貴女が目にした者も、全て消えてなくなればいいですし、この手で葬り去ってやりたいほどですが……貴女は私がヒトを殺すことをあまり快く思わないようなので」

 言葉を重ねる毎に暗く淀んでいく目を見て、ぞっと背筋が凍った。彼に逆らってはいけない、そう思って。 

「…………分かった」

 渋々肯定すれば、いい子ですねと霞月に髪をなでられる。

「鈴蘭。貴女の望むものは自由以外全て差し上げます。何でもしてあげましょう。その代わり貴女は、私に貴女自身を差し出しなさい」

 有無を言わさぬ、支配する者の命令。
 初めから彼は支配者だったのだ。支配される側の私が逆らえるはずもない。

 小さく頷けば霞月は悠然と微笑んで、その綺麗な指と私の指を絡める。
 深く、深く繋がれたその手は雁字搦めの鎖のようだ。

「鈴蘭、貴女の全ては私のものです」

 そう言って彼は私の指先に口付けた。じんわりと指先から熱が伝線していく。
 何時の間にか私の着物は肌蹴られていて、胸元と太ももが大きく晒されていた。それがどうしようもなく恥ずかしい。
 私は繋がれていた指を解いて肌蹴られた着物を掻き集めた。

「真っ赤になって可愛らしいですね……しかし」

 すっと霞月の目が細められる。

「隠すのはいただけないですよ?」

 その言葉と共に、痛いほどの力が私の腕を掴む。痛みに呻けば、霞月はくつり、と嘲笑をもらした。

「やぁ……やめ……」

 逃れようともがけば、その力は一層強くなった。押さえるものがなくなった着物はついに帯さえも解けてしまう。

「止めません。言ったでしょう? 鈴蘭。逃がさないと」

 壮絶な色気を纏わせて、彼は笑った。
 そうしてするりと太ももをとられ、口付けられる。

「私のためにたくさん啼いてくださいね」

 鈴蘭。

 脳内が麻痺する。何故か思考が鈍くなって、結局私は抵抗と考えることを放棄したのだった。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。余りにもあやふやな感じなので、もしかしたら、他者視点のお話を上げるかもしれません。
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