第八話 妖刀

 初めて見た人は「これって何の番組?」と思ったかもしれません。
 当然だよ! 普段見てる方も「あら、チャンネル間違えた?」と思いかねない始まり方。いつものOPじゃないし。キャスト・スタッフのテロップは出るものの曲とかないし。タイトル「妖刀」って出るし。てゆーか、「あっ、これってあれだ。クロサ…」って思いかけて。違います、こういうのはパクリじゃなくてオマージュって言うんですよ。
 で、いきなり侍が出てきて果たし合いですよ。まるっきり時代劇です。うっそうと木の茂る石階段の途中でもっさい格好の中年男を取り囲む四人の若侍。ナントカ先生の仇、みたいなことを言ってるので、中年侍が道場破りした先の弟子たちっぽいです。多勢に無勢の状況ながら中年侍は落ち着き払ってます。咳き込んで吐血したりしてるのに! もちろんこのチャンスを逃すことなく若侍が斬りかかるんですが、四人のうち三人はあっさり返り討ちに。つ。つええ…。残った一人はしばらく怖じけていたものの、中年侍が勝負はついたと背を向けたとたん、我に返って勝負を挑み、当然のように斬り捨てられてしまう。この辺の殺陣がなかなかかっこいい。踏み込んだときにばっと落ち葉が散ったりして、動きの緩急が視覚でわかりやすい演出になってる。
 中年侍の勝利に見物を決め込んでいた白髪頭の男が躍り上がる。「四人斬りだあ!」。あっ、おじさん、ゴンザさんじゃないですか! って、いちおー、これ、侍のいる時代ですから、もしかしてご先祖さま? まあ、今回はゴンザとしての出番がないので蛍さんが別役を勤めてるんでしょう。殺生の場に通りすがって中年侍を諭す尼僧も肘井さんですし。サービスサービスぅ。
 血を吐く中年侍に、尼僧は医者を呼ぶよう白髪頭の町人に頼むのですが、「どうせ長生きするつもりはない」と断ると男はその場を立ち去るのでした。
 結局いつものOPはなしか…。

 

