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【国際】

全ての子どもたちのために 平和賞マララさんスピーチ詳報

 ノーベル平和賞受賞が決まったマララ・ユスフザイさんが今月十日、英バーミンガムで行ったスピーチの詳報は次の通り。 

 ノーベル賞受賞者に選ばれて光栄です。この尊い賞、ノーベル平和賞を名誉に思います。最初のパキスタン人、最初の若い女性、最初の若者として受賞者となることを誇りに思います。私にとって非常な名誉です。

 そして、この賞をインドのカイラシュ・サトヤルティさんと分かち合えて本当に幸せです。奴隷のような児童労働と闘い、子どもの権利を求める彼の素晴らしい活動に刺激を受けます。

 子どもの権利のために多くの人々が取り組んでいて、私が一人ではないことは、本当に幸せです。彼は本当にこの賞にふさわしい方です。彼とこの賞を分かち合えることを名誉に思います。

 ノーベル賞を頂く私たち二人は、一人がパキスタン、もう一人がインドの出身です。そして一人はヒンズー教、もう一人はイスラム教をあつく信仰しています。これは人々に愛のメッセージとなって届くでしょう。パキスタンとインド、異なる宗教の間で、私たちは支え合っています。

 肌の色や話す言語、信じる宗教は関係ありません。互いを人間として尊重し合うべきです。そして、私たちは自分の権利、子どもの権利、女性の権利、全ての人の権利のために闘う必要があります。

 最初に、私を愛し、支えてくれる家族、親愛なる父母に感謝したいと思います。父がいつも言うように、父は何か特別なものを与えてくれたわけではありませんが、父がしてくれたのは、私の翼を切らなかったことでした。

 ありがたいことに、父は翼を切るのではなく、私を羽ばたかせて目標を達成させてくれました。女の子でも奴隷になるのが当然ではなく、人生を前進する力を持てる世界があることを教えてくれました。

 女性は母親や姉や妹、そして妻であるだけではなく、自己を確立し、自分の人生を進むべきです。女の子は、男の子と同じ権利を持っています。たとえ、私の弟たちが、私がとてもよく扱われているのに、自分たちはそうではないと思ったとしても、それでもいいと思います。

 私がノーベル平和賞に決まったと、どうやって知ったか話したいと思います。

 とても面白いことに、当時、私は化学の授業で陽極と陰極の電気分解の勉強をしていました。時間は十時十五分だったと思います。ノーベル平和賞の発表はもう終わっている時間でした。まさか自分が受賞するとは思っていませんでした。十時十五分になったとき、受賞できなかったと確信していました。

 すると突然、先生の一人が教室に入ってきて私を呼び、「大切なお話があります」と言うのです。彼女から「おめでとう。ノーベル平和賞に決まったわ。子どもの権利のために働いている偉大な人と一緒にね」と言われ、本当に驚きました。

 感情を表現するのは時々とても難しいものですが、とにかく本当に名誉に感じました。自分がより力強く、より勇敢になったように感じました。なぜなら、この賞は身に着けたり、部屋に飾ったりするための金属片やメダルではないからです。

 この賞は、私が前進するため、自分に自信を持つため、私の活動を支えてくれる人たちがいることを知るための励みとなるのです。私たちは団結しています。私たちは、全ての子どもが良い教育を受けられることを確実にしたい。だから、この賞は私にとって本当に素晴らしいものなのです。

 でも、ノーベル平和賞受賞が分かったとき、学校を早退しないと決めました。むしろ、授業を終えようと。物理の授業に行き、学びました。英語の授業に行きました。全くいつも通りの一日でした。

 先生や同級生の反応はとてもうれしかったです。みんなが私のことを誇りに思うと言ってくれて、本当に幸せでした。私を愛し、支えてくれる学校、先生、同級生に心から感謝します。みんなに励まされ、助けられていて、本当に幸せです。

 みんなからの支えが試験に影響するわけではありません。それは自分の頑張り次第ですから。それでも、みんなに支えられていることが、私はうれしい。

 受賞(の決定)が、終わりではありません。私の運動の終わりではなく、ここからが始まりだと思います。全ての子どもたちに学校へ行ってほしい。いまだに五千七百万人もの子どもたちが教育を受けられず、小学校にすら通えていません。全ての子どもに学校へ行って、教育を受けてもらいたいです。

 私自身、(パキスタンの)スワト渓谷で同じ境遇でした。ご存じでしょうが、そこはタリバンの支配下にあり、学校に行くことが許されていませんでした。当時、私は自分の権利のために立ち上がり、声を上げると言いました。ほかの誰か(がどうにかしてくれるの)を待つことなく、自分が声を上げようと決めました。

