【ネタ】強過ぎでNew World (ビーフシチュー)
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三番煎じでスミマセン <(_ _)>
第1話 蒼き魔神、始動
「くっ……うう……」
「……これで終わりだ、シュウ!」
サイバスターのディスカッターが深々とネオ・グランゾンの胸部に突き刺さり、それがシュウのいるコクピットまで届いている。そして、運悪く丁度ディスカッターの刃先が自身の腹部にも刺さっていた。
「ごほっ……! ごほっ……!」
肺に血が入ったのか息苦しそうに咳き込むシュウ。その口からは大量の血が噴き出ていた。
「み、見事です、マサキ……このネオ・グランゾンを倒すとは……――これで、私も悔いはありません。戦えるだけ戦いました……。全てのものは……いつかは滅ぶ。今度は私の番であった……ただ、それだけのことです……」
「シュウ……!」
長年の追い続けていた宿敵の独白に、マサキは何とも言えない感情が湧き上がっていた。
そんなマサキの感情を読み取ったのか、シュウは笑みを浮かべながら、
「ふっ……これで私も……全ての鎖から……――」
そう一度言葉を切り、はっきりと言った。その発言が彼の最後の言葉となったのだった。
「“シュウ・シラカワ”と、いう役柄からも解き放たれることが……出来……まし……た……」
「なっ、にぃ……? それは一体どういうk――」
マサキがシュウに疑問を投げ掛けるも、ディスカッターが突き刺さるネオ・グランゾンの胸部を中心にして閃光がほとばしり、彼の視界を白く覆った。
ネオ・グランゾンの機体が四散する。サイバスターの装甲に破片が当たる音が鳴り響いていた。そして、機体の動力機関の関係なのか全ての残骸が突如出現した“穴”へと吸い込まれ、跡形もなく消失した。
「…………こ、これで……終わった、のか?」
悲願であったはずが、シュウが残した最後の言葉を聞いてしまった所為で遣る瀬無い思いに駆られたマサキは俯いたまま、顔を上げることが出来なかった。
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自由であるとは、自由であるように呪われている事である。
フランスの哲学者 ジャン=ポール・シャルル・エマール・サルトル
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彼の意識は、闇の一部と化していた。
彼はうねり、蠢き、彼の意識を呑み込もうとする巨大な存在に対し、懸命に戦っていた。
久遠とも、一瞬とも思える時が過ぎ、彼の意識が一筋の光を捉え、ある少女の“声”を聞いた。聞いてしまった。
『どうか、どうか、タケルちゃんを……タケルちゃんを助けてくださいっ!』
そんな、何処にでも有り触れたような願いを聞き、何の力が働いたのか……彼は、よみがえった。
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以前経験した時と同じような、酷く気怠い気分の中、意識はゆっくりと覚醒した。
視線の先には見慣れたモニターがあるため、如何やらつい先ほどまで座っていたグランゾンのコクピットのようだ。
暫し自身の手を見つめ、閉じたり開いたりを何回か繰り返して感覚を確かめた後、大きく背伸びをする。
(やれやれ、『DARK PRISON』が始まるかと思いきや、全く別の世界線でよみがえることが出来るとは……。まあ予想外だったとはいえ起き抜けにルオゾールの顔を見るよりは遥かに増しですが……)
「――しかし、これで漸く呪縛から解かれることが出来ましたか」
天文学的確率で長年の色々な懸念事項に片が付いたことに安堵し、そうつぶやきながら、彼は搭乗しているグランゾンの計器類および現在位置をチェックしていった。
(――エルゴ領域展開、異常なし。プランク分布正常値。対消滅エンジン、出力異常なし。歪曲フィールド、展開率九七パーセントを維持。駆動系に関しても、異常は見られませんね)
次々と機体チェックを行なっていくが、特に問題を示す表示はない。
ただ、問題となるのは、
(特異点領域、ですか……)
この状態を保てば、『この世界』も『前の世界』同様に異星人などの襲撃を受け、異世界からの侵略もやってくる可能性が大だ。なので、対処しなければならない。
これまで、そういった危険性を含んでいることを知っていたにも拘わらず対処していなかったのは二つほど理由がある。自身が
まあそれも、ある戦いが切っ掛けで判明というか計測できたので、グランゾン心臓部の特異点を崩壊させるのは何時でもできるため追々遣ろうと思う。
「それにしても……」
目の前のモニターには、真っ暗い宇宙にちりばめられた星の光で埋めつくされ、それはまるで黒いキャンバスに白い絵の具をぶちまけたような、視界全てに満点の星空が広がっていた。
(ふむ、月面には異様な構造物が多数。これは既に『この世界』も異星人の襲撃を……――ッ!?)
