後藤遼太
2014年10月17日06時32分
中東の過激派組織「イスラム国」に参加しようとした北海道大生を警視庁が事情聴取した。容疑は「私戦予備・陰謀」。聞き慣れない罪名だ。警察庁によると、これまでに強制捜査の記録は無いという。異例の法適用に学者も驚く。
「化石みたいな条文を出してきたので、びっくりした。大学でもほとんど教えられていないのでは」。司法試験委員を長く務めた首都大学東京法科大学院の前田雅英教授(刑法)は驚く。
刑法93条の私戦予備・陰謀罪は、日本政府の意思とは無関係に戦争の準備をすることを禁じる規定だ。処罰されるのは準備をした場合のみ。準備を終えて戦い始めたときは、処罰の対象外になる。
起源は1880(明治13)年にできた旧刑法にさかのぼる。当時は国の交戦権が認められており、旧刑法は国の戦争以外の私的な戦闘行為(私戦)を禁止。準備にとどまった場合は減刑するとしていた。現行法(1907年)に改正する際、「国内で私人が外国と戦争するのは想像できない」と議論になり、準備だけを禁ずる条文になった。
戦後、日本国憲法が制定され「国権の発動たる戦争」は禁止されたが、刑法の条文はそのまま残った。
刑法の歴史を研究している神戸学院大法科大学院の内田博文教授(刑法)によると、由来は19世紀フランスのナポレオン諸法典。「『戦争をする権利は国家だけが持つ』という理念を表している。珍しいと感じるかもしれませんが、近代国家の刑法では、実は常識的な条文です」と説明する。
何をしたら「予備」なのか。専門書では「兵器、弾薬、兵員の調達」などと説明されることが多い。内田教授は「国家に戦争を仕掛けるのだから、一定規模の人数で組織的に企てることが前提とすべきだ」。
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朝日新聞社会部
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