TVアニメ化決定! 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ

宝島社 特設サイト

更新情報

2014.10.18
特設サイトオープン
2014.10.18
北宇治吹部だより「第1回 北宇治高校吹奏楽部の日常」を掲載しました。

次回予定

2014.11.1
北宇治吹部だより第2回掲載
2014.12.28
アニメ化進行情報続報発表

あらすじ

北宇治高校吹奏楽部は、過去には全国大会に出場したこともある強豪校だったが、顧問が変わってからは関西大会にも進めていない。しかし、新しく赴任した滝昇の厳しい指導のもと、生徒たちは着実に力をつけていった。実際はソロを巡っての争いや、勉強を優先し部活を辞める生徒も出てくるなど、波瀾万丈の毎日。そんななか、いよいよコンクールの日がやってくる――。少女たちの心の成長を描いた青春エンタメ小説。

本気になるって、いいよね!
授業だけでは得られない、吹部女子たちの心の成長を描いた感動ストーリー!すべての音が、今、ひとつになる――。

第1巻を購入する

キャラクター紹介

黄前 久美子 おうまえ くみこ

担当楽器:ユーフォニアム

北宇治高校一年生

  • 身長 162cm
  • 誕生日 8月21日
  • 星座 獅子座
  • 血液型 A型
  • 好きなもの 卵料理、洋菓子。大好物はオムライスとショートケーキ。
  • 嫌いなもの 虫!特にトビケラ!

高坂 麗奈 こうさか れいな

担当楽器:トランペット

北宇治高校一年生

  • 身長 158cm
  • 誕生日 5月15日
  • 星座 おうし座
  • 血液型 O型
  • 好きなもの パスタ、柑橘系のジュース
  • 嫌いなもの 納豆

塚本 秀一 つかもと しゅういち

担当楽器:トロンボーン

北宇治高校一年生

  • 身長 181cm
  • 誕生日 9月18日
  • 星座 乙女座
  • 血液型 A型
  • 好きなもの 冷奴、スナック菓子、揚げもの
  • 嫌いなもの トマト(ケチャップは平気)

加藤 葉月 かとう はづき

担当楽器:チューバ

北宇治高校一年生

  • 身長 155cm
  • 誕生日 2月13日
  • 星座 水瓶座
  • 血液型 A型
  • 好きなもの 菓子
  • 嫌いなもの 野菜

川島 緑輝 かわしま さふぁいあ

担当楽器:コントラバス

北宇治高校一年生

  • 身長 148cm
  • 誕生日 11月3日
  • 星座 さそり座
  • 血液型 B型
  • 好きなもの 甘いもの、可愛いもの全部。爬虫類が大好き、ペットはイグアナ(名前はマカロン)。
  • 嫌いなもの 苦いもの、可愛くないもの。パソコン(操作方法が分からないから)

田中 あすか たなか あすか

担当楽器:ユーフォニアム

北宇治高校三年生
低音パートリーダー兼副部長
ユーフォニアムはマイ楽器。
父親が趣味でユーフォを吹いていて、それを譲り受けた。

  • 身長 171cm
  • 誕生日 12月25日(誕生日ケーキとクリスマスケーキが一緒にされる)
  • 星座 山羊座
  • 血液型 AB型
  • 好きなもの 猫、コーヒー、ビターチョコ、使える人
  • 嫌いなもの 犬、ココア、ミルクチョコ、使えない人

アニメ化新着情報

Coming soon! 2014年12月28日 続報発表準備中!!

定期更新 北宇治吹部だより 隔週更新予定(月2回)

北宇治高校吹奏楽部のメンバーが贈る、とっておきのショートストーリーを隔週連載。
第1巻&アニメでは描かれないキャラクターたちの日常をお届け!

2014.10.18第1回 北宇治高校吹奏楽部の日常

ユーフォニューム(Euphonium)
金管楽器の一種。ピストン・バルブの装備された変ロ調のチューバを指す。
低音部が広く、しかもやわらかい音を出すため愛用される。     ブリタニカ国際大百科事典

