2015年1月からの相続増税までに、負担を軽減するための手を打っておきたい――。そう考える方は多いでしょう。限られた時間でもできそうな対策の一つが夫婦や親子間で資産を移動することです。贈与税や相続税が非課税になったり、不動産の評価が8割も下げられる特例があったりして魅力的に見えますが、メリットの陰にはデメリットも潜んでいるので注意が必要です。
■「夫婦間贈与がベスト」は早計
夫婦のどちらかが先に亡くなるときに備え、夫の財産を妻に、あるいは妻の財産を夫に移動しておくと税が優遇されます。例えば籍を入れて20年以上の夫婦間では1000万円単位の資産を贈与しても、一定の条件を満たせば非課税になります。配偶者が相続する際も、1億6000万円または法定相続分相当額までは非課税になる特別ルールがあるのです。こうした面だけ見れば、前回10月3日付「迫る相続増税 節税焦って失敗しないための注意点」で取り上げた子や孫への生前贈与よりも「残される妻か夫がたくさんもらうのがいちばん手っ取り早く節税効果の高い相続対策じゃないか」と思いがちです。一般的な家庭であれば、配偶者が相続する資産は1億6000万円の非課税枠の範囲で収まることも多いはずです。
しかし2013年8月30日付「夫婦間の不動産贈与、相続対策なら後からツケも」などで指摘したように、贈与時は非課税でも名義変更にかかるコストが高くついてしまうことがあります。さらに、やり方を間違えればその相手が亡くなった際には3年以内に贈与されたものは遺産に含めて相続税の対象になりますから、相続対策として必ず有効とは限りません。
また夫婦間で横移動した財産も、いずれ子や孫に縦移動の形で相続するときが来ます。長いスパンで見れば課税が発生するタイミングを先送りにしているにすぎないのです。
いったん夫婦間で資産移動しておき、配偶者や子、孫の世代に相続するときにもできるだけ負担がかからないよう速やかにマスタープランを練るならいいでしょう。しかし「とりあえず14年中に間に合わせるため」「いますぐ負担にならないことが最優先」という安易な考えでは、後々高くつくことも覚悟しておかなければいけません。