多摩動物公園(東京都日野市)東京ガス/ライオンに優しいCNGバス

多摩動物公園(福田豊園長)のライオンバスは、車に乗って移動しながら自然に近い環境で動物を見るサファリパーク方式を、世界で初めて導入したバスである。今年5月に誕生50周年を迎えた。同園は環境への配慮を重視しており、3台のライオンバスと園内を走る3台のシャトルバスには、環境に優しい圧縮天然ガス(CNG)車を採用している。ライオンバスの天然ガスは東京ガスが供給している。(林 健)
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◆サファリパークの先駆け
多摩動物公園は1958年に開園した。6年後の64年に誕生したのがライオンバスだ。林寿郎初代園長のアイデアである。林氏はアフリカを訪れてサバンナに暮らす動物たちを見たことがあった。その経験から、動物園でもサバンナに似た広々とした場所にいるライオンをバスに乗って見に行く形にすれば、より生き生きとした姿を見てもらえるのではないかと考えたのだ。
前例がない試みだけに、反対意見も多かった。「なぜ危険な場所に人を入れるのか」「バスが故障したらどうするのか」等々。林氏らは上野動物園のライオンで実験を行いながら、問題を1つひとつクリアしていった。ライオンの習性、能力、バスの強度などを慎重に検討して安全に問題がないことを確認、ライオンバスの運行を決定した。
完成した初代ライオンバスは、窓に厚さ10㎜の強化ガラスを2枚張り合わせたものを使用。後部には扉を設け、万一故障の場合は別のバスの扉と密着させて乗客を救助できるようにした。
運行を開始したライオンバスは、爆発的な人気を呼んだ。わずか2年で累計乗車数100万人を突破。88年に1000万人、今年2月には2000万人を達成した。今も入園者の3人に1人、年間30万人以上が乗車する人気プログラムだ。休日には1時間待ちということも多く、開園と同時に父親が園内の坂道をダッシュして順番取りをする涙ぐましい光景も見られるという。
ライオンの見せ方は試行錯誤を繰り返して変化してきた。現在はバスの窓枠に馬肉をぶら下げておき、食べる様子をガラス越しに見られる方式にしている。また、「牛骨台」を4カ所に設けており、ライオンが牛骨を食べる様子も見られる。
現在飼育しているライオンはオス5頭、メス11頭の計16頭。ライオン同士の相性もあり、一度に運動場に出すのは最大9~10頭にしている。
ライオンバスは評判を呼び、その後国内外にこれを模倣したサファリパークが次々と生まれた。サファリ方式というアイデアが優れていた証拠であろう。
◆2000年からCNGバスに
現在のライオンバスは5代目である。3代目までがディーゼル車、00年に運行を開始した4代目以降がCNG車だ。
多摩丘陵の起伏を生かして作られた多摩動物公園は、園全体が里山ともいえるような緑豊かな施設だ。それだけに環境配慮は重視しており、施設の壁面・屋上緑化や太陽光パネルの設置など、さまざまな取り組みを行っている。CNG車の採用はその一環と言える。
00年当時、東京都の石原慎太郎知事は「ディーゼル車NO作戦」を掲げていた。多摩動物公園も都の施設であり、子どもたちを含め多くの人が訪れる。特にこのような場所は低公害車を導入すべきだということで、ライオンバス、シャトルバスを窒素酸化物(NOχ)、粒子状物質(PM)の排出が少ないCNG車に切り替えた。黒煙を出さず運転音も静かなCNG車は、ライオンにとっても優しい車と言える。
ライオンバスは3台。いすゞのトラック(フォワード)をベースに改造したものだ。通常はこのうち2台を使うが、混雑時には3台を使うこともある。燃料の充填は小型昇圧装置を使って運行終了後に行っている。
バス乗り場は、ライオンが入れないよう密室構造になっている。ディーゼル車を使っていた時代は黒煙がこもるため換気扇を回しっ放しにしていたが、CNG車にしてからはその必要はなくなったという。