 電子辞書を指先で弄びながら、久美子は液晶画面を覗き込んだ。その足元には先端を床に突き立てるようにして、金色の管楽器が置かれている。通称ユーフォと呼ばれるこの金管楽器のフルネームは、ユーフォニアムだったりユーフォニウムだったりと様々な説がある。果たしてどちらが正しいのだろう。そうふと疑問に思って辞書を引けば、なんとユーフォニュームと書かれている。まさかの第三候補の登場に、久美子は思わず溜息を吐いた。一体どれが正解なのだろう。
「休憩時間やのになんで辞書なんていじくってんの?」
 不意に視界に陰が広がる。振り返ると、葉月が少し呆れたようにこちらを覗き込んでいた。久美子は音もなく辞書を閉じると、向き合うように彼女の方へと身体を向ける。セーラー服のスカートから覗く膝小僧が、柔らかに葉月の脚とぶつかった。
「いや、ユーフォの正式名称が気になって」
「あー、例のUFOな。はいはい」
「だから、UFOじゃなくてユーフォだってば」
 そんな言葉を返しながら、久美子は葉月の手に支えられたチューバを一瞥する。久美子の担当しているユーフォニアムをそのまま拡大したかのようなこの楽器は、金管楽器最大のサイズを誇る。かなりの肺活量を要する楽器のため、初心者である葉月にはなかなかに難しいかもしれない。そんなことを考えながら、久美子は窓の外へと視線を遣った。
 久美子が進学した京都府立北宇治高校は、かつては吹奏楽部の強豪校だった。関西大会の常連校で、全国大会にだって出場したことがある。しかし当時の顧問が別の学校に移ったことで吹奏楽部は一気に弱体化し、ここ十年の間は大した結果を残せていなかった。
 中学時代から吹奏楽部に入っていた久美子であるが、別に吹奏楽部をやるためにこの高校に進学したというわけではない。そもそも、久美子はこの学校が昔は強豪校であったことなどこれっぽっちも知らなかった。高校生になったら他の部に入って、新しいことを始めてもいいかもしれない。そんな風にも考えていたのだが、同じクラスになった葉月達の勢いに押され、いつの間にか再び吹奏楽部に入ることになっていたのだ。
「わー、なんか面白そうな話してる! 緑も入れてー!」
 随分とけたたましい声で会話に乱入してきたのは、くるんと跳ねる猫っ毛が愛らしい緑輝だった。ちなみに、緑輝と書いてサファイアと読む。彼女は自分の名前が嫌いらしく、他人に自身のことを緑と呼ばせている。超強豪校である聖女中等学園出身の彼女の担当楽器は、バイオリンを何倍にも大きくしたような弦楽器、コントラバスである。
「別に面白くはないけどね?」
 久美子が曖昧な微笑を浮かべると、緑輝はコントラバスの弓を片手に、拗ねるように唇を尖らせた。
「せっかくのパート練習やのに、今日は先輩達がいはらんくて退屈やねんもん。休憩時間ぐらい一緒に喋ろうよー」
「先輩らは何か会議やってはるらしいしなー」
 緑輝の言葉に同意を示すように、葉月は何度か首を縦に振った。
 パート練習とはその名の通り、少人数のパートに分かれて練習することを指す。トランペット、サックス、フルート……など、基本的には担当している楽器ごとにパート分けされるのだが、チューバ・ユーフォ・コントラバスはそれぞれ楽器が異なっているものの、人数が少ないせいか低音パートという一つのパートとして扱われている。
「それにしても葉月ちゃん! 吹き始めてもう三日ぐらい経つけど、楽器には慣れた?」
「いやあ、それがなかなか難しいな。まずうまいこと出したい音を出せへんし」
 緑輝の問いに、葉月が少し照れたように返答する。うっすらと日に焼けた彼女の肌が、仄かに朱に染まるのが見えた。久美子は床に置かれたチューバへと、視線を投げ掛ける。学校の所持品であるチューバはなかなかに年季を感じさせる見た目をしていた。その表面には、いくつもの軽い凹みが残っている。
「最初は難しいもん、仕方ないんちゃうかなあ」
 そう言って、緑輝はにっこりと笑って見せる。しかしその答えが葉月は気に入らなかったらしい。彼女の眉間に僅かに皺が寄る。
「でもさ、久美子とかめっちゃ簡単そうに吹くやんか」
「慣れだよ慣れ。葉月も来週辺りにはスラスラ吹けるようになってるんじゃない?」
「えー、ほんまかなあ」
 葉月が胡散臭そうにこちらを見た。その指が、銀色のマウスピースを静かに引き抜く。