遠く離れた場所に位置する月。地球から見上げるよりかは遥かに近いものの、そこには人間が造ったと考えるにはセンスも欠片も感じられないモノが建造されていたのだ。
ざっと月面全体をスキャンしただけでも数十個は確認でき、目視で見える範囲ですら十数個もの
(……技術レベルは其れなりで、一応『この世界』の人類も
破壊尽くされた人工物――
(あの生き物がいるということは……――やはり、ここは『あの世界』で間違いないようですね)
朧げに思い出せる観測知識ではここまで悲惨な結果は提示されていなかったはずだが……。
スキャン結果から見るに、最低でも『この世界』の太陽系は“奴ら”――BETAの支配領域になってしまっているのは確実なようだ。
ただ、グランゾンの力を持ってすれば、
しかし、ここまでBETAたちに犯された月をグランゾンによる力尽くで奪い返そうとすれば、その余波で月は確実に破壊される。そうなった場合、地球に掛かる影響を考えるだけで頭が痛くなってくる。
手間と時間を惜しまず丁寧に排除していけば十二分に可能だが……。
(地球に至っては……、当然ながら此方は此方でかなり深刻という訳ですか)
それは、月を挟んだ背後に存在する“母なる大地”を見て、シュウが感じた正直な感想だった。
地球はもう“青い地球”とは辛うじて呼べるかもしれないが、“緑豊かな地球”とは到底呼べない状態にまでなっていたのだ。
ヨーロッパ辺りから始まって、ユーラシア大陸の大部分が荒廃し、茶色くなっている。禿げっ禿げだ。そして、拡大されたモニターを見る限り、その荒廃した土地に月や火星など、他の惑星と同じような
その占拠されてしまった土地を囲むように、人工的な灯があることから考えて、人類は生き残りを掛けてBETA相手に戦っているようだ。
(ふむ……観測していたものとは違い、私の“虚憶”の中に朧げにですが『この世界』で生きていた――“実憶”があるみたいですね。なるほど、そういうことですか……)
「――しかし、迂闊には動けませんね。私の『この世界』に関する知識は、『前の世界』のと比べて完璧ではありませんし……取り敢えずは、これからの身の振り方です」
有する知識的に考えて今直ぐに人類が滅びてしまうことはないだろうと予想。“人類の危機”は脇へ置いておき、シートに凭れながら彼は苦笑いを浮かべ、そう染み染みとつぶやいた。
(まあ漸く呪縛から解放されたのです。先ずは特異点を崩壊させてから自由に行動して、一男性が夢見る人並みの幸せを……――いえ、その前に、この高エネルギーが非常に気になりますね。極々微量ですが、このエネルギー反応はトロニウムに近い。
……こうなってくると月は元より、相当時間は掛かりますが海王星から順次 星を壊さないよう慎重に、慎重を重ねながら巣を潰し、蒐集してから地球へと降りましょうか…………非常に面倒ですが放っておく訳にもいきませんし、ね)
そう言って、彼はグランゾンの前方にワームホールを開く。それにグランゾンが入ったと同時に、穴は閉じた。
あとに残されたのは静寂と、何億年と変わることのない暗い宇宙。
暫くすると、氷に覆われた岩石の核を持ち、厚い大気で覆われた海王星に存在する数多の
『この世界』の人類は知らない。これが『この世界』の戦乱を鎮め、新たな時代の幕開けとなることを――。
† † †
一九九八年 〇七月三一日 二一三七時(日本標準時)
日本帝国首都 京都府京都市下京区 京都駅より南西へ凡そ一三㎞地点――――
彼が『この世界』にいないというだけで、これほども世界が色褪せて見えるとは想像もしていなかった――。
あの
