国際報道2014

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[BS1]月曜〜金曜 午後10時00分〜10時50分

特集

2014年10月16日(木)

武器輸出三原則見直し 最前線で何が

今年4月、日本の武器輸出三原則が見直され、これまで事実上禁止されてきた武器やその技術の輸出が一定の条件のもとで認められることになった。NHKはアメリカのロッキード・マーチン社を取材。そこではアメリカなど9カ国が共同開発する次世代戦闘機F35で、機体の一部を日本企業が製造する計画が進んでいた。三原則の見直しは、国内の中小企業にも影響を与えている。国の政策を後押しに、新たに軍事市場への進出をめざす動きがある一方、軍事転用を恐れ、輸出管理を強化する企業も出てきている。武器輸出三原則の見直しから半年。現場でいま何が起きているのか伝える。
出演:佐藤丙午(拓殖大学国際学部教授)

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加藤
「先ほど、江渡防衛大臣は、日本を訪れているオーストラリアのジョンストン国防相と会談しました。
オーストラリアが潜水艦の導入計画にあたって日本に技術協力を求めていることを受けて、日本としてどのような協力ができるか検討を進めていくことで一致しました。」

有馬
「こうした動きの背景には、これまで武器や技術の輸出を原則禁止としてきた『武器輸出三原則』が今年(2014年)4月に見直されたことがあります。
政府の新たな方針『防衛装備移転三原則』では、紛争当事国などでなければ、厳格な審査のもと、武器や技術といった防衛装備の輸出を認めることにしたんです。
これは歴代政権が例外的に武器の輸出を認めてきた国際社会の平和貢献や、同盟国などとの防衛協力の強化を目的としています。」

加藤
「三原則の見直しから半年。
国内外で今、何が起きているのか、現場を取材しました。」

“武器輸出三原則” 見直しから半年

アメリカやイギリス、イタリアなどが次期主力戦闘機とする、F35です。
今回、日本も生産の一翼を担うことになりました。





F35は、9か国が共同で開発しました。
その生産も各国が部品を融通し合う国際的なシステムになっています。
日本企業は、まず自衛隊向けに部品の製造や機体の組み立てを担当すると計画されています。
しかし将来的には、日本製の部品も、国際的なシステムに参加することが期待されています。



開発の中心担うロッキード・マーチン社 ジョエル・マローン氏
「日本にはまず自国向けの機体を製造してもらいます。
その後は世界に部品を供給してもらう機会も探りたいと考えています。」





三原則の見直しを追い風に、新たに海外の軍事市場に参入しようとする企業も出てきています。
フランスで6月に開かれた、武器や警察装備の見本市です。





東京の中小企業が開発した、携帯型サーチライト。
1.5キロ先の目標を照らすことができます。





フランス軍需企業
「アフリカの部隊から日本製の装備を輸出してほしいと言われている。」






社長の深澤篤(ふかざわ・あつし)さんです。
展示会では、中東やアフリカなどから100社以上の名刺が集まりました。

ジャパンセル 深澤篤社長
「これ見て『いいね』って。
手応えは感じています。」





深沢さんの会社では、もともと医療機器や半導体などに使うガラスの特殊加工を手がけてきました。
しかし6年前のリーマンショックで業績が一時的に落ち込み、生き残り戦略として、軍や警察向けの市場参入を決めました。



ジャパンセル 深澤篤社長
「仕事は実際に減っています。
この業界がダメになっても、別の業界で仕事を継続できるよう、違う新しいことを選択しなければいけない。」




今年8月、深沢さんはトルコでの商談に臨みました。
軍事市場への参入を決めた矢先に三原則が見直され、絶好のチャンスになるととらえています。
商談先は、軍などに制服や防弾チョッキを販売するトルコの商社です。

トルコの商社
「いいね、すごく軽いね。」

商社側は、トルコ以外の国でも販売する権利がほしいと要求しました。



トルコの商社
「シリア、イラク、イラン、アゼルバイジャン、マケドニア、今はウクライナの市場が熱いです。」

商談の結果、まずはトルコ警察を中心に売り込むことが決まりました。
年間3億円の売り上げを目指します。


ジャパンセル 深澤篤社長
「(三原則の見直しが)追い風ではある。
法律の範囲内でできることをやる。」





一方、軍事市場への流出を懸念し輸出管理を厳しくしている会社もあります。
無人ボートを製造するメーカーの社長、幸田耕二郎(こうだ・こうじろう)さんです。
ボートを輸出する際には現地に足を運び、軍事転用されていないか直接確認しています。




このメーカーが製造する無人ボートは、コンピューター制御で自律航行します。
水中の地形を超音波で調べ、データを無線で送信。
ダムなどの測量に使われています。
輸出先を直接確認するようになったのは、ここ数年、思わぬ国からの問い合せが増えたからでした。
イスラエル、リビア、イランなど、世界中からメールが届きます。
紛争やテロに使われれば、企業イメージに大きな傷がつくと、警戒しています。

コデン 幸田耕二郎社長
「もし本当に軍事転用されると、我々としては怖いので。
爆弾みたいなものとか載せてくることが考えられるので。」





この会社では輸出したあとも年に一度、メンテナンスで製品を回収しています。
勝手に改造されていないか、チェックを徹底するためです。
しかし先月(9月)、思いもよらない事態が起きました。
聞いたことのないチリの企業から、突然、修理の依頼が来たのです。
メールには、以前ボートを輸出した企業から分社した会社だということが記されていました。
その会社のホームページを開こうとしたところ…。