 白髪頭の男に教えられた、七つの峠を越した先にいるという強い男の元へと急ぐ中年侍。この侍、猪狩重蔵はひたすら強い男と戦うことを願い、それだけを生きるよすがとしている男。病んだ身体を酷使して何十年も人を切り続けている右京という男の元へとたどり着くのですが。
 こいつ、ホラー憑きじゃん!
 というか、ホラーが憑いているのは正確には日本刀で、ホラーは生き血を手に入れるために持ち主を操って人を切らせていたのでした。しかし、猪狩にとってはそんなことはどうでもいい。強い相手と勝負ができれば相手が人間だろうとホラーだろうと関係ないのです、たぶん。
 戦い始める猪狩と右京。廃屋同然の寺だか神社だかの内部での殺陣は、制約も多くてやりにくそう…。素手でのやりとりも交えて変化もつけ、これまた見応えのあるアクションシーンだわー。前回に続き、がっつりアクション回な作りです。
 死闘の末、右京は猪狩に破れて死んでいくのですが、それで困るのはホラーです。早速猪狩に「我に血を吸わせよ、代わりにお前の望みを叶える」とかなんとか言って、猪狩に自分を握らせることに成功。瀕死の猪狩はホラーの力で。
 現代にタイムトラベル!
 もとい、病でボロボロの猪狩の身体をホラーが修復するのに数百年もかかってしまい、意識を取り戻したときには現代になっていた、ということらしいです。轟音を上げて頭上を飛ぶ飛行機、山道を走る車に仰天する猪狩ですが、彼にとっては全く異世界同然の現代であっても強い男に会えさえすれば、結局はたいした問題ではないようです。なんという執念。
 でも、町へとたどり着いた猪狩の前に現れるのはふにゃふにゃの町人ばかり。なにあれー、ちょっと写メ撮っちゃおー、なノリのカップルなぞ眼中にも入りません。(うっとーしかったのか、ケータイはまっぷたつにしたけど)怪しげな風体にガン飛ばしてきたチンピラですら、猪狩の本物の眼光に震え上がり道を大きくあけて遠巻きにする始末。これでは強い男を求める猪狩の目的は果たされません。
 もっとも、ホラーにしてみれば相手が町人だろうと弱かろうとそんなことはどーでもいい。生き血だよ、生き血、誰でもいいからさくさく斬って俺に生き血をよこせよ、ごるあ、と猪狩をそそのかすのですが、そんな言葉に動じる彼ではなく。むしろ、こんな腑抜けたところに送り込まれてどうすりゃいいんだ!? というか、内心余計な事しやがって、とホラーにいらついていたかもしれません。しかし、ここでそんな彼の強いやつセンサーがぴぴっと反応、駆けつけてみると、おお、零が何者かと戦っているじゃーないですか。って、零が相手にするならホラーに決まっているわけですが。
 警備員とおぼしき男は零の攻撃にホラーの姿に変身。そこで零も銀の鎧を召喚するのですが。
 獣状の頭部を持つ鎧を見て、猪狩は驚く。脳裏に蘇る少年時代の自分。どうやらこの人、若いときに魔戒騎士を見てるんですね。
 この回は零と猪狩の関わりがメインなので、警備員から変身したホラーは端からちょい役の運命、やられメカのようなものです。鎧を着た零にさっくり斬られてジ・エンド。疲れたなあ、とため息をつき帰り支度の零でしたが、その背中にまぢ侍の猪狩が声をかける。「俺と戦え」と。風体こそヘンだけどシルヴァも認めるただの人と零が戦うはずもなく、てきとーに流して去ろうとするのですが、猪狩はそれを許さない。「お前は俺と同じ人間だ」という猪狩の指摘に、零はぴくりと眉をあげる。
 そう、しれっと物事を軽く受け流す今時の若者を装ってはいるけど、零もまた内心で強さを求めている。かつて鋼牙と戦ったときも、最初は道寺や静香の仇と信じてのことだったろうけど、そのうち鋼牙という「強い男」と剣を交える醍醐味に気持ちを引っ張られていったところも多分にあると思うのですね。
 猪狩の執念に零の心は動いたものの、猪狩は剣を抜けない。どうやら零が魔戒騎士だと気づいたホラーが抜刀させないよう働きかけていたようだけど、零にはそんなことがわかるはずもなく。その上猪狩は吐血し始め、零は肩をすくめてその場を引き上げる。気が収まらないのが猪狩。なぜ邪魔をする! とホラーに対して憤るけど、ホラーにしてみれば手間ひまかけて猪狩の身体を動けるまでに修復したのは、魔戒騎士という天敵を相手にするためではなくじゃんじゃん生き血を飲むためだったわけで。この時点でこの二人(?)の利害は完全に食い違うことが明らかになり、これがゆくゆくホラーの運命を大きく左右することに。
 地下駐車場とおぼしき場所を歩いていく零。が、突然立ち止まり、呆れたように振り返る。そこには掃除用のモップの柄を持った猪狩が。剣が使えないとわかってもなお、零との勝負を望む猪狩は、モップの柄で戦うことを零に求めます。零は当然スルーを決め込みますが、それを許す猪狩ではなく問答無用で零に打ちかかる。本気でめった打ちにされれば、しかも本気で強く避けるのも簡単でないとなれば、零も相手を無視し続けるわけにもいかず、木刀まがいでの真剣勝負を繰り広げることになります。
 こういう展開は、本当に鋼牙じゃ無理。彼なら本気で猪狩をまる無視し続けるでしょう。よくも悪くも人の感情を遮断しきれない零だから、猪狩との戦いが成立するわけで。
 零と猪狩は互角と言っていい戦いを展開し、彼の強さに零の中にある戦いへの欲求が目覚める。シルヴァの制止も「悪い、楽しくなってきた」と受け流し、本気で猪狩と勝負する零。でも、いくら猪狩が望んでも、彼が人間である限り鎧を着て戦うわけにはいかない。結局猪狩の隙をつきのど元へ柄の先を突きつけた零が、勝負はついた、とその場を去るのだけど、猪狩の闘志がそれで収まるわけがない。


 今回、配分としてはAパートがやや長めだった気がします。まー、前半だけでまぢアクションが二回も入るのだからしかたないけど。
 ちゅーか、今回アクション大好きスタッフの趣味暴走な回です。こういう変化球な話が作れるのも、世界観が確立しキャラクタが視聴者に浸透した第二シリーズならではですね。


 弱った身体で非常階段に座り込む猪狩。ホラーは猪狩の身体を修復したとはいえそれは完全なものではなく、たぶん生き血を得られず力が弱っていることで、猪狩の病は再び進行し始めてるっぽい。だから人を切って血を飲ませろ、とホラーは猪狩をけしかけるのだけど、断固としてそれを聞かない猪狩は予想外の行動に。
 なんと、ホラーの憑依した刀で自分の身体を貫いたのだ!
 ひー、なんちゅー執念。
 猪狩は意地でも町人など斬りたくない、ただの人切りになるくらいなら死んだ方がマシだという。
 俺の血をくれてやる、好きなだけ飲めという。
 この辺の、彼の強さに対する執着を見ているとき、私が思い出したことがあります。
 「強いやつに会いに行く」という、ストリートファイターという格闘ゲームのコピーです。
 男にはもう、何が何でも強さを求める欲求が大なり小なり眠ってる。憎いとか蹴落としたいとか、付随する感情は何もないんです。ただ、「強いやつに会」いたいだけなんです。それを求めることで、何も得られなくても全てを失っても死んでもいい。愛とか平和なんてどうでもいい、そこに理屈なんかない。こういう欲求は、多くの女性にとって「?」なんじゃないかと思うけど。
 でも、どーしよもないんだよ、止められないんだよ、「男」である限り、一度開いた扉を閉じることはできない。
 いや、私も女なんだけどさ。そういう、遺伝子に刷り込まれた無私無欲な欲求が男にあるのはなんとなくわかる気がするんだよ…。
 猪狩は、そういう男の中に眠る欲求が、人の形になって服着て歩いてるような存在。だから、零もなんだかんだ言って無視できない。だって、彼は自分の中にも確かにいる「もう一人の自分」だから。

