殺意の波動、と君が言った - 『ストリートファイター 暗殺拳』
ストリートファイター 暗殺拳
STREET FIGHTER: ASSASSIN'S FIST
2014(2014)/イギリス 監督/ジョーイ・アンサー 製作総指揮/小野義徳/伊川東吾/他 出演/マイク・モー/クリスチャン・ハワード/小家山晃/伊川東吾/尚玄/ガク・スペース/ジョーイ・アンサー/玄里/ハル・ヤマノウチ/他
弊ブログに於いて、1年に数回ほど、まあ、2~3回もあれば御の字なのだが、情念を込め数回に分けて感想を書くか、font size="7"で「いいからとりあえず観ろ!」とだけ書いて済ませるかの二択を迫られるような映画に出会う事があって……ああ、『フランケンシュタイン・リポート』なんかは自分以外の人間も地獄に道連れにしたいという意味で「イーカラトリアエズミロ」と書きたくて書きたくてたまらない指の疼きを抑えるのに必死こいたものだったのだけれども、そんな文意とは真逆なところで、本当に自分が面白かったから推したくてたまらず感想を数回に分けるか、何も言わんと観て欲しい旨だけ書いて終わらせるか、そんな二択を迫られる映画と幸福な邂逅を果たした。
『ストリートファイター』の映画化、と聞いてまず、何を思い浮かべるだろうか。
チャールズ・ブロンソンの『ストリートファイター』を思い浮かべるあなたは幸福である。『ストⅡ』世代の映像化に於ける忍耐と苦渋の歴史とは無縁で居られたのであるから。
劇場版アニメ『ストリートファイターII MOVIE』は立派であった。だが、後が続かなかった。TVアニメ『ストリートファイターⅡV』に純情を踏み躙られ、ヴァン・ダムのアレに心を引き裂かれ、何か春麗と元が出てくるアレには顔面に向かって屁をひられ、いやこんな怨み節ばかりでも話が進まないのでもう止めるが、重度の格ゲーオタクであるとのジョーイ・アンサーが此度フェイク予告編からクラウドファンディングで完成させ、CAPCOMのお墨付きまでもろうたという『ストリートファイター 暗殺拳』に、私はストリートファイター映像作品の明日を見たのである。
今までのストリートファイター映像化では一番金はかかっていないが、一番面白い。
これは話のベースが『ストⅡ』ではなく『ストリートファイターⅣ』であるから、という同時代性もあろうし、何よりも資金やロケーションが限定されている中で、「無の波動」「殺意の波動」に絡んだキャラのみ描き込んで掘り下げる、てな潔さも勝因のひとつであり、必然的に胴着キャラばかりに焦点が当たる事になるのでちょっとした武侠・カンフー・カラテ映画のような趣に舵をとった判断も見事の一言。すべての発祥の地が和歌山県だったというNIPPON感覚もまた良し。
しかし、ゲームのファン向けに最適化したトリビアルな面白さと、数々のディテールがやはり一番敏感なツボを押してくるのだ。
滅・波動拳に閃空剛衝波などストⅣからの追加技も勿論の事、波動拳・昇竜拳・竜巻旋風脚にそれぞれドラマというかアクションの表情があり、「殺意の波動の頂点の瞬獄殺は神話ではない!」というアツい台詞を若かりしころの豪鬼が絶叫、のち、ゲームそのままに「一瞬千撃!」と叫びながら瞬獄殺を放つなど、「必殺技」が格闘シーンや脚本から浮いていない。この浮き具合が今までのストシリーズのみならず格ゲー原作映画を悩ませてきた鬼門で、本作の組手や演舞の自然さを見ればどれだけ製作陣が「漫画」にしないように苦心したか察するに余りある。まあ、リュウ役の人に関しては少々もにょってしまうが、ケンを演じたクリスチャン・ハワードという人はイケメン・マッチョ・アクションこなせる、というまさにゲームのケンがそのまま抜け出てきたようなハマりっぷり。この人のかっこいいアクションとアメリカンなラフさは一見の価値があります。
キーパーソンとなる豪鬼の姿も不自然さがさほどなく、ゲームの海外盤では豪鬼は「AKUMA」という名前になっているのだがその由来も語られ、「天」「滅」の由来、数珠の由来、数々のゲームの設定の由来までおまけに語ってくれる。それが説明に終始せず、脚本に絡んでいるのが素晴らしい。映画ファンとゲームファンの真なる融和である。
リュウとケンの師匠・剛拳やその師匠・轟鉄に関するエピソードにかなりの尺を割き、つうか今回もリュウとケンは脇を固める若武者といったかたちで描かれるのだけれども、70年代のカンフー映画のような修行シーンから、ゲーマーならニヤリとするような動作・構えなど(丁寧にストⅢ3rdの動きまで!)ここまでトリビアルなディテールに拘ったジョーイ・アンサー監督はホンモノと見受けましたよ。去年に『ストリート・ファイターズ』とかいうパチモンタイトルに出演なさっていたらしいですが!
剛拳と豪鬼の兄弟の師匠・轟鉄に至っては「こりゃストリートファイターⅤに映画からの逆輸入あるで!」と思わしめるほどのキャラの立ち方とゴマシオっぷりに惚れ惚れする。波動拳を前転ジャンプで抜け、ラッシュに弱昇竜を組み込むなどの小技の効いたアクションの数々の中、渋く光るゴマシオ頭の渋い戦闘!
ぶっちゃけ剛拳主人公の物語なのであるが、この轟鉄無くしては剛拳豪鬼の背景は語れないし拠ってリュウとケンの波動哲学・問答も虚しくなってしまうのである。
ただ、いくら褒めても褒めても褒め足りんとは言い条、泣いて馬謖も斬らねば画竜点睛を欠くというもので、この映画、困った事に日本語と英語とカタコトの日本語がチャンポンなのである。純日本人(と、思わしき人)が喋る分には何とか分かるが、リュウが片言なのと字幕が出たり消えたりするのはやや疲れる。ゴウマ、とかいう謎のじじいが最初の方で字幕無しで喋っているのを見た時に何となく不安があったのだが、英語の中に無理矢理「ムシャシュギョウ」だの「サツイノハドウ」だの織り込んでいるのを見てエスニックを感じるかやや恥ずかしさを感じるか。ううむ無国籍、多国籍……。
そしてそのゴウマというじじいが笛でリュウのステージBGMを吹き始め、それがアレンジバージョンとなってかかるシーンがあるのだがそこが最高にかっこいい。おまけにゲーマーにお馴染み「殺意の波動に目覚めたリュウ」に関するサプライズもあって感涙に咽ぶ、てな事も別段無かったのだが、おおっ、とか、ああっ、とか、何故に? とか思ったのは事実で、それつまりどういう事かというと製作陣は続編作る気満々つう事で、今度クラウドファンディングのお話が出たら皆様ご協力をお願いしますお願いしますと波動拳のポーズしながら奏上する次第であります。チェイサー!
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20141017 │ 映画 │ コメント : 0 │ トラックバック : 0 │ Edit