「大体さあ、なんやコイツ。ラッパって普通息吹き込んだら音出るもんちゃうん? リコーダーみたいにさあ」
「確かに、緑も金管はさっぱり吹けへんなあ。あのブルブルが難しいねんなあ」
「緑も難しいと思うやろ? やっぱさ、そもそもが難しすぎんのよ」
 うんうんと頷き合う二人に、久美子は思わず苦笑する。
「金管は唇の振動を通じて音を出すから、リコーダーとは全然勝手が違うんだよね。慣れないと音出ないし、私も最初は音出なかったよ」
「ほんま?」
「ほんとほんと」
 そう久美子が言葉を発した直後、スライド式の扉が勢いよく開かれた。バシン、と騒々しい音が響く。三人の視線が一気に音の方向へと注がれた。
「どうやらお悩みのようですね!」
 そう颯爽と登場したのは、我が低音パートのパートリーダーである田中あすかだった。長い黒髪が動きに合わせてさらりと揺れる。赤フレームの眼鏡を指先でクイと持ち上げ、彼女はどこか得意げな顔つきでこちらへと歩み寄ってきた。
「一年生諸君、もし悩みがあればこの田中あすかがなんでも教えてあげましょう!」
 そう誇らしげに宣言し、彼女はずいっと顔を近付けた。その距離の近さに、頬が自然と蒸気する。長い睫毛に縁どられた夜色の瞳。滑らかな白い肌に、艶めいた唇。レンズ越しにでも、溢れんばかりの彼女の美貌は確かに伝わってくる。
 あすかの薄桃色の唇が、大きく動いた。
「もしも聞きたいことがないというならば、これからユーフォニアムの楽器の成り立ちを講演してもいいですけど! 二時間くらい!」
 その言葉に、久美子達は一斉に首を横に振った。吹奏楽オタクのあすかは話し出すと止まらないのだ。
「あー……、二時間はいいです」
 葉月がややげんなりした顔で応える。その隣で、緑輝が無邪気に告げた。
「先輩、久美子ちゃんが聞きたいことがあるみたいです」
「えっ、私?」
 突然の指名に、久美子は思わず飛び上がった。緑輝があすかには見えないよう、人差し指をこっそりと電子辞書へと向ける。そこでようやく彼女の意図を掴み、久美子はあすかが口を開く前に慌てて言葉を発した。
「あの、くだらないことなんですけど、さっきユーフォの正式名称ってユーフォニアムなのか、ユーフォニュームなのか、それともユーフォニウムなのかどれなんだろうって話をしてて……」
「そんなん発音の問題なんやからなんでもいい! 重要なのはその名前の意味!」
「は、はあ。意味ですか?」
「そう。楽器にはきちんと名前の由来ってもんがあるわけよ。例えばこのユーフォ、」
 あすかはそこで床に置きっぱなしの楽器を指差した。金色の表面に、彼女の顔が映し出される。
「もともとこの楽器の名前の由来はギリシア語のeuphonos、『いい響き』に由来してるって言われてる。その名前の通り、めっちゃ深い響きやろ? もう聞けば聞くほどユーフォ最高って感じちゃう?」
「確かにユーフォってすっごい音が響きますもんね」
 感心しているのか、緑輝が素直に頷いている。その隣で、葉月が不思議そうに首を捻った。
「ユーフォがいい響きって意味だったら、チューバはどういう意味があるんです?」
「ん? あれはラテン語で『管』って意味」
「くだ?」
「えっ、そのまんますぎません?」
 緑輝と葉月が思い思いの言葉を口にする。あすかがその口端を釣り上げた。
「そもそも『チューバ』って言葉が今のチューバのことを指すようになったのは最近やからね。古代ギリシャ・ローマの時代やと青銅製の管楽器の名前としても用いられてたし、その後は『ラッパ』全般を指す言葉として使われるようになった。発明者のモーリツは、ラッパの低音楽器だという意味で 『バス・チューバ』と命名したってわけよ」
「ひえー、先輩詳しいですね」
 葉月の台詞に気を良くしたのか、あすかがその目を弧に細める。
「もっと詳しく聞きたいなら語ってあげるけど?」
「あ、それは結構です」
「うわー、葉月ちゃん真顔だー」
 緑輝が茶化すように言う。久美子は時計をちらりと一瞥すると、それから小さく首を捻った。
「というか、先輩なんでこんなところにいるんですか? 今って会議の時間じゃ」
 その問いに、あすかは軽く肩を竦めて見せた。胸元の白いリボンがちらりと揺れる。
「初心者の一年生がいるパートは三年が教えることになってな。葉月ちゃんまだまだ吹けへんやろうし、ちょびっと手助けに来たってわけ」