でも、彼の子を身ごもることが出来て、世界の情勢は如何よりも小さな幸せを噛み締めていたというのに……。なにが原因で意識のみが過去へと戻ってしまったのか未だに見当もつかない。
初めは今までの出来事が、何よりも身ごもった子供を取り上げられたことに失望していたのだが……。
ならば一からやり直せば良いと前向きに考え直し、そして、本来隣の家に住んでいたはずの彼が『この世界』にはいないことを同じ境遇であるらしい香月博士に教えられて絶望した。
香月博士は元より両親や叔父を筆頭にして周囲の人たちに心配されるほど、それこそ自殺する一歩手前まで追い込まれ、生きる気力を失っていたと言ってもいい。なまじもう二度と逢えないと思っていた彼に逢える、もう一度抱き締めて貰えると思ってしまっていたばかりに、その反動が凄まじかった。
しかし、そんな弱気な自分は彼に愛してもらう価値すらないと奮起し、未来知識などを生かし、肉体は衰えていたため死に物狂いで鍛錬を重ね続けた結果 天才衛士などといった身の丈以上の賛辞を受けるようになったのだが……。
時期は同じとはいえ、何故か『前の世界』以上の侵攻速度で九州からBETAがやって来たため、恐慌状態ながらも京都前面に防衛戦が急遽構築された。前回同様 訓練兵だった自分たちも繰り上げ任官し、嵐山仮説補給基地の防衛に就くことになった。
細部は多少異なるものの大筋は『前の世界』と何ら変わらない出来事が次々と起こっている。そのことを認識するたびに、何故自身にとっては一番大事であるはずの彼だけが『この世界』にいないのかということにドス黒い感情が湧き上がってくるが、もうそろそろ出撃しなければならないと、そこはグッと我慢する。
自分で言うのもアレだが、私という高い明確な目標があることで隊は以前に比べて格段にレベルが上がっていた。特に
それはもう死に物狂いで、BETAが蔓延る戦場を
途中までは順調にいっていたのだが、自身と違って皆は正真正銘の初陣だということを失念していたのが敗因だろう。BETAと戦った初陣の衛士が戦場で生きていられる平均時間である“死の八分”を超えたことに喜び、安堵し、慢心していた石見安芸が死骸の陰に隠れていた
その後退中に能登和泉が
ただ、誰が手配したのか『この世界』では帝国軍の増援部隊が駆け付けてくれ、隊の全滅は辛うじて免れたのだが、唯衣は遣る瀬無い思いに駆られていた。ここまでの展開を知っていただけに、その思いは一入だ。
そういった想いもあり、増援部隊も含めた中で一番機体の損耗率が低かったのもあったため、反対する上総や甲斐志摩子を説得し、BETAに対する陽動を志願した。その結果、初めは難色を示していた中隊長だったが、天才衛士と呼ばれていたことやこれまで見せられた技量、そして、議論する時間も惜しかったため許可された。
陽動は問題なく進み、通信では「初めての実戦にしては非常に良い働きだ」と、中隊長からも賛辞を受けるほどの余裕さえ部隊内で流れていた。
ところが、突如として自身と部隊を分断するように
一瞬気が緩んでいた所為なのか、余りにも想定外の事態に動揺した唯衣。搭乗するType-82F瑞鶴は、真っ正面から体当たりをする形になってしまったために全壊してしまった。
当たる瞬間に機体をスライドさせたから良かったものの後一瞬でも判断が遅れたり、少しでも躊躇したりしていたら、確実に装甲板や機材などに押し潰されて圧死していただろう。
それでも、この状況では一時的に助かっただけであり、死ぬまでの時間がほんの数分伸びただけの違いしかないのだが……。しかも、運の良いことに脱出も無事に成功し、周囲にBETAはいなかったものの軟着陸にだけは失敗してしまい強化外骨格は使用不能になってしまった。
