前三回の記事を総括します。
「インフレにすることが日本経済の回復策」とする論者(≒いわゆるリフレ派)は、デフレが日本経済の成長率を引き下げているとしています。10月15日に公表された米財務省の"Report to Congress on International Economic and Exchange Rate Policies"(為替報告書)にも、同様の見解が見られます。
The “three arrows” of Prime Minister Abe’s economic program have been a forceful attempt to escape from persistent price deflation, which has in turn hindered economic growth.
しかしながら、デフレに突入した1990年代末以降、実質成長率はむしろ上昇しています。デフレ中の2002~2007年の実質成長率は年率+1.8%です。2002年1月~2008年2月は史上最長の景気拡大期(73ヵ月間)でもあります。
同時期には鉱物性燃料輸入の増大という成長率引き下げ要因があったことを考慮に入れると、デフレが低成長の主因という仮説は、ほぼ棄却されます。
1980年代以降を振り返ると、インフレ率急低下には円高の寄与が大きかったことが分かります。1990年代末からのデフレは、円高に
が加わったことで生じたと考えられます。
2011年3月2日の衆議院財務金融委員会における白川日本銀行総裁(当時)の発言
日本とアメリカのインフレ率の違いというものを過去十数年間分析してみますと、九割方が財ではなくてサービスでございます。
サービスの値段がなぜ下がっているかということ、もちろんいろいろな要因がございます。そのうちの一つの要因として、サービスというのは、これは御案内のとおり、労働集約的な活動が多いということで、賃金の影響を大きく受けるわけでございます。
要するに、デフレは成長率低下の原因ではなく、結果に過ぎないということです。
現実の経済データからはこのような結論が導かれるにもかかわらず、「日銀のデフレ政策が諸悪の根源」説に固執する人が多い理由ですが、
- 現実よりもモデル重視
- 認知バイアス
ではないかと推測されます。一旦「よくできたモデル」を信じ込む→その「確信」を正当化する心理が働く→異論は排除する(攻撃的になる)、ということです。
おそらく、そのモデルの源流は、デフレ本格化の前にクルーグマンが提案したものなのでしょうが、当のクルーグマンはとっくの昔に「ゼロ金利ではマネタリーベースを増やしても無意味」と転向しているだけでなく、次のように書いています。
Now, I understand that busy people can’t keep track of everything, and even that you can sometimes be a successful money manager without reading up on monetary economics. But if you’re one of those people who don’t have time to understand the monetary debate, I have a simple piece of advice: Don’t lecture the chairman of the Fed on monetary policy.
日銀総裁をデフレと成長率低下の主犯と糾弾していた人たちは、きっと多忙なのでしょう。*1
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*1:最近は多忙のためか、声が小さくなっているようです。