 シルヴァの探知でホラーが潜む場所をやってきた零。そこは倉庫? なんだろう? 廃材などのゴミが散乱してて「汚いところはいやだなあ…」と零がぼやいていると。
 そこに現れたのは猪狩重蔵。しかも、シルヴァは猪狩こそがホラーだという。その上、猪狩は自分に憑依したはずのホラーを押さえ込み、魂は猪狩のままだというのだ。猪狩はそうまでして零と戦いたかったのか…。
 猪狩は幼い日の己の体験を語った。輝く甲冑を着た者が異形の敵を倒すのを見た。その剣さばきの見事さ、子どもにもわかる圧倒的な強さに、いつかあの甲冑の男を倒せるほどの強い男になってみせると決心したのだと。
 ということは、猪狩の時代、すでにホラーと戦うのは法師でなく騎士になっていたのか…。
 いや、それは今はどうでもよく。
 ここまでくれば零も猪狩と戦わざるを得ない。なんと言ってもホラーなのだし。二人は力の限りをつくしての、まさに真剣勝負に突入する。
 今回の作り手の熱意あふれるアクションシーンも三度めです。なんという濃さ。アクションファンはお腹いっぱいです、ありがとうありがとう。零も猪狩さんもたいへんだったでしょう、とここで妙に冷静なことを考えてみたり。
 ただ、この生身でのアクションがあまりに充実していたせいで、ちょっとばかり後でしわ寄せが。
 零の取り落としたソウルメタルの剣すらも持ち上げ、我が物として使いこなす猪狩。その執念に「あんたなら、魔戒騎士にだってなれたろうに」と惜しむ零。うん、零は惜しんだんだと思う。猪狩の実力、熱意、その向かう先がもっと何かしら実りのあるものだったらよかったのに。…これほどの男を手にかけずに済んだのに。でも、猪狩はある意味あまりに純粋過ぎた。意味とか理由とか、そんなものを己の欲求につけるのをよしとしなかった。
 甲冑の男と戦う。猪狩の宿願は零を得てついに実現する。
 ここで猪狩はホラー体になり、零もまた鎧を召喚して猪狩に挑む。んだ、けど。
 どうしてもこー。ホラーの着ぐるみってもっさりするじゃないですか。だもんで、今までの切れのいい戦いが一気にスピードダウンな感じになっちゃうんですよね…。まー、第一シリーズに比べたら、牙狼も絶狼も着ぐるみの稼動部は増えたそうなんだけど。その辺は制作側もわかっているようで、変身後の戦いはわりとあっさりケリがつく。
 零にとどめをさされ、ホラーの姿から人間体に戻った猪狩は満足そうだった。「お前ほど強い男は他にはいまい」。俺は望んだもっとも強い男と存分に戦ったのだ。そう信じているだろう猪狩に、零は苦い思いで告げる。他にも強い男はいる、金の甲冑を着た男だと。
 猪狩のためにうそをつけたらよかったんだろう。でも、鋼牙の強さを知っている零は、きっと自分を偽ることができなかった。それを聞いた猪狩はどう思ったか。勘違いを悔やんだのか。
 それはなかったんたろうと思いたい。彼の修行を共にした剣を零に託したのだから。仮に己の対峙した相手が最も強い男でなかったとしても、強さを求める気持ちを同じくする男と戦えて満足だった、そう思いたい。
 猪狩との戦いを終え、零の胸にふと鋼牙と雌雄を決したいという思いがよぎる。けれどもそれも、破滅の刻印がもたらす痛みにかき消され…。


 いやもー、男の夢というか願望というかなんというかが全開な話だったかなー、と。
 で、猪狩に共感しつつ全力で戦うって役割は、やっぱ鋼牙でなく零でなきゃ勤まらなかったなあと。
 好きとか嫌いとかは関係なく、むしろ尊敬しているから本気で戦ってみたい。そういう感情を匂わすことが許されるのは、零だろうなあと。
 ふつーの男たちも、もし許されるなら、見合う力があるのなら、「強い男に会いに行く」、そんな生き方がしたいのかもなあ。
 女にとっちゃ、メーワクな話だけども(^^;)。

▲ Go To Top

【第一TVシリーズ】

【スペシャル】

白夜の魔獣

【映画】

〜RED REQUIEM〜

【第二TVシリーズ】

【OVA】

呀<KIBA>〜暗黒騎士鎧伝〜