作家の柳美里さんが、出版社による原稿料不払いをブログに書き込んだことが話題となっています。経営が苦しく、払いたくても払えないということのようなのですが、出版業界の実情はどうなっているのでしょうか。
柳さんは、自身のブログで、雑誌「創(つくる)」の連載を休載したことを明らかにしました。滞っている連載の原稿料について支払いを求めたところ(柳さんによると何年も支払われていないそうです)、次に出版する本が売れないと支払いのメドが立たないという回答だったため、やむを得ず休載を決断したということです。ネットでは出版業界ってそんなにひどいところなのか?と驚きの声が上がりました。実際、このような状況になっている出版社は少なくないというのが現実です。
日本における出版市場は1996年をピークに毎年減少し続けており、現在はピーク時の6割(約1兆7000億円)まで縮小しています。日本の出版業界は市場規模に対して事業社数が多いという特徴があり、中小零細の出版社が数多く存在しています。
出版は典型的な多品種・少量生産で、そもそも効率の悪いビジネスです。最近ではネット書店がシェアを伸ばしているとはいえ、全国津々浦々の書店まで一冊ずつ配本しなければなりません。このため、出版業界は取次(とりつぎ)と呼ばれる卸会社が流通をほぼ独占する形となっており、他の業界に比べて支払いまでの期間が長く、出版社は厳しい資金繰りが要求されます。出版業界は、市場が縮小しているにもかかわらず、新刊本の発行点数が増加しているのですが、その理由は、とりあえず新刊を出さないと資金繰りがつかなくなるからです。新しい本が出ないと原稿料を払えないという話はあながちウソではないでしょう。
こうした経済的事情に加え、古い業界体質がさらに状況を悪化させています。出版業界には「文化の担い手」という意識があり、金銭面など細かい話をせず、口約束だけで仕事を進めてしまうという風潮があります。古き良き時代には、作家先生が、自分がいくら稼いでいるのかも分からないまま、原稿料を出版社から前借りして飲みに繰り出す、といったこともできたのですが、今は時代が違います。