 というわけで、と彼女は言葉を続けた。
「休憩時間もそろそろ終わりやし、これから基礎練習に入ります。解説多めになるから経験者の緑ちゃんと久美子ちゃんは退屈に感じるかもしれんけど、まあしっかりやってな」
「はい」
「それじゃ、楽器構えて」
 あすかの指示に、三人はあわてて動き出す。久美子は立て掛けてあったユーフォニアムを膝に乗せると、それからマウスピースを通じて管の中に息を吹き込んだ。ピストンに指を乗せ、軽く動かしてみる。
「まずはロングトーンをやります。楽譜通り一音ずつあげていってや」
 そう言って、あすかが拍子に合わせて手を叩き始める。白い手のひらが打ち合う度に、パチパチと乾いた音が響く。
「一、二、三、四、」
 久美子は大きく息を吸い込むと、楽器へ鋭く吹き込んだ。マウスピースに唇を触れさせたまま、細かに振動させる。低音が管を通じてベルから吐き出される。それを八拍ずつ伸ばし、次の音へと移していく。音は徐々に高いものへと変化していき、あまりにも高音になると上手く音を出すことすら出来ない。限界の音域に達すると、再び音を下げていく。
 初心者である葉月は何度か音を外していた。金管楽器はピストンを押すだけでは狙った音は出ない。三本しかないピストンで全ての音階を区別するのが不可能だからだ。そのため、同じ指のまま唇の形や息の吹き込み方で違う音を出さなければならなくなる。言葉で聞くだけでは簡単に聞こえるのだが、実際にやってみるとこれがなかなか難しいのである。
「先輩―、高いドが何度やってもソになります」
「それは腹筋で支えきれてないからやと思うよ。音伸ばしてみ」
 その指示に従い、葉月は素直に音を発する。端々が掠れかかっているのは彼女がまだ不慣れだからだろう。指導を受ける様子を見守りながら、久美子はそっと目を伏せる。自分が始めて楽器を始めたときも同じようなものだった。思ったとおりに吹けなくて、不機嫌になったことを覚えている。だけどいつの間にか吹けるのが当たり前になっていて、あの時に感じたもどかしさや焦りは随分と遠いものになってしまった。
 チューバから吐き出される音が、徐々に安定したものへと変化していく。どっしりとした低音が教室の机をビリビリと震わせた。待っているだけでは退屈なので、久美子は脳内でB♭の音を思い描いてみる。一番美しい音。理想的な音はどれか。それに自分の音が少しでも近づくよう、意識しながら吹いてみる。そうするとただ音を伸ばすだけのロングトーンも、なかなかに楽しくなってくる。
「オッケー。じゃあ葉月ちゃんも慣れてきたみたいやし、簡単な曲吹いてみようか。『きらきら星』やろう」
 そう言ってあすかがコツンと机を叩く。葉月は目を見開き、それから頬をうっすらと赤らめた。その指先が楽譜ファイルをいそいそと捲り、基礎練習用のページを開く。
「うち、曲吹くの初めてです」
「ずっと音出すのに四苦八苦してたもんね」
 緑輝がニコニコと葉月に笑いかけた。久美子は自身の手元にあるファイルへと視線を落としてみる。シンプルなこの楽譜は、北宇治高校で代々基礎練習に使われているものだ。難易度がかなり低いため、演奏に慣れてくると物足りなさを感じる。
「じゃ、三人で合わせんで」
 そう言って、あすかの手が再び拍子を刻み始める。彼女の声に合わせ、久美子達は演奏を始めた。チューバ、ユーフォ、コントラバス。三つの音が重なったり離れたりを繰り返す。あまりの退屈さに欠伸が出そうだけれども、久美子は楽譜を視線で追う。ゆったりとしたテンポでメロディーが進み、そしてあっという間に終わりを迎える。基礎練習用だけあって、短めに作られているのだ。
「おおー、みんなで吹くのってめっちゃ楽しいね」
 吹き終えてから、葉月がやや興奮した様子で言った。その瞳は興奮した様子でキラキラと輝いている。
「よかったね、葉月ちゃん」
 緑輝が弓を持ったままパチパチと手を打ち鳴らした。小柄な彼女の手は久美子のそれよりずっと華奢な造りをしている。久美子はそっと息を吐き出すと、葉月から思わず視線を逸した。
 初めての合奏は、確か自分もあんな風に感じていたような気がする。小学生の時は吹いているだけで楽しくて。みんなで一つの音楽を作る、それだけで満足出来ていた。だけど中学生になって、吹奏楽が楽しいだけのものではないことを知った。