コデン 幸田耕二郎社長
「開かない。」

この日、メールに記された連絡先を確認することはできませんでした。



コデン 幸田耕二郎社長
「いきなり何も言わないでこんなメールがきて、わからないよね。」

「一回戻してもらって、検査した方がいいのかなと思うんですけど。」

いくら対策を徹底しても起きる不足の事態。
軍事転用を防ぐ管理には、終わりがないといいます。

コデン 幸田耕二郎社長
「知らないところに行ってしまうのは、怖いですね。
軍事目的に、想定していないところで使われるのは、大きな企業リスクを感じています。」


新たな三原則 何が変わったのか

加藤
「スタジオには、各国の武器輸出政策や輸出管理に詳しい、拓殖大学の佐藤丙午(さとう・へいご)教授です。」

有馬
「ここまで来たかというか、大きく踏み出したなというか、正直驚きの気持ちがあるんですけど、こうも一気に進んだわけというのはどういうことなんですか?」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「大きな流れとして、VTRにあった共同開発や、国内の防衛基盤を維持するためという背景があります。
ただ最大の要因は、防衛装備品の輸出に関して政府が積極的な姿勢を取り始めたいうことがあると思います。
防衛装備品移転の三原則自体は、これまでの武器輸出三原則及び、その元にあった例外化措置を単一の政策のパッケージにまとめたものに過ぎません。
どういう場合に輸出ができ、どういう場合に輸出ができないかということを明確にしたもので、これまでの政策と実質的にはそれほど大きな変化はないというふうに思っております。」

有馬
「運用の問題だということですか?」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「まさにその通りです。
やはり、大きな転換点という意味では、VTRにありましたF35の共同生産への参加と外交防衛政策のために武器を積極的に輸出するんだということに関する政府の強い意志というものが出てくるようになったことがあるんじゃないでしょうか。
実際には、防衛産業側の方から、この急速な転換について、輸出して本当に問題ないのかということに関する、戸惑いの声もしばしば聞くことがあります。」


新たな三原則 課題は

有馬
「企業の方が戸惑うばかりの変化の大きさですから、課題も多いってことになりますよね?」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「最大の課題は恐らく何をどこに輸出するのかということについて、外交安全保障政策上の位置づけがまだ明確になっていないということがあるんだろうなと思います。
これは例えば海外の事例を見てみますと、最近アメリカがベトナムに武器輸出をすることを決めましたけれども、どういった武器を輸出し、どういったその後のフォローをするのかということについて、相手国の必要性、そして相手の能力支援のあり方などを計算した上での決定だったと思います。
武器輸出というのは時の政権が抑制的にも、積極的にも使うことができる手段でありますので、そこにおいては運用というものが非常に重要な意味をもってくると思います。
これは戦略をもって取り組まなければ、いったん技術を輸出すると、そのまま今度その技術が拡散して、逆に日本の安全保障に大きく影響を及ぼすという事態も考えられますので、そこは政策、戦略をもって進めるべきだというふうに考えております。」


軍事に転用できる“汎用技術”は

加藤
「これまで防衛産業に関わりがなかった企業の参入もありました。
こういった一般の技術も軍事に使われていく、そんな時代になっていくんでしょうか?」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「やはり海外から日本を見ていると、日本の技術力に対する評価というのは非常に高いものがあると思います。
しかし、日本から輸出が進む防衛装備品というのは、恐らくライセンス生産品を除けばですね、戦闘機や戦車などの完成品ではなく、部品を含めた汎用技術にあることは間違いないと思います。
やはり、日本の武器は実戦経験がありませんし、製造のコストも非常に高いものになっております。
恐らく議論の余地があるとすれば、汎用技術を軍事目的で輸出する場合の、三原則の運用のあり方というのが非常に重要になってくると思います。
経産省からはですね、何を武器とし、また武器技術とするのか、その定義は非常にあいまいであると、そして、また輸出相手のリスク評価をしないまま、またそれが不十分なまま輸出されることの問題ということが時々、指摘されますけれども、そういうリスク評価をきちっとしないまま、積極的な推進をするというのは、日本の政策にとって好ましくないことであろうというふうに考えております。」


輸出管理のあり方は

有馬
「VTRにありました、民間の技術を軍事に転用する時に、無人ボートの企業のように、自社でトレースをしてフォローしていく、管理してく、なかなか大変な話ですね?」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「今、VTRを拝見しておりまして、ボート会社が自社で管理を徹底しようとする姿勢というのは非常に素晴らしいことだと思います。」

有馬
「しかし、民間1企業が世界中を追いかけるというのは、大変ですよね。
現実的なんでしょうか?」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「おっしゃる通りです。
これはやはり、このボート会社がですね、比較優位を持っているが故にできることであろうと思います。
やはり、他の会社に同じことをやれというふうにいっても無理でしょうから、これはやはり顧客の問題になりますので、そういう顧客にコストをかけるということは、なるべくしたくないと考えるのは企業の本音だというふうに思います。
実際は武器の輸出と、輸出管理というのは一連の行為と考えるべきでありまして、その中でやはりこの部分は日本政府が積極的に乗り出して管理を強化していくべきだというふうに思っております。
やり方としては、契約で現地確認を義務づけるであるとか、また輸出先の国に遠隔な管理の運用を依頼するであるとか、さまざまな手段があると思いますけれども、やはりどれも決定的ではないというふうに思いますので、さまざまな手段を組み合わせて、重層的に行っていくというのが好ましいやり方なのではないでしょうか。
その中で、現地査察ということをオプションとして、選択肢として考えるのも1つの考え方だというふうに思います。
いずれにせよ、新たな三原則をどのような戦略のもとで運用し、技術を管理していくのか、これから議論が求められているところであると思います。」

有馬
「輸出が先行しましたけれども、議論は尽くさないといけないですね。」

拓殖大学教授 佐藤丙午さん
「おっしゃる通りです。」

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