 そこには、二つの選択肢がありました。沈黙したまま殺されるのを待つか、声を上げて殺されるか。私は後者を選びました。当時はテロの恐怖があり、女性は家の外に出ることが許されず、女子教育は完全に禁じられ、そして人々は殺されていました。

 私は学校に戻りたかった。だから、声を上げなければならなかったのです。私も教育を受けられない女の子の一人でしたが、学びたかったのです。勉強をして、将来の夢を実現したかったのです。

 普通の子どもと同じように、私にも夢がありました。あのころ、私は医者になりたいと思っていました。でも、今は政治家になりたいです。それも、良い政治家に。

 学校に行けないと聞いたとき、もう医者にはなれないと思いました。将来なりたいものになれることはなくなると。十三歳か十四歳で結婚するような人生を送るのだろうと。学校にも行けず、本当になりたいものにもなれず。だから、声を上げようと決めたのです。

 自分の経験を通じて、自分たちの権利のために立ち上がるべきだと、世界中の子どもたちに伝えたいです。ほかの誰かを待つべきではない。子どもたちの声はより力強い。弱く見えるかもしれないけれど、誰も声を上げない時に声を上げれば、その声はずっと大きく響き、みんなが耳を傾けざるを得なくなるのです。

 私のメッセージはこうです。世界の子どもたちよ、権利のために立ち上がれ。

 私がもらったのはノーベル平和賞ですが、ノーベル賞委員会が私にだけくれるわけではありません。この賞は、声なき全ての子どもたちのためのものです。子どもたちの声を聞かなければならないのです。私は子どもたちのために語り、子どもたちと共に立ち上がり、自分たちの声を届けようという彼らの運動に加わります。

 世界は子どもたちの声に耳を傾けなければなりません。子どもたちには権利があります。良質な教育を受け、児童労働から解き放たれ、人身売買の被害に遭わない権利が。幸せな人生を送る権利があるのです。だから私はこうした子どもたちと共に立ち上がります。今回の賞はほかでもない、子どもたちのためのものです。勇気を与えるものなのです。

 最後に、尊敬するカイラシュさんと電話でお話ししたことをお伝えします。名字を正確に発音できなくてごめんなさい。よろしければカイラシュさんとお呼びします。

 たった今電話で、全ての子どもが学校に通い、良質な教育を受けることがいかに大切か、話し合いました。また、子どもたちがどれほど多くの苦難に遭い、世間から知られていないか、についてもです。こうした問題に取り組み、子どもたちが良質な教育を受け、こうした苦難に遭わなくてもいいよう、二人で一緒に行動しようと決めました。

 それから、カイラシュさんがインド出身、そして私がパキスタン出身ということで、両国の強い関係を築こうと努力していくことも決めました。

 ご存じの通り、両国の国境は緊迫し、状況は実に残念な方向へと進んでいます。私たちはインド、パキスタンの関係が良好であってほしいのです。緊張状態にあるのは本当に残念で、悲しいことです。

 両国には対話をし、和平について話し合い、発展について考え、開発を進めていってほしいと思うからです。戦いではなく、教育や開発、発展に専念することが重要です。それがお互いにとって良いことなのです。

 ですから、二人で決めました。カイラシュさんには、インドのモディ首相に十二月のノーベル平和賞授賞式に出席するようお願いしていただきます。そして、私もパキスタンのシャリフ首相に出席をお願いすると約束しました。

 私からも両首相に、共に参加していただくようお願いします。私は心から平和を信じています。寛容と忍耐(の力)を信じています。両国が発展するためには平和で良好な関係が何より重要です。それが、両国が成功し、発展するための道筋です。謹んでお願いします。どうか、二人の耳に届き、二人が耳を傾けてくれますように。

 最後に、皆さまの支援に心から感謝しています。私は自分がノーベル賞に値するとは思わないと言ってきました。今もそう思っています。

 でも、この賞は、これまで私がやってきたことに対するものだけではありません。活動を前に進め、継続できるよう希望と勇気を与えてくれるものでもあります。何百人、何千人、何百万人もの人に私は支えられ、私は自分を信じることができ、たった一人ではないことを知ることができました。

 あらためて、皆さまにお礼を申し上げます。 (ロンドン・共同)

 お断り マララさん演説の公式英文テキストは公表されておらず、数人の英米人の聞き取りに基づき非公式のテキストを作成、ほぼ全訳しました。省略した部分などもあり、演説詳報は英文テキストの完全な対訳にはなっていません。

 

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