「結局 道筋は違っても、この結果になるのね……」と、呆れ半分、外には無数のBETAがいることを想像し、唯衣は恐怖の余り震えるが、気を取り直して体を落ち着かせるために、一度シートに体を預けてから『前の世界』や『この世界』で培ってきたことを反芻していく。
部隊との連絡は付かないが、一応救難信号は出した。それに墜落する前に見たレーダーでは距離的に考えて無事に京都駅、集積所へ着いているころのはず。その場所まで徒歩で行けない距離ではないが……。
重金属粒子防護のためのヘルメットを着用し、唯衣は意を決して管制ユニットから飛び出した。
そして現在 BETAが蔓延る中、彼女は強化装備のまま戦闘区域からの離脱を試みていた。
バイザー越しに、本来なら綺麗に見えるだろう紫色の瞳は恐怖に色濃く染まっており、ヘルメットのクッションからのぞく濡羽色の綺麗な黒髪も乱れ、汗で白い肌に張り付いている。その美貌に相応しい魅力的な体――年齢不相応に大きい胸の持ち主である彼女を目当てに声を掛ける男も多いことだろう。
しかし、未だ年若い一四歳の少女なのだ。このような世界でなかったら、勉学に励み、同級生たちと談笑し、好きな人の話で盛り上がったりと青春を満喫しているはずなのだろうが……。
時おり粉砕されたコンクリートの破片に足を滑らせ、無造作に地面へ開けられた穴に躓く。それでもなお、もつれる足を懸命に立て直して一心不乱に唯衣は駆け続けていた。
すぐ側で、手招きしている死神から逃れるために――。
小型種BETAの対人探知能力は極めて高く、動きが俊敏だ。見付かった場合 人間の足では逃げることも出来ず、たとえ抗戦したとしても、ほぼ気休め程度に装備している自動拳銃や対人軍用ナイフしかない状態では“焼け石に水”だ。強化外骨格があれば話は変わってくるのだが……。
強化装備はある程度の衝撃を緩和してくれるとはいえ、
その光景を鮮明に想像できてしまう自分に、唯衣は似合わない舌打ちをする。目もくらむような恐怖。その恐怖から逃れるために、唯衣は駆け続けていた。
何時もだと然程重さを感じない片手でだって持てる自動拳銃だが、今日に限って豪く重く感じる。距離もそれほど走っていないにも拘わらず、息が非常に苦しい。心臓の鼓動が痛いほどだ。微々たる重さしかないはずの予備弾倉でさえも、今ではただの重しにしか感じなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
建物の壁で身を隠し、唯衣は肩を上下させて呼吸を繰り返す。頬をつたった汗が、顎にかかる手前でヘルメットのクッションに吸収される。
絶体絶命の状況の中、思い出すのは楽しかった時期の思い出ではなく、自分が鮮明に“死”を想像できてしまう原因である『前の世界』の上総が、自身の不手際の所為でBETAによって無惨に生きたまま食い殺されていく光景が頭を過ぎっていた……。
その光景に自身を置き換えてしまい、泣かないと決めていたのだが、肉体に精神が引っ張られているのか自然と唯衣の目から止め処なく涙が溢れてきていた。
あの惨たらしい光景は、今でも忘れられない――。
人間とクモを足したような全長四メートルほどの体躯に赤黒い皮膚を持ち、下腹部に人間の口と良く似た器官を持った異形の怪物、
でも、『この世界』の上総や志摩子は未だ生きている。そう思えるだけで、唯衣の体の奥から熱い何かが込み上がって来ていた。
(――私はまだ死ねない! こんなところで死んでいたんじゃあ、あの人に、シュウ兄様に顔向けなんて出来ないんだから……!)
