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 日銀が異次元緩和に乗り出して1年半。目標である物価上昇率約2%の実現に向けた道筋は必ずしも黒田東彦総裁のもくろみ通りには展開していない。一部の大企業でこそ賃上げの動きが見られるが、大きな流れにはなっていない。4月の消費増税で鈍化した消費の回復の足取りも重い。8月下旬から10月上旬にかけて円安が一時、大幅に進むなど、輸入インフレの懸念も強まっている。

 近著『アベノミクスの終焉」で、「異次元緩和は全く効果を上げていない」と厳しく指摘する福井県立大学経済学部の服部茂幸教授に今の日本経済をどう見ているか聞いた。

(聞き手は石黒 千賀子)

このほど出版された『アベノミクスの終焉』で、日銀の黒田東彦総裁による異次元緩和は全く効果を上げていない、と厳しく指摘されています。改めてご説明いただけますか。

1964年生まれ。88年京都大学経済学部経済学科卒業。96年京都大学博士(経済学)、2001年福井県立大学経済学部助教授、2007年より福井県立大学経済学部教授。専門は理論経済学(金融政策)。
新自由主義の帰結 ―なぜ世界経済は停滞するのか』、『危機・不安定性・資本主義 ―ハイマン・ミンスキーの経済学』『金融政策の誤算 ―日本の経験とサブプライムの問題』『貨幣と銀行 ―貨幣理論の再検討』など著書多数。(写真:達川 要二)

服部氏:9月8日に政府は今年4〜6月期の実質GDP(国内総生産)をマイナス7.1%(年率換算)に下方修正しました。今年1〜3月期のGDPがプラス6%(同)と非常に高かったのは、消費増税をにらんだ駆け込み需要が大きかったからで、4〜6月期にその反動減が生じるのは当然ですが、その落ち込みは政府の想定以上に大きい。この落ち込みが4〜6月期だけで終わって、再び回復すれば問題はありませんが、消費の回復はやはり非常に遅い。

 10月1日に発表された日銀の短観(全国企業短期経済観測調査)を見ても、大手製造業は円安効果で多少よくなっていますが、特に小売り、消費の伸びが悪いことがはっきりしてきたわけで、日本の景気の足取りはかなり危うい。私が指摘したような方向に進んでいる、ということです。

2013年上期の成長率、アベノミクス効果か疑問

つまり、異次元緩和が全く効果を上げていない証拠だと…

服部氏:そうです。安倍晋三首相が政権を取ったのは2012年12月。日本経済はその直後の2013年上期に4%超の高い経済成長率を記録しました。しかし、私はそもそもこれがアベノミクスによる効果だったのかという点を疑問視しています。

 というのも政府は暫定的な認定ながら、景気の下降から上昇への反転の時期である景気の谷を2012年11月としています。2012年5月に始まった景気後退がわずか7カ月で底入れしたわけで、安倍政権が発足した時には既に景気回復が始まっていたということです。

 だいたい政権を取って政策を実行しても、効果が出るのには当然、時間がかかります。ですから2012年終わりから景気がよくなったといっても、それがアベノミクス効果であるかどうかは甚だ疑問と言わざるを得ません。


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