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イヌマキ

シリーズ 自然を読む 樹木の個性を知る、生活を知る

※このシリーズについて

イヌマキ

異色の裸子植物

文:生原 喜久雄
写真:茂木 透
熊田 達夫

 
     
 
 

 常緑高木で、太枝が多く、不規則な卵形の樹冠をつくる。樹幹は「うらごけ(ずんぐりした形)」となり通直材は少ない。
 イヌマキの意味は、「真木(マキ)」(スギのこと)に似ているが劣る木という意味で、スギと同様裸子植物である。
 高さ20メートル、直径50〜60センチに達する。樹皮は灰褐色で、浅く縦裂し、薄片となって剥離する。枝は多少密生し、1年枝は緑色、老木では下垂する。
 関東南部以西の太平洋岸、瀬戸内海沿岸地方に分布し、特に紀伊半島地方に多い。山陰地方に少ない。海岸に近い山地の暖帯林の中に、ウラジロガシ、アラカシなどと混交しており、耐陰性が強く、傾斜のゆるい適潤な土壌で生育する。

 
     
 

風防に、生垣に

イヌマキ 成長は遅いが、深根性であり、萌芽力は強い。刈っても、刈っても、次々と新芽がでて、すき間なく常緑の葉を茂らせるので、風防に適している。千葉県の木に選定されている。
 また、密生させて生垣をつくり、その間をくり抜くように切り取って入り口にしたり、四角に刈り込んだり、左右から枝を伸ばしてアーチ型にしたり、特徴的な風物をつくっている。
 暖地の庭園樹、街路樹、生垣、防風防潮林として、また社寺境内にも植栽される。庭園樹としては変種のラカンマキの方が賞用される。これは葉が5センチ程度で、小さく密生して上向きについている。

 
     
 

甘い花托

 

 葉は革質で、密にらせん状に配列し、偏平な線状披針形の全縁で、長さ7〜15センチ、幅7〜10ミリである。葉の先は尖り、中央脈は両面に著しく突出する。
 雌雄異株で、開花期は5月。雄花は円柱形、長さ3〜4センチの穂状で有柄、葉腋につく。雌花は葉腋に1個つき、緑色の花托がある。
 種子は10月頃に緑色に熟し、球形で直径約1センチ、表面には白粉をおび、樹上で発芽するのがある。これを胎生種子といい、種子が母体についたまま発芽し、母体から栄養を受け取る。
 種子の下部には花托があり、肉質に肥大して楕円形となり、赤紫色に熟し、甘みがあり、子供が喜んで食べる。種子は乾燥させると発芽力を著しくそこなう。

※左上の画像をクリックする毎に、違った画像がご覧になれます。(FLASHプラグインが必要です。)

 
     
 

イヌマキとコウヤマキの違い

 同じマツ目でも、イヌマキはマキ科マキ属で、コウヤマキはスギ科コウヤマキ属である。イヌマキの葉はコウヤマキに比べて扁平で光沢がない。イヌマキの葉は螺旋状か互生にでるのに対して、コウヤマキの葉は輪状にでる。コウヤマキの球果は大きくて松笠状で、雌雄同株である。
 イヌマキの分布は中国大陸の南部にまで及ぶが、コウヤマキの分布は日本に限定される。

シャクトリムシによる被害

 イヌマキは2〜7月頃に発生するキオビエダシャクトリムシの被害が大きい。特に西南諸国に分布しイヌマキを食害するこのシャクトリムシは、いったん発生すると葉を食いつくし枯損させる。このシャクトリムシの密度を制御できる天敵が存在せず、食樹がなくなって初めて密度が減少するという関係になっている。
 したがって、造林してもシャクリトムシの加害によって成林の見込みが立たないのが現状である。耐蟻性の強い用材として有用な樹なので、キオビエダシャクトリムシの防除法の開発が急がれる。

強い耐蟻性

 材は黄褐色ないし暗褐色、心材と辺材と境は明らかでない。材は緻密で心材は赤褐色をしており、腐りにくい。そろばん玉、箱などの器具などにも用いられる。
 耐水性・耐久性が強いので、水湿の多い場所での建築や土木用材として、また耐蟻性や耐潮性にも強いので、沖縄では古来、柱などの建築材として尊重されている。耐蟻性に優れていることから、南西諸島の木材生産樹種として有望である。
 イヌマキの別名をクサマキというのは、材に一種の臭気があるからである。
 高耐蟻性のイヌマキにはテルペン類の殺蟻成分ククトンが含まれる。モッコクやハリギリにもテルペン類の殺蟻成分であるサポニンが含まれる。
 古くから腐朽木材にシロアリが誘因されることが知られているが、ある種の腐朽材からシロアリを誘引するフェロモンが発見されている。
 白蟻を誘引する有効な物質を早急に同定し、誘引剤を用いた白蟻退治を期待したい。

木材食料化の夢

イヌマキ なぜ、白蟻は木材のみの食料で、あのように活発に動くことができるのか不思議である。白蟻は消化管のなかにいるバクテリアによって木材を消化させている。ただし、バクテリアに必要なエネルギー(炭素)は木材に十分あるが、栄養となる窒素がないので、消化管のバクテリアは大気中の窒素を固定していることが、最近明らかになっている。
 木材の成分の大半を占めるセルロースは、地上で最も量が多い高分子化合物で、ブドウ糖が多量結合しており、動物のエネルギー源になっている。もし、白蟻とバクテリアとの共生の研究が進み、木材のセルロースが簡単に分解できれば、木材の食料化が可能で、人口増加による世界の食料不足の解消も夢ではない。 <2007.09>

 
     
  (はいばらきくお 東京農工大学 農学部教授 森林生態学)  
 
 
 
  でーた
  イヌマキ
  種名: Podocarpus macrophylls 日本語では「犬槇」。
  分類: マキ科マキ属
  分布: 関東南部以西の太平洋岸および瀬戸内海沿岸地方に分布
  用途: 湿地での建築、土木用材、暖地の庭園樹、街路樹、生垣、防風防潮林、社寺林
 
 
 
   
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