何故かBETAの物量および進軍スピードは明らかに『前の世界』を凌駕しているのだが……。今考えれば、先ほどは後退戦中から明らかに油断していた。
安芸と和泉は死んでしまったが、上総や志摩子は生きている。しかも、『前の世界』では来なかった増援部隊もいたので今回は無事に後方まで下がれると、戦場だというのに愚かにも程があるほど浮かれていたのだ。
強くなった積りでいた唯衣は自身の無力さを悔い、無意識の内に力強く拳を握っていた。
周囲からは戦場でしか聞くことが出来ない数多な音が響いていた。遠くの方から聞こえる機銃の掃射音や、劈くようなジェット音、火薬の爆発する音、破壊される建物の音。
そして、――臭い。
今 唯衣が置かれている状況で、決して嗅ぎたくはなかった臭い。
硫黄にも似た独特の臭気がしたと思っていたら、空気を切り裂くような音と共に身を隠していた壁に大穴が穿たれた。壁を貫通した穴から微かに見える赤黒い皮膚。憎き
「――ッ!?」
すぐさま唯衣はそこから飛び出して全速力でその場から離れるが、背にかなりの衝撃が掛かり、自分の意思とは関係なく冗談のように体が宙へと舞い上がった。
受身も取れず、まともに地面に叩きつけられ、そのまま路面を転がり建物の壁に勢いよくぶつかって漸く止まった。
「が……ッつぅ……はっ!」
衝撃で上手く呼吸が出来ない。口から血が吐き出される。体のあちこちが軋み、すぐには動くことが出来なかった。どうやら殴られたようで、呼吸するたびに胸が痛いので骨が折れたのかもしれない。幸いなことに手足は動くので首や背骨に損傷はないようだ。
それでも、まだこの程度で済んで運が良かった。
但しそれは、この目の前にいるだろう
BETAに見付かって運がないと言えばいいのか、それとも一匹だけしか確認できないことを幸運だと思えばいいのか、唯衣には判断できそうになかった。
何んとか体を起こすと案の定、一匹の
唯衣は恐怖に体を震わせながら、身構える。――と、同時に
「くぅ……!!」
小型種の中でも特に耐久力の高い
なので、両手で構える自動拳銃で的確に
《 カチンッ…カチンッ… 》
――と、いう鈍い金属音がするのみで、銃弾は一向に発射されなかった。
「た、弾切れ……っ!?」
すでに予備の弾倉も全て撃ち尽くしていた。
「……ぅ……ぁ……ッ……!」
全身に冷たい汗が伝う。唯衣は死の恐怖に全身を震わせながら、迫り来る
唯衣の脳裏に浮かぶのは、自身の全てを捧げた愛しい人の顔――。
(……シ…………ュ……ウ、にい……さま……ッ!)
――と、諦めかけた瞬間、直下してきた槍のような光が、ゆっくりと迫って来ていた
唯衣は一瞬何が起きたのか解らず、唖然としていた。
その光景に驚愕しながらも、光の槍が頭上から落ちてきたことを思い出し、唯衣は上空を振り仰いだ。
「あ、ぁあ、あれは……まさか……!」
すると、空には見慣れた無数の“穴”が開いており、そこから光の槍が四方八方に放たれていく。おそらく唯衣を追っていた他のBETAなどに向けてのものだろう。
周囲にいたBETAを殺し尽くしたのか、空には一際大きな“穴”が突然開き、そこから蒼い巨人がゆっくりと此方に向かって降下してきたのだ。
常識的に考えて有り得ない登場の仕方と巨人から発せられる魔神のような、BETAとは又違った禍々しいイメージを連想してしまうが、唯衣は何ら不思議がる様子は見せず、『この世界』に来て初めてとも言えるほど満面の笑顔を浮かべていた。例えるなら満開の花が咲いた時のように、擬音でいうとパアァァァ……と、いう感じだ。
唯衣は痛む体を押し殺し、その蒼き魔神――グランゾンへ向かって、
「――シュウ兄様ぁッ!」
愛しい愛しい彼の名を、力の限り叫ぶのだった――。