 アンタは悔しくないわけ?

 脳内で、あの日の友人の台詞が蘇る。高坂麗奈。彼女のあの眩いほどの真っ直ぐな視線が、久美子の心臓を何度も貫く。瞼の裏に浮かぶ記憶。中学校生活最後のコンクール。懐かしい学校名の横に刻まれた、『金賞』の二文字。
 吹奏楽コンクールに詳しくない人には、金賞という言葉がなんとも素晴らしいものに思えるかもしれない。銀賞銅賞ですら立派なものに聞こえるだろう。しかし、吹奏楽部員達にとっては、それらの言葉が持つ意味は全く異なっている。
 吹奏楽コンクールでは、それぞれの大会ですべての学校が金、銀、銅の三つに分けられる。次の大会に進めるのは金賞を取った学校の内の、そのまたひと握りの学校だけしかない。次の大会へと進めないただの金賞は、ダメ金と呼ばれる。久美子達が通う中学も全国大会進出を目標に掲げながら、結局ダメ金止まりだった。
 あの時、久美子はほっとした。金賞を取れたならまあいいか。そんなことを考えた。それを見透かしたような麗奈の台詞に、久美子はギクリとさせられたのだ。まるで詰られているように感じて、何だかひどく息苦しく思ったのを今でもはっきりと覚えている。
「でも、久美子みたいにスラスラーっていろんな曲吹けたら、めっちゃ楽しいんやろうな」
 突如出された自身の名に、久美子はハッとして我に返った。見遣ると、葉月が羨ましげな顔をしてこちらを見ている。うん、楽しいよ。そう言い掛けて、久美子はしかし口を閉じた。何故だか声が喉に詰まった。
 あすかが唇を弧に歪める。
「そのためにはいっぱい練習せんとね、夏にはコンクールもあるし」
「おお! コンクールですか」
「緑、全国行けるよう頑張ります!」
 緑輝がそう言って天に腕を突き上げる。その小動物のようなくりくりとした瞳がこちらへと向けられた。視線と視線が交わる。一瞬、久美子は息を呑んだ。こちらの心情を汲み取ったのか、緑輝はニッと白い歯を覗かせると、久美子の方へと手をぶんぶんと振ってみせた。
「久美子ちゃんも頑張ろうね。どうせやるなら本気でやりたいし」
「あ、うん」
 彼女の勢いに圧されたように、久美子は思わず首を縦に振る。脳裏で麗奈の姿が一瞬だけちらついた。それを掻き消すように、久美子ははっきりと言葉を紡ぐ。
「私も、頑張りたいとは思ってるよ」
 その台詞に、あすかが満足げな笑みを浮かべる。長い睫毛がレンズ越しに大きく上下したのが見えた。その腕の中にあるユーフォニアムが、蛍光灯の光を浴びて無邪気に輝いている。
「今年のコンクールはどうなるか楽しみやね」
 彼女の言葉に、久美子は思わず自身のユーフォニアムを抱き締めた。期待と不安を綯交ぜにしたような感情が、胸の奥でぐるぐると渦を巻いている。それを誤魔化すように、久美子は大きく息を吸い込んだ。
 不安がっていても仕方ない。高校生活は、まだ始まったばかりなのだから。
「先輩! もう一回きらきら星吹きたいです!」
 久美子の正面に座っていた葉月が、勢いよく手を上げる。それに釣られるように、久美子もまた手を上げた。
「わ、私も吹きたいです」
「緑も吹きたーい」
 あすかは一年生の顔をぐるりと見回すと、それから仰々しく腕を組んで見せた。その口端がニヤリと持ち上がる。
「その意気や良し。それじゃ、もう一回やってみよな」
「はい!」
 久美子は慌てて楽器を構える。金色のユーフォニアムに、自身の顔が映りこんだ。それが何故だかくすぐったくて、久美子はマウスピースへと唇を押し付ける。ベルは一度大きく震え、それから柔らかな音を紡ぎ出した。

著者プロフィール

武田 綾乃 (たけだ あやの)
1992年、京都府生まれ。京都府在住。現在は京都府内の大学に通う大学生。第8回日本ラブストーリー大賞 隠し玉作品『今日、きみと息をする。』(宝島社文庫)でデビュー。

他の作品 『今日、きみと息をする。』

第1巻を購入する